沖縄県の伝統的な酒「泡盛」を列車内で楽しむ「琉球泡盛号」が8月8日、吹田市などを走る大阪モノレールで初めて運行された。県内46の酒造所から選定した6銘柄の個性豊かな泡盛が並び、満席となった130人が飲み比べながら、その奥深さにふれた。(佛崎一成)

午後2時過ぎ、万博記念公園駅に「琉球泡盛号」が到着。事前販売されたチケットは即日完売する人気ぶり。この日を待ち望んでいた参加者が続々と乗り込んだ。
窓を背に向かい合うロングシートの間には長テーブルが配置され、車内はまるで食堂車。普段は通勤・通学客を乗せて走るモノレールが、この日ばかりは宴の場に姿を変えた。
テーブルには、オーク樽で熟成させウイスキーを思わせる風味に仕上げたものや、さわやかなシークワーサー、コーヒーと組み合わせたものなど、従来の泡盛のイメージとはひと味違うボトルが並んだ。
まずは沖縄の海を思わせる青く透き通ったボトルの「紺碧5年」を氷の入ったカップへ。参加者全員でグラスを掲げ、「乾杯!」の声を車内に響かせた。
「強い酒」のイメージを変えたい
今回の泡盛列車。きっかけは大阪モノレールで各地の酒を楽しむ「日本酒列車」が運行されていたことだった。「泡盛でもできないか」と沖縄県大阪事務所が泡盛の新たなファンを増やすために企画した。
背景には、泡盛を取り巻く厳しい現状がある。全国的に若者のアルコール離れが叫ばれるのに加え、沖縄でも若い世代が地元の泡盛よりハイボールを選ぶ光景が珍しくない。
同事務所の新里雅恵所長は「現代の泡盛は、造り手の情熱と技術の進化によって、本当に繊細で豊かな表情を持っています。いまだに根強く残る『強くてクセのあるお酒』という古いイメージを、私たちは今、新しく塗り替えたいと思っています」と話す。
王府が守った「御用酒」
泡盛には約600年の歴史がある。琉球王国時代には王府の管理のもとで「御用酒」として造られた泡盛は非常に高価な高級品で、賓客の歓待や外交の場に使われたり、江戸幕府への献上品にもなった。
中でも泡盛ならではの文化が「古酒(クース)」だ。長く寝かせるほど香りや味わいがまろやかになり、戦前には100年、200年と受け継がれてきた古酒が存在した。19世紀に琉球を訪れた米国のペリー提督も「まろやかに熟していて、まるでフランスのリキュール(ブランデー)のようだ」と日本遠征記に記録し、その芳醇な味わいを絶賛している。
しかし、1945年の沖縄戦でその貴重な古酒の多くが失われてしまった。

戦後は原料や設備が⼗分にそろわず、⽶軍統治下ではウイスキーなどの洋酒⽂化が広がった。こうした時代に飲まれた『強い』『クセがある』という印象が、泡盛のマイナスイメージとして尾を引いている面もあるという。
沖縄が1972年に本土復帰して以降、酒造所は品質向上を重ねてきた。現在では昔ながらの力強い味わいだけでなく、香りが華やかなもの、すっきり軽やかなもの、樽で熟成させたウイスキー風の味わいなど個性豊かな泡盛を誕生させている。飲み方も水割りや炭酸割り、練乳割りやカクテルなど楽しみ方も広がってきた。
弁当箱にも〝沖縄〟ぎっしり
そんな歴史に思いをはせながら、列車内で泡盛と味わう料理として用意されたのは、沖縄の食文化を詰め込んだ特製弁当だ。
ふたを開けると、真ん中には沖縄風炊き込みご飯の「ジューシー」。その周りをにんじんしりしりーやクーブイリチー、紅芋コロッケ、もずくの天ぷら、煮物などが彩る。ゴーヤーチャンプルーにはポークも入り泡盛が自然と進む。

さらに、揚げ豆腐や三枚肉、赤く色づけしたかまぼこなど、祝い事や行事の重箱料理を思わせる品々も。グルクンの天ぷらも入り、色とりどりのおかずから沖縄の暮らしと食文化がのぞく。
弁当を手掛けたのは、大阪市大正区で沖縄物産の販売や食堂を営む「いちゃりば」。沖縄にルーツを持つ人も多く暮らす同区から、乗客たちに〝沖縄の味〟を届けた。
心地よく酔いが回った参加者らは、車窓を流れる景色もそっちのけ。列車で初めて出会った〝飲み仲間〟と杯を交わしながら話に花を咲かせ、車内はにぎやかな笑い声に包まれていく。
ロックだけじゃない。好きな飲み方探す楽しみも
車内では、泡盛の楽しみ方も話題になった。泡盛マイスターの伊藤薫さんが薦めるのは、ブラックコーヒーと泡盛を6対4ほどで割る泡盛コーヒーだ。「コーヒーの香ばしさが泡盛の個性的な風味をやわらげ、すっきりと飲みやすい味わいになる」と伊藤さん。水割りに少量のコーヒーを加えるだけでも「麦茶のような味わい」が楽しめるという。

さらに牛乳で割れば、ほのかな甘みのあるまろやかな一杯に。夏には瓶ごと冷凍庫で冷やす「パーシャルショット」がおすすめという。泡盛はアルコール度数が高いため冷凍庫で冷やしても凍らず、トロリとした状態で味わう。冷やすとアルコールの角が取れてまろやかになり、濃厚な旨味や香りが際立ち、泡盛が持つ甘みも感じやすくなるという。
トロピカルフルーツを使ったカクテル、ソーダ割りなども増えている。車内では泡盛ベースのシークワーサーリキュールが用意され、さわやかな酸味ですっきりと飲みやすい。「おいしい。いくらでも飲めそう」という乗客も。
伊藤さんは「初心者やお酒があまり得意でない人も、カクテルや炭酸割りから気軽に泡盛の世界にふれてほしい」と話す。
終盤には三線の音色が車内に響き渡り、立方(たちかた)がその調べに合わせてしなやかに琉球舞踊を舞った。泡盛でほぐれた参加者も自然と手拍子を重ね、列車の揺れと三線のリズムが重なる中、車内は沖縄の宴を思わせる熱気に包まれた。

一人で参加した府内の会社員男性は、中でもコーヒー泡盛が気に入った様子。「まだ沖縄に行ったことはないが、五感で沖縄文化を感じることができ、実際に現地を旅したくなった」と満足そうに話した。
約600年の酒を次の世代へ
2024年には泡盛を含む日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録された。沖縄県も商工労働部ものづくり振興課に担当部署を置き、県内外へ泡盛の文化的価値や飲み方について発信し、地域の気候風土の中で受け継がれてきた伝統的な酒の普及に努めている。
初開催にして、乗客たちの笑顔とともに大盛況で幕を閉じた「琉球泡盛号」。興奮冷めやらぬ車内を見渡しながら、これからの泡盛の広がりに期待を込め、新里所長はこう語った。
「今回初めて泡盛を口にされた方も、きっとその多様さに驚かれたはずです。泡盛は飲む人の好みに寄り添い、どんな姿にも形を変えてくれる懐の深いお酒。ぜひご自身のライフスタイルに寄り添う、とっておきの1杯を見つけてみてください」
