空と大地が創り出す「奇跡の景色」に心震わす初夏の旅 星野リゾート〝雲外蒼天〟な大逆転劇

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地域まるごと観光体験<後編> 星野リゾート トマム

 「雲海と農業」2つの観光体験が話題となり、今や1年を通じて大勢の観光客が訪れるようになった「トマム」。かつて会員制のラグジュアリーなリゾートだった時代に、受け入れ先のホテルが経営難に見舞われて衰退したが、その状況に「待った」をかけたのが、2004年の星野リゾート参入だった。復興を進める際、現地の人にとっては見慣れたトマムの景色が、観光客にとってはこの上なく特別なものであると気づいたことにより、現在の〝雲外蒼天〟な大逆転劇をもたらしたと聞く。

 このエピソードと北の大地に強く惹かれた記者は、大阪から現地に飛び、今年開業20周年を迎える「雲海」ブームの仕掛け人や、北海道の原風景を守る「観光業×農業」プロジェクトのリーダーらに取材を試みた。(西村由起子)

一期一会の出会いに胸が高鳴る「雲海テラス」へ

 雲海とは、さまざまな気象条件が整った時にだけ発生する自然現象である。トマムの場合、5〜9月の早朝に条件が揃うことが多く、発生率は約40%。場合によって薄かったり肉厚だったり、モコモコとダイナミックだったり、挙句に気温が上昇すると消えてしまうのだから、雲海との出会いはまさに一期一会だ。

山頂まで雲海ゴンドラで約13分。道中、山肌を駆け巡る野生のウサギや、草をはむシカの姿も
ゴンドラを降りると、朝焼けの美しい雲海テラスへ
雲海テラスの展望デッキからトマム産雲海の眺め

 前日よりトマム入りして、翌朝5時から始動するゴンドラに乗り、標高1088メートルのトマム山頂駅へ。取材日は運良く雲海が発生したことにより早起きもなんのその。あいにく地表を包み隠すほどのダイナミックさはなかったものの、朝焼けの空の下、儚くも美くしい雲が海のように眼下に広がる様子に目をみはった。心が洗われるようだ、とはまさにこういう瞬間を指して言うのだろう。

スタッフの思いが「雲海ブーム」に火をつけた

 スキー場が閉鎖される夏場、朝早くからゴンドラの整備を行っていた職人たちにとって雲海は「見慣れた景色」。1989年から当地で働く鈴木和仁(スズキカズヒト)さんもその一人だが、

 「この美しい景色を、お客さまにも見せられたらいいのに」みんながそう感じていたと話す。

 その思いを具現化するきっかけとなったのが2004年の星野リゾート参入であり、「リゾート経営の方針が変わり、トマムの魅力をアピールする施策の一つとして、現場をよく知るスタッフの意見が採用されることになったのです」と続けた。

 初めは予算もなく「空き地の整備もテーブルやイスを並べるのも自分たちで行いました」と鈴木さん。雲海テラスの前身「山のテラス」を営業開始した2005年、「その年の観光客は約900人」だったそうだ。それが1年後には1万人に増え、開業20周年を迎える今や年間来場者15万人を超える人気の観光スポットとなっている。多い日では1日に1000人以上の来場者が訪れる。

雲海ブームの立役者・鈴木さん。雲海仙人の愛称で親しまれている
「雲海テラス」の前身「山のテラス」
観光客で賑わい始めた「山のテラス」
山上のショップで絵葉書を買うと切手不要で郵送できる「雲海ポスト」

 来場者が急増したのは、雲海テラスしかり雲海ポストしかり、現場スタッフが雲海の魅力を伝える努力を惜しまなかったためだ。絵葉書に使用されている写真の中には鈴木さんが撮影したものもあり「絵葉書を受け取った人が雲海を見たくなって足を運んでくれたとしたら嬉しいですね」と語った。

 実際に雲海を見ることができなくても楽しめる仕掛け作りにも余念がなかった。例えば「Cloud9(クラウドナイン)計画」と呼ばれるプロジェクト。現在、6つ目まで進行中で、さまざまな場所から空と山と雲が織りなす絶景を楽しむための趣向が凝らされている。いずれのスポットも〝奇跡の景色〟と一体となった写真を撮影できるとあって、話題を呼んでいる。

地上約3メートルの高さにあるカウンターバー、Cloud Bar(クラウドバー)
空中にせり出すデッキSky Wedge(スカイウェッジ)
やわらかい球体に寄りかかったり座ったりできるCloud Bed(クラウドベッド)
雲の形をした巨大なハンモック、Cloud Pool(クラウドプール)
絶景を眺めながら雲をテーマにしたメニューが楽しめる雲Cafe

北海道の原風景を復元した「ファーム星野」、仕掛け人は〝大阪〟出身

 雲海と並んでトマムの魅力といえばそのパノラマに広がる大自然だ。1980年代までは牧場だったこの地はリゾート開発でゴルフ場に生まれ変わったが、2016年の台風による被害をきっかけに、ゴルフ場の修復ではなくかねてより社内に持ち上がっていた事業プランのファーム化に方向転換し、原風景に戻すことを選択した。その功労者が、ファーム星野のプロジェクトリーダー・宮武宏臣(ミヤタケヒロオミ)さんだ。

 聞けば、宮武さんは大阪出身。信州大学への進学をきっかけに長野県が好きになり、縁あって星野リゾートに入社したという。マーケッターとして東京勤務時代にトマムで農業プロジェクトが始動することを聞きつけた宮武さんは、美しい景観を取り戻すことと農作物を生産することで旅人の目も舌も癒やす「観光業と農業が手を取り合う」意義や可能性に惹かれて、2017年、北の大地に移り住むことを決意した。

循環型農業を推進し「旅×農業」の発展に尽力する宮武さん

  宮武さん曰く、元々はゴルフ場だったファームエリアは約100㌶で「東京ドーム21個分、ちょうどディズニーランドとシーを足した広さ」とのこと。リゾート開発が進む前の、700頭の牛が飼われて農業が盛んだった当時の美しい土と景観を取り戻すべく「5頭の牛を飼う」ことから始めて、ようやく現在約40頭にまで増えたという。

「ファーム星野」では体験プログラムも豊富。「旅先で得た学びは記憶に残る」と宮武さん
体験プログラムの1つ「モーモー学校」に参加すると体験できる「牛乳の飲み比べ」
夕方には牛舎に戻る牛の様子が眺められる。ほのぼのとする光景だ

 エリア内にある森のレストラン「ニニヌプリ」やファームカフェ「ファームデザインズ」で提供される、新鮮なトマム牛乳がベースの乳製品はどれも記者が普段食べているものとは段違いで、食べ飽きない。牛たちがストレスのない、自然に近い環境下で飼育されていることも味の決め手となっている。「牛乳は本来仔牛のためのもの。人間はそのおすそ分けをいただいている」と語る宮武さんは、チーズの生産過程で生まれるホエー(乳清)などの副産物も「もったいない」と最大限活用するオリジナルドリンクやアイスクリームなどの商品開発にも積極的だ。

生ハムモッツァレラのパニーノとホエイドリンク(ストロベリー)
チーズの旨味が口いっぱいに広がるピッツァ・マルゲリータ
モッツアレラ・チーズを操る、ライブスタジオでの様子
自由にトッピングできるソフトクリーム

【まとめ】
 実際に現地を訪れて記者が感じたことは、<雲海>も<ファーム>も、星野リゾート トマムが備える魅力のごく一部に過ぎないということだ。目に飛び込んでくるもの、口に入れるもの、肌に触れるもの、すべてが特別で、今この瞬間、この場所でしか味わえない感動をもたらしてくれる。宿泊先のトマム ザ・タワー、リゾナーレトマムではさまざまなグルメとアクティビティが用意され、トマムの魅力を味わい尽くす旅を心強く後押ししてくれる。次は冬のトマムも堪能したい!

アクセスは、JR石狩線トマム駅から無料シャトルバスで約10分

■星野リゾート トマム/所在地 :北海道勇払郡占冠村字中トマム