現役世代呼ぶ「生存戦略」 広瀬市長に聞く、空き家税導入の狙いとは

 寝屋川市が導入方針を示した独自の「空き家税」について、広瀬慶輔市長に真意を聞いた。税収目的ではなく、あえて維持負担を増やすことで所有者の「行動変容」を促し、眠っている空き家の流通を図るのが狙いだという。人口減少時代に現役世代の「受け皿」を確保し、街の経営を存続させるための生存戦略に迫る。

「空き家流通促進税」の導入を語る広瀬慶輔・寝屋川市長=寝屋川市役所(濱田康二郎撮影)

寝屋川・広瀬市長が語る生存戦略 空き家課税「行動変容のスイッチに」

 「寝屋川モデル」という言葉を聞いたことはないだろうか?人口減少が続く国内において、子育て、教育環境の整備を市内外に発信し続け、2024年には人口転入超過を達成し社会増は安定化。そして、2月には市特有の事情から29年に「空き家流通促進税」(空き家税)の導入を目指すと発表した。広瀬慶輔市長に自治体経営術と狙いを聞いてきた。(濱田康二郎)

持ち続ける負担の見直しへ 新税で問う空き家のあり方

─「人口増加率日本一」を経験後50年が経過。寝屋川ってそもそもどんなところですか?

 寝屋川市は1960年から75年までのわずか15年間で、人口が5万人から25万人へと激増しました。当時の人口増加率は「日本一」を記録したほど。南北6㌔、東西4㌔という非常にコンパクトな市域、その24・7平方㌔㍍中に、住宅をぎゅうぎゅうに詰め込んで開発し尽くしたんです。人口密度は1平方㌔㍍あたり1万人超。当時はタワマンないし、これはもう、異常なほど高密度な都市なんです。
 75年にピークを迎えてから、この50年間は出ていく人が多い「転出超過」。理由は簡単で新たな住宅を建てる「場所がない」から。隣の枚方市は開発の余地があり、人口は40万人まで達した。一方で寝屋川は人を呼び込みたくても、住む場所がない。私が市長に就任して真っ先に解決しなければならない点でした。

─そこから、どのように「街の経営」を立て直そうと考えたのでしょうか

 行政も一つの「経営体」であるべきだと考えています。そこで導入したのが、民間企業で使われる指標である「ROA(総資産利益率)」です。
 市の保有する公共施設の延べ床面積を「総資産」、市民の満足度や利用者数を「利益」に見立てて、徹底的に稼働率を見ています。床を減らしてコストを抑え、その分、現役世代に「寝屋川を選んでもらうための魅力」に再投資する。この効率化のプロセスが、持続可能な街づくりには不可欠だと考えています。

─空き家税について聞かせてください

 開発できる土地がない以上、新しい「受け皿」は、市内に眠っている既存の住宅ストックしかない。今、市内には市場に流通していない「デッドストック」の空き家が約5000件あります。この所有者の中には市外在住で相続により取得した人もいます。東京などで暮らしていて、寝屋川の家を片付けるのは面倒、かといって売るのも精神的なハードルが高い。結果として、思い出の品を置いたままの「倉庫代わり」になるのは、所有者にとって非常に合理的で低リスクだから。土地の固定資産税を払い続ける負担感が重ければ、売るか貸すか活用を考えるはずです。

─面倒なことは先送りにしがちですよね

 そのとおり。でも、空き家の難しいところは、そのままにしておくと街にとっても大きな損失になる点です。先ほどお話したように人口流入超過になり、選ばれる街になったのに、新たな家族が住めるはずの場所がないわけです。だからこそ、税という形で「一定の負担感」を与える。これは、整理・処分する労力よりも、持ち続ける負担の方が重いかもしれないというバランスを見た上で税率を設定していきます。それが「行動変容のスイッチ」になると思っています。
 空き家税によって税収増を目的にしているのではありません。目的はあくまで「不動産流通の促進」です。そのために、2020年に市に相談してもらうと民間の事業者さんらに繋げる「空き家流通プラットフォーム」を組織しました。全て起こったことに対する対策ではなく、明確な街づくりビジョンに基づいた寝屋川市ならではの施策なんです。

─いじめ対策で市長直下に置く監察課を設置。「寝屋川モデル」は対策しながら予防しているようにも見えます。狙いや空き家対策との繋がりは?

 住環境だけを見れば、北摂の箕面や吹田の方がシュッとしてるじゃないですか(笑)住環境では選ばれないかもしれない。じゃあ担税力のある子育て世帯を呼ぶには何をすればいいか? 寝屋川でしか受けられない「質の高い教育環境」を作り出しました。「いじめゼロ」を目指した設計、ディベートによる国際標準教育の導入。これらを強力な「コピー力」のある言葉で発信し、SNSでの口コミを誘発していく。私が就任以来、広告換算で17億円以上の効果を生んでいます。

─最終的な目標は、どこにあるのでしょうか

 地域のインフラを維持し、街の経営を存続させることです。今、全国でバス路線の縮小が問題になっていますよね。これは現役世代がいなくなり、通勤にバスが使われなくなったからです。ご年配の方には必要なんですが、毎日バスに乗りません。でも、現役世代が入って通勤に使ったりできればバス路線は維持される。バスが走っていれば、ご年配の方が病院やスーパーに行くこともできる。商業施設も医療機関も、一定の人口密度、特に担税力のある現役世代の人口が維持されていなければ存続できません。
 2050年問題を見据えると、人口減少は避けられません。でも「社会増減」をプラスマイナスゼロに保ち、現役世代を呼び込み続ければ、街はしぼんでしまうかもしれないが、死なない。人口の自然減は受け入れつつも、街としての活力、正のスパイラルを維持することはできるんです。

◇取材後記◇

 自らを「4年間の雇われ社長」と位置付ける広瀬市長は「1つの街が作った事例が世の中を動かす時代になった」と語る。寝屋川モデルと注目されるいじめ監察課の事例を元に全国の中核市長会から国に対して要望を提出し、こども家庭庁も取り入れる動きをみせている。ほかにも昨年、寝屋川市が府に対して特区民泊の廃止を望む声を真っ先に上げた後、その他の自治体も追随する流れになった事例もある。今後も今回の記事テーマについて街づくりの観点から取り上げ、一緒に考えていきたい。

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