ミズノ120年「ええもん」づくりは次の舞台へ  スポーツの技術、暮らしや社会に広がる

 日本を代表する総合スポーツ用品メーカー「ミズノ」が2026年4月1日に創業120周年を迎えた。節目を単なる歴史の振り返りで終わらせず、次の成長につなげようとしている。創業以来の精神である「ええもんを作る」を軸に、野球ボールの販売から始まった事業は、100年以上をかけてスポーツや社会を進化させてきた。このスポーツ用品で培った技術や発想を、現在では健康、暮らし、ファッションの分野へと広げている。長い歴史を背負う老舗が、時代の変化に合わせて自らの役割を問い直し続けた同社に迫った。

変わらぬ理念 「役に立つ」ものづくり

ミズノの原点である、創業当時の「美津濃商店」

 「高級品という意味ではなく、その人にとって役に立ち、寄り添うものが『ええもん』だ」(同社関係者)。創業時は野球用品を中心に事業を広げてきたが、現在はスポーツにとどまらず、建設、運輸業、医療、製造業などのユニフォームやシューズを扱うワークビジネスや、マットレスやまくらなどの睡眠事業にも領域を広げる。変わらない理念と、変わり続ける事業。その両立こそが、いまのミズノらしさだという。

26年4月1日に創業120周年を迎えた記念ロゴマーク

コロナ禍で発想転換 マウスカバーが示した可能性

 転機の一つはコロナ禍だった。社員が出社できず、東京五輪も1年延期の末に無観客開催となり、スポーツ業界全体が厳しい状況に置かれた。仮にスポーツの祭典が本来の形で開かれれば、観戦を機に競技を始める子どもが増えるなど、競技人口の裾野拡大も期待できただけに、その痛手は大きかった。

 そんな逆風の中で一つの考え方の転換期が訪れる。社内でもマスク確保に苦労する声が出る中、スポーツメーカーとして持つ素材や縫製の知見を日常生活に転用できないかという発想が、水着や陸上ウエアで使用している伸縮性に優れた素材を活用したマウスカバーを生んだ。初回は20年5月20日に2万枚の数量限定で発売され、大きな反響を呼んだ。このマウスカバーの経験が、同社にとって新しい生活に対応するものづくりの象徴となった。

 商品自体にも、ミズノらしさが色濃く表れている。水着や陸上ウエアに使う伸縮性の高い素材を採用し、通気性やフィット感、繰り返し洗える実用性を打ち出した。のちに、接触涼感素材「アイスタッチ」を使ったマウスカバーも展開し、季節や用途に応じた改良も重ねた。発売時にはアクセス集中で特設サイトがサーバーダウンするほどの人気となり、スポーツ用品で培った技術が一般生活者にも広く届く可能性を社内外に印象づけた。スポーツ用品メーカーとしての強みを、日常生活にどう生かせるか。マウスカバーは、その問いへの一つの答えだった。

コロナ禍の逆風の中で誕生した「マウスカバー」

スポーツ技術を日常へ 暮らしに広がるミズノ

 現在では、ライフスタイル分野にも力を入れる。スポーツ開発で培った得意の機能性を強みに、「マーガレットハウエル」や「IL BISONTE(イルビゾンテ)」とのコラボや直営店の拡大を進め、普段使いできるシューズやアパレル商品も打ち出している。渋谷や高輪ゲートウェイ周辺への出店、心斎橋などでの展開を通じ、「スポーツのミズノ」だけではない新たな認知を広げたい考えだ。

日常のスタイリングとして取り入れられる「ミズノスポーツスタイル」アパレル

野球の原点忘れず 次世代へ競技の魅力つなぐ

 一方で、原点であるスポーツ振興への思いも揺らいでいない。少年野球大会「ミズノ・ドリームカップ」は、指導者が過度に怒らないことを重視したり、用具の貸し出しや再出場もできたりする新たなルールを取り入れた。野球人口の減少や保護者負担の重さが課題となる中、まずは「スポーツは楽しい」と感じてもらう入り口を広げようという試みだ。

少年野球大会「ミズノ・ドリームカップ」の一コマ。野球の面白さを次世代へとつなぐ、新たな試みが行われている

創業の地・大阪から 世界へ挑戦続く

 創業のルーツは大阪にある。創業者の水野利八が野球に感銘を受け、「この面白さを広めたい」と弟と一緒に店を開いたことが始まりだった。関西で今も使われる「カッターシャツ」の呼称も、野球観戦の熱気「勝った」が「カッター」となった。また、登記上の社名が「美津濃株式会社」となっているのは、創業者の姓をそのまま掲げるのではなく、故郷の美濃(現在の岐阜県)への思いと、多くの人材が集う会社であってほしいとの願いを込めたという。「ミズノ」に統一されたのは1987年からだ。

関西で今も使われる「カッターシャツ」の呼称は、当時の野球観戦の熱気「勝った」に由来する

120年は通過点 「ええもん」を世界へ

 06年の創業以来、「より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する」という理念を掲げてきた。スポーツは喜びや感動をもたらすだけでなく、国や文化を越えて人と人をつなぎ、地域や社会の可能性を引き出す力を持つと位置付ける。スポーツの価値を生かした商品やサービスを日常生活にも広げ、持続可能な社会と豊かな未来づくりにつなげていく考えだ。

 ミズノの120年はゴールではなく通過点。「ええもん」を世界へ届け続ける挑戦は、これからも続く。

創業の地である大阪にそびえるミズノ大阪本社とイノベーションセンター「MIZUNO ENGINE」(大阪市住之江区)
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