間もなく訪れる梅雨明けの後は猛暑の夏。そういえば「おコメがスーパーの棚から消えた」と大問題になったのは2年前の夏だった。あれからコメ農政は「備蓄米放出だ、増産だ」と大騒ぎしてきたが、肝心の店頭価格は高止まりしたまま。高市内閣発足でコメ政策は石破時代の「増産決定」を取り消し、2度の夏を経て「コメは余るのでは!?」と言われだし、一般消費者は何を信じていいのか分からない状況だ。当時、生産者は「高値だから増産」と供給を増やし、消費者は「高過ぎるから買い控え」と需要減で対抗した。コメは依然、我が国の主食であり、〝食糧安全保障〟の観点からも大切な自給自足型資源。損得勘定を総点検してみよう。

米価乱高下 消費者の防衛策は 農水省の政策転換と価格の行方
それは2年前に起こった
2年前の残暑の頃、岸田内閣の坂本哲志農水相(現・衆院予算委員長)は「単なる目詰まりで新米が出れば米不足は解消する」と述べていたが、供給不足と高値は翌年も続いた。石破内閣で就任した江藤拓農水相(現・自民党農業構造転換推進委員長)は2月に初の備蓄米放出に踏み切ったが、直後に「家にコメは売るほどある」と問題発言し更迭された。後任の小泉進次郎農水相(現・防衛相)は怒りを鎮めるため「市場をジャブジャブにする」と中小スーパーにまで放出を拡大したのは周知の通りだ。それでも状況は好転せず、昨年10月発足の高市内閣で就任した元農水官僚の鈴木憲和農水相は、再び「需要に応じた生産」と実質減産へ180度転換した。消費者からは「価格を高止まりさせる気か」と怒りの声が沸き起こった。
「米騒動」傾向と対策
〝令和の米騒動〟の中身を検証しよう。
▽市場パニック=メディアで「買えない」との情報を得た消費者が買いだめに走り、パニックが増幅した。
▽供給網の目詰まり=農産物のため即時の増減産ができない。最初の不足時期が業者の備蓄が底を突く新米出荷直前だったため、供給要請に応じられなかった。
▽過去の制度疲労=農水省は少子高齢化を見据え「減反と転作奨励」の補助金政策を半世紀以上継続している。国の備蓄米は大凶作の危機管理用として簡単に放出せず、混乱を広げた。
消費者・取扱業者・農水省それぞれに反省点がある。消費者は常に1袋(5㌔)程度の家庭内備蓄を持っていれば慌てる必要はなかった。業者は適正備蓄に向け、改正食糧法に基づき大規模民間事業主が備蓄することになったが、倉庫代の経費負担など手だては未定だ。農水省も「生産調整」一辺倒から需要に応じた生産へと方針転換し、値崩れを防ぐための輸出促進や需要喚起へようやく重い腰を上げた。
価格決定の内幕は?
次に価格決定の過程を見る。農水省は人口や農家の減少を加味して生産量を決めてきたが、昨今は猛暑などの気候変動、インバウンドの需要急増、地震予知情報発令による買い占めなど不確定要素が加わり複雑化している。
具体的な小売価格で見てみよう。一昨年夏当初は5㌔2000~2500円だった。新米出回り前のパニックで取扱業者が競って買い集めた結果、卸売価格が値上がりし、昨春から夏にかけて4000~4500円で高止まりした。昨秋の新米(25年産米)も一気に高値取引され、11月には全国平均5000円を突破し、130年以上続く統計史上最高値となった。
今年に入って消費者の〝コメ離れ〟から次第に業者の在庫がだぶつき、先月6月には3600円平均に下落した。7月に入ると26年産米の出回りが近づき、在庫を売り切りたい業者の思惑から2000円台後半も珍しくない状況だ。コメ消費の落ち込みは顕著で、25年産米売り上げは前年比6.1%減(1人1カ月に茶わん4.4杯分の減)となった。
気になる今秋の新米価格は、売り切り価格よりわずかに高い3000円台前半に落ち着きそうだ。これが当面の「需給バランスが取れた価格」となる。

価格決定の内幕は?
生産と価格の将来性を内閣と官僚の立場から考えてみよう。 発端となった一昨年夏の岸田総理は事態把握自体が不十分だった。秋に就任した石破総理は農政スペシャリストゆえに素早く備蓄米放出などの体制を取り、「減反から増産」へ舵を切った。現在の高市総理は経済対策や外交・防衛が得意で農政には疎く、政策決定の多くを鈴木農水相に託している。
官僚社会は省益で動く縦割りだ。農水官僚にとって出身議員がトップの大臣となるのは心強く、鈴木農水相は再び長年の省方針(減反)へと政策を差し戻させた。農水省の最大の使命は生産者の生活を守ることであり、減反と転作の繰り返しで米価を維持してきた〝縮小再生産〟が基本発想である。コメ不足や価格乱高下も「一時的な動き」と冷ややかで、前例主義で緩やかな転換を見守ればいいというスタンスだ。
一方、財務省は農水省が米騒動を利用して予算獲得する〝焼け太り〟を警戒している。コメ減反見返りに年間約3000億円を配ってきたが、26年度予算では「農業構造転換」を大義名分に要求を膨らませ、前年比250億円増の約2・3兆円で決着した。別途、25年度補正予算で約1兆円も得ており、財務省は快く思っていない。
コメを取り巻く将来は、依然不透明で波高し、なのだ。

