全国から町の本屋が消えている。日本出版インフラセンターによると、2025年度末の書店数は9993店で、前年度から424店減少し、初めて1万店を割った。ネット通販や電子書籍が浸透する中、大阪市中央区で創業77年目を迎えた隆祥館書店の二村知子代表は「本屋だからこそ出合える一冊がある」と話す。(竹居真樹)

二村さんが家業を手伝い始めたころから、書店を取り巻く環境は大きく変わった。コンビニに雑誌を奪われ、Amazonや大型書店との競争も激化。さらに電子書籍端末「Kindle(キンドル)」の日本上陸を前に「地に足がつけないぐらい不安だった」と二村さんは話す。
そこで2011年に「作家と読者の集い」をスタートした。著者と読者が直接向き合う場所をつくりたいという思いからだ。出版社が集まる商談会で企画書を配り、作家を紹介してほしいと自ら頼んで回った。当初は小説家だけでなく、腰痛や防災、健康、料理など暮らしに身近なテーマも扱った。そこから平和、原発、貧困など社会問題へとテーマは広がり、現在までに約380回を開催した。
イベントを重ねる中で、二村さんの棚づくりにも一つの考えが生まれた。
「声なき声を拾い上げて伝えたい。本を出版した以上、伝えなあかんという使命を感じている」と二村さん。店内には売れ筋だけでなく、社会問題や子どもの心、性被害などを扱う本も並ぶ。客の悩みや思いを聞き、その人に合った本を薦めることもある。
「情報があふれる現在、検索すれば自分が欲しい本はすぐたどり着ける。一方で、自分が知らない問題や関心すら持っていなかったテーマは、そもそも検索することができない。そこに実店舗の役割がある」と二村さんは考える。
書店業界そのものへの危機感も強い。特に二村さんが訴えるのが、書籍を全国どこでも原則同じ価格で販売する「再販売価格維持制度」の必要性だ。資本力のある大手が大量仕入れした本を値引きできるようになれば、小規模店は価格では対抗できないと考える。
店頭では客との会話を大切にしている。「おすすめはない?」と尋ねられれば、「カルテ」に記入してもらい、内容をもとに選書する。最近は「相談したら、自分に合った本を選んでくれる本屋だと聞いて来た」とわざわざ千葉県から足を運んで来た客も。二村さんが「いろいろ質問しても大丈夫か」と伝えると、「質問されると思って、自分の悩みを書いてきた」と紙を用意していたという。
昨年からは、本と心理学を組み合わせた少人数の読書会「Book & Hearts」もスタート。臨床心理士も加わり、参加者が本を囲みながら思いを語る。「ここに来たらホッとする。そんな居場所にもなれたら」と二村さん。町の書店にしかできない価値づくりを進めている。

