2022年総務省調査では介護のために職を離れた数は年間10万6千人。今や育児休暇は男女とも取得が当たり前となり女性の育児離職は過去の物になりつつある。一方で亡くなった安倍晋三総理が10年前に〝介護離職ゼロ〟を掲げたが、介護離職者の数は一向に減らない。
若年性アルツハイマー型認知症の妻(62)を抱え、勤めを辞めた夫(61)。この大阪に住む夫婦を3年間にわたって見つめ追い続けた『ザ・ドキュメント 出口なき部屋~介護離職 救いはどこに~』(カンテレ30日深夜1時15分から)が重い問題を提起している。

カンテレ報道センター・竹下洋平ディレクター(31)は介護離職の実態を知ろうと3年前に藤井康弘さん・三恵子さん夫婦の存在を知り、夕方ニュース枠で紹介した。康弘さんは大手電気機器メーカー関連会社に勤めていたがリモートによる在宅勤務では、自分の事が独りでできなくなった三恵子さんの介護と並行しながらでは極めて難しく退職を余儀なくされた。
認知症でも体は元気だから、施設への入所は難しい。6年前に認知症を発症し施設入所の目安である「介護認定3(身体機能の低下で日常生活にほぼ介助が必要)」が認められたのはようやく今年になってからだ。娘(29)は独立し、三恵子さんの世話はすべて康弘さんの肩に掛かる。

去年、康弘さんは左腕にがんの一種「軟部肉腫」が見つかり切除手術を受け3週間入院。その間、三恵子さんは施設で過ごした。退院した康弘さんは腕の筋肉の一部を切除され腕が動かしにくくなったが、要介護認定は降りない。
夫婦は過去の蓄えで暮らすが生活は楽ではない。娘が離職して介護にあたることも考えたが、康弘さんが「若いうちはしっかり働いて経験を積まないと年取ってからが大変」と押しとどめ、自らが離職する道を選んだ。皆の表情は驚くほど明るいが、子どもの成長に時間的計画が立つ育児と違って介護はその終わりが見えない。

自宅での介護継続に時間だけでなく金銭的な負担も重くのし掛かかる。康弘さんは「自分が死んだ後、娘を苦労させたくないから治療費は出来るだけ掛けない。僕も妻も社会的にはいらない人間。その僕らのために今働いている人が苦労するのが一番精神的につらい。介護はやらなくてはいけないからやっているだけ。最後は情じゃないですか?」と淡々と語る。そこには重い覚悟が透けて見え、全てが75歳以上の後期高齢者となった〝団塊の世代〟を親に持つ団塊ジュニアに否が応でも厳しい現実を突き付けている。

竹下ディレクターは「〝いらない人間〟とまで思わせてしまっている今の社会の在り方は『どうなのだろうか?』と見ている方には考えていただきたい。肉親が家族の介護をしている姿は尊いが、それだけで行政や周囲が放置してしまって本当にいいのか? 育児同様に介護をしながら仕事を続ける事ができる社会にしていくことが大切なはず」と話している。
(畑山 博史)