青空の下で、色とりどりのこいのぼりが風を受けて泳ぐ。大阪府箕面市の商業施設「みのおキューズモール」で4月23日から、館内各所にこいのぼりを掲げる取り組みが始まっている。期間は5月11日まで。

こいのぼりの掲揚場所は北大阪急行の箕面萱野駅から施設へ向かう2階デッキ周辺と、店舗が円形に囲む芝生広場の上空。施設を訪れた子どもたちは「あ、こいのぼり!」「お祭りだ!」と歓声を上げる場面も。
全部で73匹。買い物客や親子連れ、勝尾寺方面へ向かう訪日外国人客らの目を楽しませている。
「買い物」だけでなく「思い出」づくりも
だが、この企画は単なる季節イベントではない。背景には、同施設を「買い物をする場所」にとどめず、市民が集い、子どもたちの記憶に残る場所にしていきたいという施設側の思いがある。総支配人を務める村木俊一さんは「春は桜のライトアップ、冬にはイルミネーションを実施しているが、こいのぼりもその一環として今回初めて取り組んだ。施設を訪れる度に、季節ごとの風物詩を感じられるような場所にしていきたい」と話している。

同施設の特徴は、屋外空間を生かしたオープンモール型の構造にある。駅前にありながら、山や川、公園のような広場が身近にあり、買い物だけでなく散歩や休憩、親子の遊び場として市民に親しまれている。
全天候型のクローズドモール(屋根付き)に比べ、雨天時の運営には難しさもあるが、村木さんは「ショッピングセンターへ行くというだけでなく、公園へ行く感覚でも来られる場所。その機能をもっと際立たせたい」と逆に魅力に捉えている。
訪日観光客も注目 箕面の回遊促す
今回、デッキ2階に掲げられたこいのぼりは、箕面萱野駅からバス停へ向かう人の視界に自然と入る場所だ。勝尾寺へ向かう観光客も足を止め、日本らしい風景を写真に収める姿も見られる。村木さんは「こうした光景がSNSなどを通じて広がり、箕面の回遊につながれば」と期待を寄せる。

一方で、企画の中心にあるのは地域とのつながりだ。今回の掲揚にあたり、施設では家庭で眠っているこいのぼりの寄付を市民に呼びかけた。箕面商工会議所や箕面市シルバー人材センターなどにも協力してもらったところ、4家族からの提供があった。中には、長年押し入れに眠っていたものや、子や孫の成長とともに掲げる機会がなくなっていたものもある。
市民から託された「家族の歴史」
こいのぼりイベントの実施に尽力した同施設のリーダー、黒田尚美さんは「昔はマンションのベランダにも小さなこいのぼりがよく見られたが、今は本当に少なくなった」と指摘する。確かに、子どもたちは「こいのぼり」という言葉を知っていても、実際に大きなこいのぼりを見る機会は減った。

「だからこそ、こいのぼりを地域の空に戻す意味は大きい。おじいちゃん、おばあちゃんが孫の誕生を喜んで買ったこいのぼりが、もう一度上がる。それを家族で見に来られるようになればうれしい」と黒田さん。
市民から提供されたこいのぼりには、色あせや傷みが見られるものもある。それでも、その一匹一匹には家庭の時間が刻まれている。新しく購入した装飾だけでは出せない味わいがあり、地域の記憶をまとった風景になっている。
四季を通じた〝風物詩〟を目指す
村木さんは「毎年見に行きたいと思ってもらえる取り組みに育てたい」と地域の風物詩となることを期待する。自宅では掲げられなくなったこいのぼりが、みのおキューズモールで出会える。そんな循環が生まれれば、商業施設と地域住民の距離はさらに近づく。

こいのぼりの後は、夏のひまわり演出や冬のイルミネーションの充実も視野に入れている。秋の企画についても現在模索中だが、「一過性の集客イベントではなく、季節が来るたびに思い出される風景にしたい」という。
子どもの頃に見たイルミネーション、家族で眺めた桜、空を泳ぐこいのぼり─。

こうした記憶は、年月を経ても地域への愛着として心に残っていく。「みのおキューズモールが目指すのは、買い物の利便性だけでなく、箕面で暮らす人、訪れる人の心に残る場所になること」(村木さん)。
青空に舞うこいのぼりは、地域の新たな風物詩として、その第一歩を踏み出した。
