自販機ビジネスが地殻変動 淘汰か? 進化か? 昭和・平成の販売インフラ

 かつて「置けば売れる」と言われた自動販売機だが、コンビニのいれたてコーヒーや、飲料を低価格で買えるドラッグストアなどが台頭し、収益性が悪化。昭和・平成の販売インフラが大きな曲がり角を迎えている。淘汰か、進化か。自販機の向かう先を取材した。(佛崎 一成)

自動販売機(編集部撮影)

飲料自販機 曲がり角 ダイドーは2万台再編 一方で、コンビニコーヒーは拡大

 街角に溶け込んでいた清涼飲料の自動販売機が今、大きな転機を迎えている。国内の自動販売機設置台数は2013年頃までをピークに、25年には約198万台と減少傾向だ。一方で、コンビニカフェに代表されるように飲料需要は伸びていることから、販売インフラの多様化が原因とみられる。かつて「置けば売れる」と言われた自販機が今、曲がり角に立たされている。

 コカ・コーラ ボトラーズジャパンHDは25年に自販機事業に関わる資産で約881億円の減損損失を計上。自販機の撤去台数は明らかにしていないが、公表資料から察するに、数年で約5万台規模の圧縮が進んだとみられる。ダイドーグループHD(以下ダイドー)も今年1月に国内自販機の収益性低下に伴い、298億円の減損損失を計上した。

飲料需要はあっても台数減

 背景にあるのは、飲み物が売れなくなったことではない。消費者の買う場所と、選ぶ理由が変わったことが大きい。ダイドーによると「販売数量の減少に加え、原材料価格、物流費、人件費の上昇で、自販機ビジネスの採算は以前より厳しくなっている」という。
 実際に22年以降、各社が相次いで価格改定。例えば、コカコーラ500㍉㍑のペットボトルは1998年から140円を維持していたが、コロナ禍の2022年に160円に値上げ。24年には180円、昨年10月出荷分からは200円時代に突入している。

「置けば売れる」時代に幕

 「自販機の曲がり角は00年代初頭からで、飲料の提供がカフェチェーンやコンビニなど多様化が背景にある」(ダイドー担当者)
 実際に、00年に全国で100店舗ほどだったスターバックスは、25年に2000店舗を突破するなどカフェチェーンが国内で急拡大。コンビニ各社の低価格コーヒーもまたたく間に急拡大した。
 特に象徴的なのがコーヒーだ。セブンイレブンの「セブンカフェ」は13年の発売以来広がり、25年には累計90億杯を突破。缶を開けて飲む手軽さに代わり、レジ横でいれたてを受け取る満足感が日常になった。「価格差が縮まり、同じような金額を払うなら、香りや鮮度が感じられる一杯を選ぶ」という消費者の変化が自販機の逆風となった。
 加えて、喫煙スペースの減少やマイボトルの普及などを指摘する声もある。
 こうした荒波を真正面から受けたのがダイドーだ。同社は売上の約9割を自販機での販売が占め、事業の中核に位置付けている。自販機の不振はそのまま経営に響く。
 26年1月期決算では、国内飲料事業における自販機など事業関連資産の減損損失として約298億円を計上。26年度中に約2万台規模の撤去を進めるとしており、この減損分が数字に表れた形だ。24年度末の約27万台強からみると2万台は約7%にあたり、採算の合わない設置先から引き上げ、オフィスビルや工場など安定的な需要が見込めるロケーションへ軸足を移す考えだ。

AI活用で人手不足に対応

 注目したいのは、同社がこれを「撤退」ではなく「再構築」と捉えている点だ。自販機ビジネスは補充や点検など人の手が欠かせない。物流24年問題や燃料費高騰、人手不足が重なる中、同社では19年から独自の「スマート・オペレーション」を進め23年度からは需要予測や補充計画、商品構成にAIを活用しているという。
 その結果、「ルート担当1人当たりの担当台数は19年度比で約170%、販売金額は約148%となり、約70%の人員で運営できる体制を築いた」という(担当者)。街角の自販機を守るのは結局のところ、現場をどう回すかという人の知恵と仕組みのようだ。

災害時支える生活インフラ

 最後に「自販機はなくなるのか」の問いに、ダイドーは「社会から完全になくなることはない」と強調する。災害時に飲料や物資を届ける拠点であり、地域に溶け込んだ生活インフラでもあるからだ。同社では、「今後も環境や社会の変化に対応しながら、⾃販機のあり⽅を進化させ、次の時代にふさわしい『⾃販機がある⾵景』を描いていきたい」と話している。
 飲料市場自体は底堅く推移しているものの、販売インフラの多様化で、曲がり角にある自動販売機。昭和や平成のように台数を増やせば伸びる時代は終わった。安さではスーパーやドラッグストアに及ばず、いれたての満足感があるコンビニの台頭で選ばれにくくなった。
 街角の白い箱は時代遅れの設備になるのか、それとも選ばれる生活インフラへ進化できるか。ダイドーの挑戦は、その試金石になりそうだ。

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