外交成果の裏で迫るリスク 新「石油危機」対策を考えよ

 日米首脳会談を終え、高市早苗首相は上機嫌で帰国した。そりゃそうだろう。当初は「米中首脳会談前にトランプ大統領と会い、日本の対中姿勢を刷り込む」という青写真だったはずだ。ところが現実はイラン攻撃の真っ最中。肝心の米中会談は吹き飛び、代わりに突きつけられたのは「ホルムズ海峡に艦船を出せ」という米国の無茶振りである。欧州もアジアも及び腰の中、日本は最初に対面する〝都合のいい相手〟となった。
 結果はどうか。ホルムズ問題は見事に棚上げ。波風を立てぬお世辞外交でその場は乗り切った。外交的には「成功」と言っていい。しかし、である。原油の9割を中東に依存する日本の足元の危機は、何一つ解決していない。問題は消えたのではない。見えなくしただけだ。そしてそのツケは、時間差で、しかも確実に我々の生活にのしかかってくる。

夕食会を前に高市早苗首相(右)を歓迎するドナルド・トランプ米大統領=2026年3月19日、ホワイトハウス
(提供:Joyce N. Boghosian/White House/Planet Pix/ZUMA Press/アフロ)

先送り国家に迫りくる生活崩壊

補助金という〝麻薬〟

 日本向け原油の8割はサウジとUAE。その9割がホルムズ海峡を通る。この細い首根っこを押さえられただけで、ガソリン価格は一気に跳ね上がる。大阪でも150円台が200円近くまで急騰し、慌てて補助金を突っ込んで170円台に押し戻した。
 しかし、この〝帳尻合わせ〟がどれだけ危ういか。暫定税率を廃止して減税したはずが、その効果は丸ごと原油高に食われた。さらにコロナ禍で始めた補助金は、累計で約7兆円。もはや「緊急措置」の域ではない。財政の垂れ流しである。
 本来、補助金とは市場の急変を一時的に和らげるための装置だ。常態化した時点で、それは政策ではなく依存になる。いわば麻薬だ。効いている間は痛みを感じないが、体質は確実に弱る。
 しかも日本は「2050年脱炭素」を掲げながら、その裏で化石燃料を補助している。これほど分かりやすい自己矛盾もない。危機を改革の起点にするどころか、従来構造を延命させているだけだ。

静かに襲う生活崩壊

 問題の本質はガソリン価格ではない。そこから先にある。原油高は物流を直撃する。トラックの燃料費が上がれば、運賃が上がる。運賃が上がれば、すべてのモノの価格に跳ね返る。しかも規制強化が重なり、コストは二重三重に膨らむ。
さらに農業、製造業、あらゆる分野に波及する。肥料も、ビニールハウスも、包装資材も、すべて石油の影響を受ける。
 日本の食料自給率はカロリーベースで38%。つまり6割以上を海外に頼っている。その輸入価格が円安と原油高で同時に上がる。結果は明白だ。「値上げ」と「内容量減」。しかもこれは一過性ではない。じわじわと、長く続く。家計を締め付ける〝静かなインフレ〟である。「便乗値上げだ」と怒って済む話ではない。構造が壊れ始めているのだ。

エネルギー政策の袋小路

 では代替はあるのか。ない。これが現実だ。日本の発電の65%は火力。その中心であるLNGは中東依存こそ低いが、価格は原油と連動する。結局同じ運命をたどる。米国からの輸入拡大? インフラも成分調整も追いつかず、即効性はゼロだ。
 石炭も同様だ。国内に埋蔵はあっても、採算が合わないから掘らない。原子力はどうか。事故後の安全対策費と廃棄物問題で「安価」の看板は外れた。要するに、日本はエネルギーの主導権を持っていない。にもかかわらず、その前提のまま政策を続けている。この構造こそが最大のリスクである。

先送り国家の限界

 「円安+原油高」というダブルパンチを、補助金一本でしのぐ─そんな芸当がいつまでも続くはずがない。
円安は国民の資産価値を静かに削り、大企業の利益だけを膨らませる。かつての「輸出で稼ぐ日本」は、製造拠点の海外移転でとっくに終わっている。それでも同じモデルにしがみつく。
 これが日本の病だ。「分かっているが変えられない」。
 本来やるべきことは明確だ。儲からなくなった産業から、成長分野へ資源を移すこと。エネルギー依存からの脱却。食料と安全保障の自立。だがどれも痛みを伴うため、政治は避け続けてきた。そのツケが、いま一気に噴き出している。
 日本は選択を迫られている。補助金で延命しながら静かに沈むのか。それとも構造を壊してでも、次の時代に踏み出すのか。パンドラの箱は、もう開いている。

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