2月28日に始まった米国とイスラエルによるイラン攻撃は、2週間が経った今も双方の応酬が続いている。
この地域で緊張が走ると、毎回取りざたされるのが原油価格の上昇だ。原油を積み込むペルシャ湾の出口にあるホルムズ海峡をイランが封鎖し、原油タンカーの海上輸送が困難になるからだ。特に、日本は原油の約9割をこの中東地域に依存しているため、厳しい状況に直面する。
今回のイラン攻撃。米トランプ大統領は「(イランの)核開発を阻止するため」と言う。それなら北朝鮮の核兵器はなぜOKで、イランはダメなのか─という疑問がわいてくる。
どうやら背景には、米国を巧みに利用するイスラエルの存在があるようだ。

核開発、イランはダメなのに北朝鮮はOK? 待ち受ける日本の試練
米国はなぜイラン嫌い?
世界191カ国が署名する「核拡散防止条約」。この中で核兵器の保有を認められているのは米、露、英、仏、中の5カ国だけ。それ以外の日本やイランは核兵器を持たないことを約束した「非核兵器国」となる。インドとパキスタン、イスラエル、北朝鮮は条約から脱退しており、核兵器を保有しているとみられている。
イランは核開発について「発電などの平和利用」をうたっているが、米国は信用していない。このため、トランプ大統領は昨年6月にも、イラン核施設を攻撃した。12日間の軍事衝突の後、停戦合意が成立している。
今回の先制攻撃は、両国が核開発を巡る協議をしている最中の突然の出来事だった。トランプ大統領が「イランに核兵器を入手させない」とイスラエルと組み、イランの最高指導者ハメネイ師を殺害し、波状攻撃を開始した。
米国は友好国のインドとパキスタンをはじめ、北朝鮮の核爆弾の保有を黙認しているのになぜ、イランだけ阻止するのか?
実は、かつてのイランは親米国家だった。しかし、米国の傀儡とも言われるパーレビ王政の独裁で西洋化が進み、国内の貧富の差は拡大。ついには宗教勢力や民衆の怒りが爆発して47年前(1979年)にイラン革命が勃発。親米のパーレビ国王を追放してイスラム教シーア派の聖職者が率いるイラン・イスラム共和国が成立した経緯がある。このため、米国はイランに対して拭えない不信を持っている。
サウジアラビアをはじめとするイスラム教スンニ派の国々は比較的、米国と良好な関係。しかしイランは、レバノンのシーア派「ヒズボラ」、イエメンの反政府「フーシ派」、イラク民兵「カタイブ・ヒズボラ」、パレスチナ自治区ガザのイスラム原理主義「ハマス」、ガザでハマスに次ぐ「イスラム聖戦」などに資金と武器を与え、各地でイスラエルや米国を揺さぶり続けている。
トランプ大統領はイランの現政権に「無条件降伏」を呼びかけているが、イスラム教では信じる宗教のために命を捨てることは〝最大の美徳〟だけに簡単に応じない。殺害された最高指導者のハメネイ師は生前、「私が殉教したら君たちはイラン全土に散り、山野や地下からドローンなどで敵に攻撃を続けよ」と指令を出していると言われる。
トランプ大統領は「勝った、勝った」と言い続けているが、支持層の中に「犬である米国が、尻尾のイスラエルに振り回されている」と行く末を案じる声もあがっている。
終戦のタイムリミットは7月4日の建国250周年記念日。それを過ぎて秋の米中間選挙までイラン平定がもつれこむようだとイラク戦争やアフガン戦争のときのような泥沼が再来する。
したたか北朝鮮粘り勝ち
北朝鮮はすでに核ミサイル50基を持つと言われる。金正恩総書記にとっては、世界の専制元首が突然、米軍によって排除される姿をたびたび目のあたりにしてきた。パナマ・ノリエガ将軍、米同時多発テロ以降のイラクのフセイン大統領、リビアのカダフィ大佐、最近ではベネズエラのマドゥロ大統領、そして今回のハメネイ師…。「核を持たなければやられる」という恐怖心は大きいだろう。
今世紀に入ってすぐ、米国と日中露韓を加えた「北朝鮮の核開発を巡る6カ国協議」が中国の北京で6回開かれ、朝鮮半島の非核化が話し合われたが、一致点を見いだせないまま休眠状態にある。その間に、北朝鮮は中露を後ろ盾に着々と核開発を進め、核爆弾の小型化と大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させた。
仮に米国が金総書記の斬首作戦に出れば、北朝鮮は米本土や米軍基地のある韓国、日本を核ミサイルで攻撃する危険性が高い。金総書記の「体制維持のための核兵器配備」はすでに完成し、北朝鮮への手出しは困難になっている。このため、米朝核交渉の意味はなくなった。
ちなみに、台湾有事の発生リスクは過去にないほど高まっている。米国とイスラエルが独立した主権国のイランに大規模攻撃を掛けたため、中国やロシアは「中国の台湾併合やロシアのウクライナ東部併合は内政問題。文句を言われる筋合いはない」という論理展開が可能になったからだ。

イスラエルへの異常な肩入れ
さあ、最大の謎である米国がイスラエルに異常なまでに肩入れするのはなぜか。トランプの立場で考えると、保守的なキリスト教福音派系の票を得られることもあるが、一番大きいのは豊富なユダヤ・マネーが思い浮かぶ。米ウォール街などから大量に流れ込む政治資金はユダヤ系のロビイストを通じて米政治に大きな影響力を与えている。ユダヤ国家イスラエルがこうしたロビイストを通じて米国の舵取りに大きな影響を及ぼしていても不思議ではない。
あと、無視できないのはイスラエルの諜報機関「モサド」からの数々の情報だ。イラン攻撃でも都市の防犯カメラ映像やネットのハッキング、電話の盗聴などでハメネイ師の日々の動きまでつかんでいたと言われている。現在、米政財界を揺さぶっているエプスタイン事件(未成年少女に対する性的搾取)で、ひょっとしたら彼と親交のあったトランプの決定的な醜聞をイスラエルがつかんでおり、トランプを揺さぶっている可能性すらある。
攻撃がガソリン値上がりを呼ぶ
今回のイラン攻撃が、私たち生活者に直接影響を与えるのはエネルギー価格だ。日本は全輸入量の8~9割を中東の原油が占める。ホルムズ海峡を通過するタンカーの14%は日本向けだ。
すでに原油先物価格が上昇し始めている。分かりやすくガソリン価格で例えると、現在の全国平均1㍑約157円が、200円程度に値上がる可能性は覚悟しておいた方がいい。
原油は燃料用だけでなく家電などのプラスチック、洋服の化学繊維、ペットボトルや合成洗剤など生活必需品の素材として欠かせない。日本の備蓄量は国と民間を合わせて254日(約8カ月)分あるから慌てる必要はないが、物価上昇が起こるだろう。
日本の海上自衛隊と海上保安庁は、アラビア海の海賊を掃討する名目で以前から中東海域に艦艇と人員を派遣している。将来、米側の要請でホルムズ海峡のタンカー護衛や機雷の除去に狩り出されることになると、台湾有事問題で浮上した国の「存立危機事態」認定がないと動けない。間もなく行われる日米首脳会談を高市総理がどうさばくか。前途多難な風向きになってきた。

