日本全国には、コンビニエンスストアの数(約5万7000店)よりも多い、約7万6660カ寺の寺院が存在する。寺院数が最も多いのは京都府や奈良県と思われがちだが、実際は愛知県が最多で、大阪府、兵庫県と続く(文化庁「宗教統計調査」より)。
寺といえば、葬儀や法事など仏事の場というイメージが強い。しかし近年は、地域の祭りや文化活動、教育、福祉の拠点としての役割も広がっている。写経や座禅などの体験行事をはじめ、寺カフェの開催や地域交流の場として開放するなど、世代や国籍を問わず気軽に立ち寄れる場所として親しまれる寺も増えてきた。
地域社会とのつながりを大切にし、人々の悩みに耳を傾ける住職の存在も、寺の魅力の一つだ。困ったときの相談相手として、あるいは地域の心のよりどころとして、多くの人に寄り添っている。
本企画では、大阪で地域に根差した活動を続ける寺院を訪ね、そこで人々を迎える住職たちの人柄や思いに焦点を当てて紹介する。
「縁」を大切に「感謝」と共に生きていく
浄土宗稱念寺 住職 葭間 弘淳(あしま こうじゅん)さん

―住職が大切にする心構えは「縁」
人は愚かで、弱い。そんな人間の本質を見抜き、念仏ひとつで往生できると説いたのが浄土宗の開祖・法然上人だ。稱念寺の葭間弘淳住職は「私も愚者の一人」と前置きしながら、日々心がけているのは「できない」と言わないことだと語る。「できなくても仕方がない」と諦めるのは楽だが、それでは自分を甘やかすだけ。困難に直面しても受け止め、克服しようと努めることが大切だという。人間関係でも、どんな相手も嫌わずに向き合うようにしており、「いろいろな人と関わることで学びも増えていきます。縁は大事」だと話した。
―「因縁生起」の教えを生かして
こうした住職の心構えは、仏教の教えである「因縁生起(いんねんしょうき)」に基づく。「因縁生起」とは物事には必ず原因があり、多くの縁が作用して結果に至るという道理で、縁起と略される。「縁起に良いも悪いもない。すべては自分が蒔いた種」だと住職。「それなのに、良いことは自分の手柄、悪いことは他人のせいにする人が多い」と嘆く場面も。詩人・相田みつを氏の言葉を引き合いにし「『いいことはおかげさま、悪いことは身から出たさび』と謙虚に受け止めることができたら、どんなご縁も生かすことができる」と示唆。「縁を生かすも殺すも自分次第。袖擦り合うも多生の縁」だと訴えた。
―「おかげ」に気づき「当たり前」に感謝
今も昔も日常生活で飛び交う「おかげさまで」という言葉。気軽に口にするものの、その真意は深い。「人は決して一人では生きることができません。常に誰かの『おかげ』をいただいている。例えば、水道。蛇口を捻れば水が出るのは当たり前。有事の際に『当たり前』を失えば、そのありがたみに気づかされる。『おかげ』の反意語が『当たり前』なのです」と語る住職の言葉が胸を打つ。とはいえ、堪えきれぬこともあるのが人の世だ。「周囲に話せぬ悩みや愚痴は、寺に来て吐き出せばいい。頼っていただきたい」と、葭間住職は穏やかにほほえんだ。合掌
■浄土宗稱念寺/大阪市天王寺区下寺町1-1―19/電話06(6772)3737
アクセス/大阪メトロ谷町線谷町9丁目徒歩8分、大阪メトロ堺筋線、近鉄線日本橋徒歩8分
【住職プロフィール】浄土宗 稱念寺:住職 葭間 弘淳さん(あしま こうじゅん)
大本山百萬遍知恩寺布教師会会長、総本山知恩寺布教師。「お寺の長男」に生まれたが「よそとの違い」に思い悩む幼少期を過ごす。仏教系以外の学修、社会人経験、他寺での修行を経て、見聞を広めたのちに自寺の住職に就いて25年。和合と受容の精神に満ちた月例法話に癒される人多数。
俳優と僧侶―どちらも人に寄り添い、癒やす「業」
浄土宗心光寺 副住職 丈徳(じょうとく)さん

―「役者」の夢にまい進
「もともとお寺を継ぐ立場ではありませんでした」。心光寺の副住職、丈徳さんはそう振り返る。俳優業を志したのは高校時代。「私は次男。夢を追い、大阪芸術大学舞台芸術学科へ進学しました」。在学中から芸能事務所に席を置き、卒業後は東京へ進出。CM出演などを中心に、約10年間活動した。「井筒監督の映画『パッチギ』にもワンシーンですが出演したこともあります」と懐かしそうにほほ笑む。
―人生の分岐点
夢を追う人生に、あるとき、転機が訪れた。住職だった祖父の死だ。「自分には無関係」だったはずの、後継問題が現実味を帯びる。兄は海外を拠点に活動中で、継承の意思はない。俳優業に本腰を入れようと考えた矢先の出来事だったが、「祖父母が長年守ってきたお寺を自分の代で途絶えさせるわけにはいかない」。腹をくくって大阪へ戻ったが、現実は厳しかった。少子化に墓じまい、このままでは「廃寺」の2文字も頭をよぎったという。檀家に支えられてきた従来の形では、守りきれない。「これからは寺も変わらなければならない」と確信した。
―「寺活」への挑戦
ある日、東京の知人から「本堂で芝居を上演できないか」と相談を受けた。目から鱗(うろこ)だった。初めての試みだが心配よりも期待が上回った。上演後は観客から「お寺ってこんな使い方ができるんですね」の声。「私も同感でした。『お寺はこうあるべき』そんな固定観念が解けた瞬間でした」。
2018年、「こころひかる」活動をスタート。ヨガや音楽ライブ、寄席、レンタルスペースなど、地域の人の笑顔や健康につながる取り組みを次々と始めた。「〝寺活〟の先駆け。新しいことへをすると反発も受けて当然ですが、檀家さんに恵まれ、受け入れていただいた」と周囲への感謝を忘れない。
―考える前に行動
「私は、考え過ぎると動けなくなるタイプ。だから、とりあえずやってみる」。失敗して反省することもしばしば。それでも「どんな経験も有意義。ありがたいこと」だと前を向く。「僧侶も俳優も、人に寄り添い、想いを届ける仕事」。人前で話す度胸や表現力も、法話の際に生きているという。「住職になってから種をまくのでは遅い。ご縁を広げたい」と語る丈徳さん。迷いながらも前進し続ける姿に勇気や希望を見出す人は多いだろう。(文・西村由起子)

■浄土宗心光寺/大阪市天王寺区下寺町1-3―68/電話080(8167)9353
アクセス/大阪メトロ四天王寺前夕陽ヶ丘から徒歩10分
【プロフィール】浄土宗 心光寺:副住職 丈徳さん(じょうとく)
僧侶、俳優、「こころひかる」代表。訪れる人の笑顔と健康を目指して、2018年「こころひかる」活動を開始。ヨガ・エステ・音楽ライブ・寄席・レンタルスペースなどの〝寺活〟に取り組む。現在〝世界一こころひかる場所に〟趣旨に賛同する仲間も募集中。
