【歌人・高田ほのか】短歌に込める経営者の想い連載

【短歌に込める経営者の想い〔17〕】有限会社ワキ(和気文具) 岸井祥司社長

(歌人・高田ほのか) 

 ワキ文具は1926年、紙問屋として創業。その後、時代とともに文房具も扱うようになった。6代目の岸井祥司社長はいう。「私は、父が社長に就任するのとほぼ同時期の1998年に18歳で家業を手伝い始めました。とはいえ、最初は継ぐ気は全くなかった。企業から注文をうけた文房具を父と運んでいたんですが、重いものを運ぶ仕事は格好悪いと思っていたし、まだ10代だったので、遊びたい気持ちのほうが強かったというのが正直なところです」 

「日本文具の素晴らしさを世界に伝えたい」と話す岸井社長(右)と高田ほのか

 転機は入社2年後。取引先が少なくなり、会社が経営危機に陥ったのだ。「父から直接、経営状態を聞いたわけではないですが、その表情から相当ヤバそうだというのはぼくにもわかりました。『自分が何とかせなあかん』と、初めて跡継ぎという自覚をもちました」 

 その後、望みをかけて出店した楽天市場で光明が射す。「初めのころは、インターネットという砂漠に店がポツンとあるような感じ。砂吹雪で商品は人からちゃんと見えてるんかなと。そんなある日、仮眠から目覚めたら、メールボックスに〝注文1件〟と赤字が点っていたんです。注文してくれたお客さまの名前は今も忘れません」以後、ネット通販の売上は順調に伸び、3年目には安定した収益を上げられるようになった。 

日本文具の素晴らしさを伝えるため、職人たちと開発したオリジナルのレザー製品

 2013年、岸井社長は「和気文具らしさとはなにか」を探し求めるように、世界の文具店を巡った。すると、旅先でたくさんの日本文具に出会ったという。「旅をするなかで、改めて日本の文具の良さに気づかされました。大阪にも、高い技術を真面目にコツコツ引き継いできた職人たちがいる。ものづくりのまち大阪から、職人たちとともに日本文具の素晴らしさを、世界の人たちに伝えたい」 。帰国後、“第二創業”の想いで、大阪の革職人とともにオリジナルのレザー製品を開発した。 

本革の手帳カバー。やわらかな手ざわりが特徴

 和気文具は大阪の新橋筋商店街に店を構える。創業年と同じ、1926年製のアンティークドアを押して入ると「MADE  IN JAPAN」と記された艶やかな本革カバーが出迎えてくれた。書体を選び、名前を彫刻してもらえるという。 

 店頭にはこんなポップが立っている。「Join us Stationery Holic!! 文具が好きなだけじゃない、中毒になってしまうぐらいハマってほしい」 

 和気文具店はこれからも日本中どこを探しても見つからない、お客さまがホリックするような製品を、大阪の地から生みだしていく。 

あれは革カバーについた掠りキズあるいは遥か君のイニシャル 

手帳には和気文具の思いが綴られている

【プロフィル】歌人 高田ほのか 大阪出身、在住 短歌教室ひつじ主宰。関西学院大学文学部卒。未来短歌会所属 テレビ大阪放送審議会委員。「さかい利晶の杜」に与謝野晶子のことを詠んだ短歌パネル展示。小学生のころ少女マンガのモノローグに惹かれ、短歌の創作を開始。短歌の世界をわかりやすく楽しく伝えることをモットーに、短歌教室、講演、執筆活動を行う。著書に『ライナスの毛布』(書肆侃侃房)、『ライナスの毛布』増補新装版(書肆侃侃房)、『100首の短歌で発見!天神橋筋の店 ええとこここやで』、『基礎からわかるはじめての短歌』(メイツ出版)  。連載「ゆらぐあなたと私のための短歌」(大塚製薬「エクエル(EQUELLE)」)