【短歌に込める経営者の想い〔19〕】ディオニー 前田豊宏社長

(歌人・高田ほのか) 

 ディオニーの前身である前田豊三郎商店は、大正2年、前田社長のおじいさまにより醤油問屋として創業。2代目のお父さまが酒類食品総合卸に発展させる。しかし90年代後半、酒類の規制緩和や大規模小売店の仕入れの東京集中が進み、5年間で売上が7割まで減少してしまう。

家業の醤油問屋をワインと地酒専門の商社へと業態転換した前田社長

 2001年、前田豊宏社長は全責任を負う覚悟で社長となり、ワイン、地酒専門特化型商社へ業態を転換。前田豊三郎商店の名も、〝第二次創業〟の思いからディオニーに変える。

 「亡くなる3日前でしたか。病床のおやじが言ったんです。『俺はこれまでお前のすることに反対したことはなかったやろ』って。それが私が聞いた最後の言葉になりました。怒られた記憶はほとんどありません。何をするにも信頼してくれてたんやなと、病室の廊下で涙が止まりませんでした」

 ディオニーのナチュラルワインには、その一つひとつにストーリーがある。そのなかでも特別思い入れのあるワインが、A CLAR(ア・クララ)だ。

前田社長が特別な思い入れを持つア・クララ

 前田社長はナチュラルワインを生む風土を求めてフランスを旅するなかで、A CLARAと出逢った。造ったのは、ドメーヌ・ド・ラ・ガランスという南仏の秘境でワイナリーを営むキノネロさんだ。

 キノネロさんの長女クララちゃんはブドウの収穫真っ最中に誕生したという。収穫したブドウを圧搾すると現れた淡いピンク色がクララちゃんのイメージそのものだった。キノネロさんはその色をみて、生まれたてのワインに〝クララへ〟、という意味のA CLARAを授けた。「愛する娘の名まえをつけたワイン、素敵だと思いませんか? 口に含んだ瞬間、南仏の風と娘への愛を凝縮したその味わいに涙がでました」

ア・クララを手に持ち、キノネロさんと娘のクララちゃんとの出逢いについて話す前田社長

 生産者の思いを大切にして、商品に愛をもつ。前田社長のフィロソフィーが、また次の素晴らしいワインとの出逢いにつながっていく。

 「風土にこだわったナチュラルワインを求めると、また次の出逢いにつながっていく。不思議ですよね。これからも自然環境や身体にも優しいナチュラルワインを通じて、ヨーロッパと日本の架け橋になりたい」前田社長の瞳は、少年のようにまっすぐ風を追いかけている。

風がまた風を運んでワインとはきのう出逢ったまぶしい手紙

キノネロさんへ贈る短歌

名をつける いいや途方もない風に出逢ってしまっただけだねクララ

前田社長(右)と高田ほのか

【プロフィル】歌人 高田ほのか 大阪出身、在住 短歌教室ひつじ主宰。関西学院大学文学部卒。未来短歌会所属 テレビ大阪放送審議会委員。「さかい利晶の杜」に与謝野晶子のことを詠んだ短歌パネル展示。小学生のころ少女マンガのモノローグに惹かれ、短歌の創作を開始。短歌の世界をわかりやすく楽しく伝えることをモットーに、短歌教室、講演、執筆活動を行う。著書に『ライナスの毛布』(書肆侃侃房)、『ライナスの毛布』増補新装版(書肆侃侃房)、『100首の短歌で発見!天神橋筋の店 ええとこここやで』、『基礎からわかるはじめての短歌』(メイツ出版)  。連載「ゆらぐあなたと私のための短歌」(大塚製薬「エクエル(EQUELLE)」)