都心へのアクセスの良さと、水辺に囲まれた穏やかな住環境。その両方をあわせ持つ都島区ではいま、将来を見据え、「都島区まちづくりビジョン2040『都島区版15分都市』」の策定に向けた取り組みが進められている。今回は、そんなまちづくりの最中にある都島区の区長・藤岡慶子(ふじおかけいこ)さんに話を伺った。落ち着いた語り口の中にあったのは、華やかな開発だけではない、〝日々の暮らし〟にしっかり目を向けた言葉の数々だった。(渡邉 寛子)

「暮らし起点」で描く新しい街
都心近接と暮らしやすさ両立
大阪市の北東部に位置する都島区は、都心部へのアクセスの良さと、落ち着いた住環境のバランスが魅力のエリアとして知られている。JRや京阪電鉄、大阪メトロといった複数の路線が交差する都島区南部の京橋駅をはじめ、中部の都島駅や北部の城北公園通駅など、区内には生活を支える交通拠点が点在している。大阪市中心部へのアクセスはもちろん、京都や奈良、神戸方面など、隣接する府県への移動もしやすく、通勤・通学の利便性は高い水準だ。
一方で、都島区の魅力は利便性だけではない。淀川・大川・寝屋川の三つの河川に囲まれ、水辺の風景が日常に溶け込んでいて、都市にいながら自然の気配を身近に感じられる環境は、住宅地としての落ち着きにもつながっている。
毛馬桜之宮公園をはじめとする河川沿いの緑地は、四季折々の表情を見せてくれる。春には桜並木が続き、多くの人が訪れる一方で、普段は散歩やランニングを楽しむ人の姿が見られ、日常の延長として自然と関われる空間となっている。
水辺でイベントが開催されるなど、自然を感じられる場所が身近にあり、その中で家族で過ごすこともできる。住宅地としても成熟していて、子育て世帯から高齢者まで幅広い世代が暮らしている。さらに、総合医療センターもあるので、健康面でも安心できる。こうした環境は、子育て世代にとっても大きな魅力だ。

「万博の先」へ描く人中心の街
大阪市では現在、大阪・関西万博のその先を見据えた成長戦略「Beyond EXPO 2025」を掲げ、将来に向けた取り組みが進められている。このビジョンでは、水辺を含めた公共空間の魅力向上と安全な歩行者動線・ユニバーサルデザイン等を組み合わせ、都市の体験価値を高めることが謳われている。
また、「大阪のまちづくりグランドデザイン」には、「未来社会を支え、新たな価値を創造し続ける、人中心のまちづくり」という目標が示されている。
近年は、効率性や機能性に加えて、そこに「人がどう感じるか」「どれだけ心地よく過ごせるか」といった視点がより重要視されるようになっている。単にインフラを整備するだけでなく、歩きたくなる道、立ち止まりたくなる場所、人と人が自然に関われる空間づくりが求められている。
こうした考えについて藤岡区長は「これからのまちづくりは 〝便利であること〟に加えて、 〝居心地がいいこと〟が大切になってくると感じています。都島区にはもともと水辺や緑といった資源がありますので、それらを活かしながら、人が主役となるまちづくりを丁寧に積み重ねていきたい」と語る。
具体的には、河川空間のさらなる活用や、公園機能の充実、地域と連携した維持管理などが検討されている。単発の整備ではなく、街全体として歩いてつながる心地よさをどう実現していくかがポイントだ。また、高齢化やライフスタイルの多様化が進む中で、誰もが無理なく移動できる環境づくりも重要。オンデマンドバスの実証実験や自転車利用環境の整備など、柔軟な移動手段の確保に向けた取り組みも進められている。
これらを踏まえて、都島区は「都島区まちづくりビジョン2040『都島区版15分都市』」の策定を進めている。15分都市は、世界的に注目されている都市の考え方のひとつ。フランスのカルロス・モレノ氏が提唱したもので、生活に必要な機能へ徒歩や自転車で15分以内にアクセスできる都市モデルとされている。
15分都市とは単に「近い」という意味だけではなく、キーワードとして挙げられているのが、「近接性」「混在性」「偏在性」「有機物の密度」といった視点。例えば、生活に必要な施設が身近にある〝近接性〟。住宅や商業、公共施設などがバランスよく共存する〝混在性〟。情報によるアクセスのしやすさを示す〝偏在性〟。そして、街に活気をもたらす、人との交流や自然、歴史、文化などの適度な〝密度〟。こうした要素が組み合わさることで、単に便利なだけでなく、暮らしの質そのものを高める都市のあり方が目指されている。
このように、生活に必要な機能が徒歩や自転車で移動できる範囲に集まり、日常が無理なく完結する都市のあり方は、都島区がもともと持っている、コンパクトで暮らしやすい街の構造と重なる部分が多く、既存の環境や資源を丁寧に活かしながら、暮らしの質を高めていくという。
転換期迎える京橋駅周辺
都島区の中でも、現在大きな変化の波が訪れているのが京橋駅周辺だ。京橋はこれまでも大阪有数のターミナルとして、多くの人が行き交う場所だった。一方で、飲食店や商業施設が密集し、にぎわいがある反面、雑多な印象を持たれることも少なくなかった。
しかし現在、このエリアではそのイメージを更新するような、複数の再編プロジェクトが動き出そうとしている。駅周辺の再開発やJR学研都市線の地下化、大阪城周辺で進められる「歩行者ネットワーク」など広域的な整備も検討されており、交通結節点としての機能強化とともに、街の景観や使われ方そのものが変わることによる駅周辺の回遊性や安全性の向上が期待されている。
こうした動きと並行して、駅前空間のあり方も見直され、単なる乗り換えのための場所ではなく、人が集い、過ごし、つながることができる広場的な空間の整備が構想されている。
藤岡区長は「京橋はヒガシの玄関口と呼ばれ、多くの人が行き交う場所。だからこそ、安全で歩きやすく、そして〝また来たい〟と思っていただけるような目的地にしていくことが大切」と、京橋の今後を見据える。複数のプロジェクトが段階的に進むことで、京橋はこれまでの通過する街から、滞在する街へと変化していくことが期待されている。

人口減少時代に「選ばれる街」へ
日本全体で人口減少が進む中、都市部においても「選ばれる街」であるための取り組みが求められている。都島区においても、今後は定住促進や地域の魅力向上がより重要なテーマとなっていく。子育て世代にとっては、安心して暮らせる環境や教育環境、災害時の備えなどが重要な要素となり、また、多世代の働き方やライフスタイルの多様化に対応できる住環境の整備も求められている。
藤岡区長は「地域資源を有効に活用することで、住み続けたいと思える都市環境の魅力を高めていくことが大切」という。
淀川連絡線跡地活用について、大阪市は、活用計画をとりまとめ、区画の一部に保育園を誘致、区民広場を整備するとともに、全区画に「連続した歩行空間」の整備を条件としてプロポーザル方式により事業者を選定した。現在は多世代の多様なライフスタイルニーズに対応する民間の住宅建設が進められている。さらに緑を軸にした潤いのある歩行者動線のネットワークづくりや、交流の場、防災拠点となる地域にひらかれたポケットパークなど地域の防災機能向上にも役立つ施設計画となる予定。
藤岡区長は「日々の暮らしの中で感じる安心感や快適さを大切にしていきたいと考えています。長く住み続けたいと思っていただける街であることが、新しく来られる方にとっての魅力にもつながっていくと思います」と語る。
日常の積み重ねとしての暮らしやすさ。それをどう維持し、さらに高めていくかが、これからのまちづくりの鍵になる。
「人中心」のまちづくりへ
最後に、区民やこれから都島区に関わる人たちへの思いを尋ねた。
「都島区はこれまでも多くの方に支えられてきた街。地域のつながりを大切にしながら、それぞれが安心して暮らせる環境を整えていきたい。そのために、ハード整備とソフト施策を一体で進め、暮らしの手触りを良くしていく必要があります。そうした思いを込めて、「都島区まちづくりビジョン2040『都島区版15分都市』」の策定を進めています。区民の皆さまには、これまで育んでこられた地域の魅力を土台に、未来の都島区を一緒に創っていただきたいと考えています」と藤岡区長。
利便性だけでなく自然の豊かさ、日常の過ごしやすさ、人のつながり。それぞれの要素を丁寧に重ね合わせる都島区のまちづくりは、これからも続いていく。大きな変化の中にあっても、決して「暮らしの目線」を忘れない姿勢こそが、これからの時代に求められる街のあり方を示している。

