【万博を控えた交通事情】大阪は本当にタクシー不足か?

JR大阪駅のタクシー乗り場=1月30日撮影
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運転手は毎月100人ペースで増加

全国的にタクシー運転手の不足が指摘されている。特に大阪・関西万博を2カ月後に控えた大阪では、「交通需要の増加に対応できるのか」と懸念の声が上がっている。実際の状況はどうなのか。大阪のタクシー業界の現状について取材した。(西山美沙希)

 いよいよ大阪・関西万博が4月に開幕する。会期中の来場者数は2820万人を見込み、このうち訪日客は350万人と想定されている。
 こうした移動需要の高まりにより、大阪府は府内で1日当たり最大約1880台のタクシーと約3250人のドライバーが不足すると予想。対応策として「日本版ライドシェア」の活用に乗り出した。
 二種免許が必要なタクシーなどと違い、ライドシェアは第一種運転免許で運行が可能。自家用車の活用も認められている。しかし、現時点ではライドシェアへの参入事業者は少なく、タクシー業界からも「本業のタクシー運行の方が効率的だ」との声が多い。
 ライドシェアはこれまで、運行時間やエリアが限られていたことが参入を妨げる要因になっていた。しかし、現在はこの制限は解かれ、府全域で24時間運行できるようになった。ただ、今後どの程度、参入が増えるかは未知数だ。

運転手の収入増え 人材不足は解消へ

 そもそも本当にタクシー運転手は不足しているのか。大阪タクシー協会の井田信雄専務理事は「(大阪では)実はタクシー運転手が増えている」と意外な言葉を口にする。
 コロナ禍で減少した運転手は2023年3月を底に、実際には回復傾向にあり、毎月約100人ペースで増えているという。
 増加の背景には、運転手の労働条件の改善を目的に、同年5月から行われた運賃値上げがある。初乗り1・7㌔で680円を1・3㌔で600円にし、加算運賃も241㍍ごとに800円だったものを260㍍ごとに100円に改定した。さらに、5000円を超えた分の運賃を半額値引く「遠距離割引」も廃止された。これにより、運転手の収入が改善され、離職者の減少と新規参入が進んだ。
 ライドシェア導入の根拠となった配車アプリの「マッチング率」を見ても、現状ではタクシー不足の根拠は見当たらない。マッチング率が90%を下回ると対象地域とされ、大阪市域交通圏もライドシェア運行の指定地域となっていた。しかし、その後の状況を見るとマッチング率は改善しており、多くの時間帯で90%以上に達しているという。
 加えて、タクシー乗り場の状況も重要な指標だ。大阪タクシーセンターの調査によると、新大阪駅のような主要な乗り場では、特別な事情がない限りタクシー不足は発生していない。深夜の繁華街では、むしろタクシーが余るケースもある。花火大会などのイベント時には、交通規制の影響で一時的に車両が不足することはあるが、これは例外的なケースだ。「タクシー業界は現在、最もバランスが取れた状態にある」と井田さんは話す。

需給バランスは 今がちょうど良い

 万博という大規模な国際イベントに対応するため、追加措置が必要ではあるものの、タクシー運転手が増え、マッチング率も改善している状況を考えると、少なくとも現在の大阪で「タクシー不足」が深刻になっているとは言えない。
 井田さんは「不足に備えるのは大切だが、ライドシェアの参入業者が増えすぎると、せっかく増えたタクシー運転手が廃業に追い込まれる可能性がある。バランスが大切だ」と指摘する。
 万博期間中の需要増にどう対応するのか、ライドシェアの活用がどこまで進むのか。今後の動向が注目される。