観光客参加型演劇で、地域の魅力を全国に発信
劇団と旅行業のダブルキャリアという、珍しい経験を持つ山本知史さん。旅行業時代には300回以上の旅行に添乗し、全国の〝箱物〟を見てきた。箱物というのは、資料館はじめ郷土文化館、古墳や城などを含む施設の総称だ。添乗員として団体客を案内しながら実感したのは、あまり受けがよくないこと。よほど興味がなければ、すぐに出てきてしまうのだ。全国には11万以上もの箱物がある。常々もっと利用しなければ、もったいないと感じていたそうだ。
そして、発生した東日本大震災と新型コロナ禍。山本さんは「劇団も旅行業も完全に崩壊しました。身動きの取れない状態で、2つを掛け合わせるしか選択肢がありませんでした」と振り返る。
演劇と旅行で何をするか? 当時は、リアル脱出ゲームが台頭してきた時代。「これからは体験型のコンテンツでなければニーズを取り込めない」という感覚があったという。こうして誕生したのが、エンタテインメントと旅を融合した観光客参加型演劇「エンタビ」だ。最大の特徴は、地元の住人が役者となって、地域にある箱物で演劇を行うスタイル。劇団員は脇役としてサポートに徹するのだ。シナリオは、施設のテーマやご当地の物語をベースにしたオリジナル。観光業として、地域の魅力を表現する内容にこだわる。
千利休と与謝野晶子をテーマにした「堺利晶の杜」を第一弾に、大型児童館「ビッグバン」や「兵庫津ミュージアム」など精力的に展開。今は即満席になる人気を誇る。近年は、神戸の街を舞台にリアルな防災知識が学べる「避難訓練エンタビ」を制作するほか、モーターショーや企業の周年事業などにも出演の幅を広げる。いつか取り組みたいのは、「原爆資料館」で太平洋戦争の物語を修学旅行生向けに行うことだ。「エンタビの疑似体験を通して、戦争を自分事として感じて欲しい」と意欲を燃やす。
ゆくゆくは全国30カ所にエンタビを展開するのが目標。日本各地の魅力的な場所を発信していきたいと抱負を語る。
(紙面・女性起業家特集より抜粋)
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エンタビ https://www.gekidanplaying.com/