
シニアの海外留学がブーム 50歳以上のパスポート所有、10年で22万人増加
「人生100年時代」を背景に、定年後の新たな自己投資として50歳以上のシニアの海外留学が増えている。シニアのパスポート所有率も10年前に比べて約22万冊増加しており、海外留学EF(イー・エフ・エデュケーション・ファースト)が提供するシニア留学プログラムでは、地中海に浮かぶ小国「マルタ」が人気の渡航先として注目を集めている。
全体のパスポート数は減少、シニアは増加
外務省の旅券統計によると、2014年末に3084万冊だった日本のパスポート数は、24年末に2164万冊と約920万冊減少。
一方で、50歳以上のパスポート数を同期間で比べると、14年末の約73万冊が、24年末には約95万冊へと増加。その間、コロナ禍で所有数が減った時期もあったが、最終的には約10年で約22万冊以上増えている。
ただ、「パスポート数の増加は、単純に高齢人口が増えているからでは?」の疑問もあるだろうから、人口に対するパスポート所有率の推移も見てみたい。その結果、14年が約0・13%だったのに対し、24年は0・16%。およそ「775人に1人」から「644人に1人」が所有しており、実際にシニアにとって海外が身近になっていることがわかる=下表。

海外暮らしでしか味わえない異文化交流
シニアの海外留学が増えている理由には、①人生100年時代による生涯学習への関心の高まり ②円安の中でも比較的費用が抑えられる短期留学プランの普及−−が挙げられる。
実際に、東京や大阪など全国に8カ所ある海外留学EFの窓口にも、シニアの留学希望者が頻繁に相談に訪れている。
同社は欧米では最も有名な世界最大規模の私立教育機関。日本支社の伊東グロニング七菜社長は「仕事をしている時期には一定期間が必要な海外暮らしはできないから、定年後に夢だった海外留学を実現させたいというニーズがある」と説明したうえで、「人生100年時代を見据え、国もリカレント教育に力を入れている。60歳定年で計算すると、人生はそこからまだ40年も続く。せっかくの人生を余すところなく楽しむ一つの選択肢として、異文化交流のできる留学が注目されている」と話す。
人気の渡航先は地中海に浮かぶマルタ共和国
同社はシニアの短期留学先として、米サンタバーバラやドイツのベルリン、イタリアのローマ、南アフリカのケープタウンなど14の渡航先を提供。中でも人気なのは欧州ではリゾート地としても有名な地中海に浮かぶ島「マルタ共和国」だ。
欧州屈指の温暖な気候で、毎年8万人の留学生が訪れる。島内にはEFをはじめ、40以上の語学学校があり、欧州の国々の人の英語留学先として人気を集めている。欧州の中でも比較的物価が安い点もシニアに好評だ。治安の良いマルタは国民もフレンドリーで、せかせかすることなく楽しくマイペースに暮らしている。
マルタ観光局によると、英語を学びに来る学生の国籍はドイツ、フランス、イタリア、スイス、ロシアなどが多い。日本からの問い合わせも多く、「(現地には)日本人が少ないから留学先として考えているという意見をよく聞くようになった」という。
EFの伊東社長も「覚えたての英語を母国語がバラバラのクラスメイトと交流することで、さらに磨きをかけることができる」と話している。

「何歳からでも学べる」シニア留学の魅力
実際にマルタで2週間の語学留学を体験した広島市在住のSさん(当時72歳)夫婦。マルタの印象について「リゾートの雰囲気と日本の都会的な街並みが相まって、治安の良さや安心感を覚えた」と話したうえで、「現地の人はみんな親切で陽気。いくつになっても世界を知ることは楽しい」と語った。
EF大阪支社の市川万耶支社長は「シニア世代は語学だけでなく、現地の文化や交流を楽しむことを目的に留学を選ぶ傾向が強い。人生経験豊かなシニアだからこそ、留学のメリットを最大限に享受している」と話している。
今後も拡大が予想されるシニアの海外留学ブーム。人生100年時代を楽しむ選択肢としてさらに注目されそうだ。
