各地で豪雪が相次いだ今冬、極寒の北海道や東北では、電気代高騰のニュースが駆け巡った。近畿地区をカバーする関西電力はそれほどではなかった印象だが、「例年と同じ使い方をしていたのに請求が5万円だった。すぐに床暖房を禁止にした」という読者もおり、エアコンがフル回転する今夏がどうなるか予断を許さない状況だ。
時代は「脱炭素化(カーボン・ニュートラル)」とか、ウクライナ侵攻と超円安による「発電原材料の高騰」で先行き不透明。最近急に言われ出した「エネルギー国産化」って、何?サクッとお教えしましょう。
中東石油、波乱含み 電気国産化へ道険し
安いはずの新電力が割高に?
まず電気代の動きを振り返ってみよう。コロナ禍で需給バランスが崩れ、一時は世界的に原材料価格が下がったが、1年前に産油国のロシアがウクライナへ侵攻すると一気に反転して急上昇。日本では規模の小さい沖縄電力と、逆に大規模だが福島原発の事故処理で実質的に倒産状態にある東京電力の上がり幅が特にひどい。
ところで、7年前の「電力の小売り自由化」を覚えているだろうか。このタイミングに新電力会社に切り替えた家庭や会社は数多くあるが、この最近は新電力の方が割高になってしまう傾向がある。
そもそも新電力はスポット市場「JEPX」で安い電気を買い付けて小売りするビジネスだが、エネルギー価格が高騰してからは、〝安い〟はずだった新電力が旧大手10社より割高になる現象が一部で起きているからだ。
省エネ、費用対効果吟味を
「どの電力会社を選ぶか?」は、インターネットの比較サイト「エネチェンジ」で調べられるが、2人以上世帯で月平均2万円台まで、単身世帯で1万円台までなら焦って変更する必要性は薄い。法人契約は新規の受付を停止している旧電力、新電力も多いので要注意だ。
個人でできる電気代節約の最高の方法は、やはり自分で作ることだ。屋根に太陽光発電を設置するのが一番だが、初期投資が高額なので「将来的にペイするか?」はじっくり計算した方がいい。一般的に冬の方が電気代はかさむ。夏のエアコンは電気オンリーだが、冬のヒーターはガスや石油のファンヒーターの方が安くつく。照明のLED切り替えは蛍光灯に比べ電気代が3分の1程度になるが、これも初期投資に見合うかどうかの見極めが大切だ。
見逃されがちなのは、在宅時間が長ければエネルギー費用が掛かる点。特に最近はリモートワークが普及したことから家で仕事をする人も増えた。昼間はできるだけ冷暖房の効いた図書館や公民館、ショッピングセンターで時間つぶしするのも手だ。
急には止められぬ原発
先日、関西電力と中部電力、中国電力、九州電力の旧大手4社による価格カルテルが発覚。最高1000億円の課徴金を取られることに。小売り自由化によって、互いのエリアで顧客を取り合わないための裏工作だった。旧大手は送電線を抑えているから新電力に対して優位な関係にある。
日本の発電量の内訳を見てみよう。東日本大震災までは、天然ガス(LNG)火力、石炭火力、原子力がほぼ3分の1ずつで9割を占めていた。福島原発事故以降は、LNGと石炭がわずかに増えて計7割、水力と再生可能エネルギー(太陽光や風力など)計1割、一時ゼロになった原子力が1割弱、残りは石油火力の比率に変わった。
関西電力の電気代が安いのは、7基所有している原発のうち、5基を稼動させているから。国は原発の稼動期間の引き延ばしを推し進めており、停止中の原発再稼働にも意欲的だ。確かに原発は、原材料のプルトニウムが入荷しやすく、安価で安定した電力源。一番の弱点は震災などが起きたときに急に停められないところ。ゆっくり冷やし続けないと福島原発のような大事故につながり、何十年も人が住めない重大な結果を招く。災害だけでなく、ウクライナ侵攻で明らかになったように侵略国家や過激派テロの標的になる危険も付きまとう。
自公政権と経産官僚そして財界は、こうした重大リスクを小手先でごまかさず、キチンと国民に説明する義務がある。
進まぬ代替案、一長一短
国からの再三の節電要請で分かるように、日本は圧倒的に発電量が足りない。電気は遠くに送電するほど放電ロスが起きるし、大量に貯めておけないから必要な時に必要な量を作るしかない。この綱渡りのような状況を脱するには、①省エネや節電で、そもそもの消費量を減らす②原材料を輸入に頼っている火力の比率を下げるため、国産の再生可能エネルギーを増やす─しかない。
とはいえ、日本よりも欧州の方が状況は悪い。ロシアから天然ガスが入らなくなると、原発稼動の延長や米国に緊急輸入を頼むなどてんやわんや。その分、世界的に天然ガスの価格が上がり、円安の日本は買い付け競争で勝てなくなっている。
加えて、あまり報道されていないが、イランとイスラエルの対立激化も今後、悩みの種になりそうだ。日本の原油輸入はほぼ中東からで、サウジアラビア、UAE、クウェート、カタールの4カ国で9割以上を占める。仮にイランとイスラエルが戦争に突入すれば、イランはペルシア湾沿岸諸国の原油の搬出路となるホルムズ海峡を封鎖する可能性もある。エネルギー安定供給は綱渡りだ。
日本の再生可能エネルギーはどうだろう。太陽光は風水害を避けるために広い平地がいるが、国土の狭い日本は都市部の建物の屋根を利用。東京都は新築住宅に設置を義務付ける。風力は、人家が近いと独特の風切り音の影響が大きく、遠浅海岸部が理想。北海道・東北のように風が強いエリアが設置に向いているが、海は深い。火山列島のわが国は地熱発電も有望だが、調査開発に金が掛かり、規模が小さいのでコストが割高になる。どれも一長一短だ。
旧大手は夏にまた値上げ
政府は8月まで電気代の補助として、全ての一般家庭(夫婦と子ども2人)に月額1820円、9月は半額の910円を税金から支出する。旧大手7社(関電・中電・九電を除く)は、統一地方選が終わった夏前に再び電気料金の値上げに踏み切る方針だ。深刻なのは産業界も同じ。電気代などのエネルギーコストを価格転嫁できない非製造業(運輸・サービス・小売りなどの内需型産業)は、原材料の値上げもダブルパンチで来るから、売り上げが上がっても収益率が落ちる企業が続出している。
電気は人類が作り出した最大のエネルギー。かつて米国でエジソンに敬意を表し「1分だけ停電して功績に報いよう」と計画したが、片時も欠かせない必需品で無理だったことがある。電気こそ、人類の生命線であり、無関心ではいられない。