9月30日夜、フェニーチェ堺(大阪府堺市)の客席に身を置いた。開演を待つ会場には、これから始まる音楽への期待が静かに満ちていた。この日、ステージに登場したのは、英国を代表するオーケストラで、世界でもトップクラスのロンドン交響楽団(LSO)。ジャパンツアーの一環として、堺で歴史的な演奏会が開かれた。

新体制の首席指揮者、サー・アントニオ・パッパーノがタクトを振る。この夜演奏されたのは2曲。冒頭は藤倉大の新作委嘱作品「Amber Alchemy」。現代的な響きがホールを満たしたかと思うと、休憩を挟まず、グスタフ・マーラーの交響曲第2番「復活」へと音楽が移っていく。

演奏が始まった瞬間から、観客の心を鷲づかみにし、一気に音の世界へと引き込んでいく。
マーラーの「復活」は、全5楽章からなる大作だ。演奏時間はおよそ80~90分。だが、曲中のストーリーに引き込まれ、時間を感じさせない。
暗く重苦しい雰囲気で始まる第1楽章。コントラバスやチェロが刻む重厚なリズムは、人間の苦しみや悲しみをダイレクトに伝えてくる。音が重なるたび、重い感情が胸の奥へと迫ってくるようだった。
そこから一転、第2楽章では、幸せだった時間を思い出すかのような穏やかで優しい世界が広がる。激しさと静けさ、生の喜びと喪失感。その対照が、音楽の中で幾度も交差する。
そして終楽章 。混沌とした世界に一筋の光が差し込むように、遠くから金管楽器のファンファーレが響く。少しずつ音が重なり、クライマックスへと導かれていく。
マリア・ベングトソンの気品ある透明なソプラノ、ノア・ベイナルトの温かみのあるコントラルトの独唱。そして客演した東京混声合唱団の凛とした歌声が、LSOの強靱なサウンドと融合する。
最後の大合唱とオーケストラの全合奏が重なった瞬間、ホール全体が凄まじいエネルギーの奔流に飲み込まれた。すべての音が鳴り終わった後も、その余韻が空間に残っているようだった。数秒の静寂を置いて、会場から一斉に拍手が湧き起こる。「ブラボー」の歓声も重なり、オーケストラがステージを去るまで、拍手が鳴りやむことはなかった。
世界トップレベルのオーケストラが鳴らす「生と死」のドラマは、聴き手の心に強烈なカタルシスをもたらした。
演奏を聴き終え、ホールを出ても、最後の大合唱の余韻が耳に残っていた。LSOとパッパーノが、ここ大阪・堺の地に刻んだ「復活」の記憶は、これからも熱く生き続けるに違いない。
