熊本で10年ぶりに大きな地震災害があり、関西では「南海トラフ地震と関係があるのでは?」と心配する声がネットで飛び交っている。
私は毎日新聞編集局編集委員として阪神・淡路大震災(1995年)をつぶさに現場取材し、そのメカニズムを研究調査報道した経験がある。2度の熊本や阪神・淡路のような浅い直下で起きる活断層型地震と、東日本(2011年)や南海トラフのような深い海の底で起きる津波を伴う海溝型地震の違いとの関連性は意外に知られていない。そして同じM7.3の活断層型地震なのに死者約6500人の阪神・淡路に対し、死者ゼロだった鳥取県西部(00年)との比較から大都市と過疎地の災害対策を考えた。

地震大国どこでも 油断禁物
熊本・阪神・鳥取から考える都市防災

活断層型と海溝型がある
活断層型地震は陸地プレート内部にある断層のズレで起こる。震源地は浅く、狭い範囲で激しく短時間揺れる。下から突き上げる揺れで家屋倒壊や土砂崩れ、都市火災などを引き起こす。突発的で緊急地震速報が間に合わないことも多く減災対処は難しいが、基本的に津波は伴わない。能登半島(2024年)もこれだ。
海溝型は海側プレートが深い海底下に沈み込む際に一緒に引き込まれた陸側プレートが跳ね返ることで起こる。広範囲に長い揺れが続き、巨大化した津波が沿岸部を襲う。数十年から数百年単位で発生を繰り返す。実は関東大震災(1923年)もこれで、千葉・東京沖の「相模トラフ」が動いたことが原因とされる。
その他に火山性地震(14年の桜島など)もあるが、規模が小さく関西に活火山はないため割愛する。
大阪にも活断層多数
活断層型は突発的で、付近の別の活断層を刺激しドミノ倒しのように連鎖する危険性が高い。今回の熊本も10年前の〝割れ残り〟とされる。厄介なのは国内活断層は2000カ所以上あり、国が重点警戒している「主要活断層帯」だけで114カ所、中でも危険度が高い「Sランク」は31カ所にのぼる。今回の熊本の日奈久断層帯もSランクだった。
大阪のSランクは上町断層帯。豊中から大阪市内の上町台地の西側に沿って南北に走り堺から岸和田まで達する約42㌔。これが動けば被害は死者4万2000人、経済損失74兆円に及ぶと想定される。府内には危険度が一段低いAランクの生駒断層帯(枚方─羽曳野、38㌔)や、大阪府北部地震(2018年)に関係したとされるZランクの有馬─高槻断層帯(55㌔)などもある。さらに日本最大の断層帯・中央構造線(茨城─熊本、約1000㌔)が府と奈良・和歌山県境付近を東西に走っており、ほぼ全域で予断を許さない。
過去被害は甚大驚がく
南海巨大トラフは、静岡・愛知沖「東海トラフ」、紀伊半島沖「東南海トラフ」、そして四国沖「南海トラフ」を併せた総称。神奈川・東京・千葉沖の「相模トラフ」とは伊豆半島で分断されているが、海底深い部分ではつながっているとされる。
東日本の震源地が陸地まで130㌔ぐらい離れた海底で津波到達まで15〜20分あったのに対し、南海トラフが仮に紀伊半島・串本町沖で崩壊した場合、海岸部近くにトラフがあるため最短1分で1㍍以上の津波が到達する厳しい状況が予想される。近年の南海トラフ関連地震は、伊豆半島から紀伊半島にかけて死者1300人を出した「昭和東南海」(1944年)と紀伊半島から四国で1400人が亡くなった「昭和南海」(46年)。いずれも5㍍(ほぼビル3階に相当)前後の津波が短時間で沿岸部を襲っている。それから80年がたち「100年周期とすればそろそろ」という訳だ。
さらに古い南海トラフの関連地震は「元禄関東」(相模湾から房総半島、1703年)で高さ10㍍の津波で死者2万人。トラフ全域が同時破壊した有史以来最大のケースが「宝永」(07年)で死者2万人以上。被害規模は房総半島から九州まで広がった。49日後には連動して富士山が宝永大噴火を起こし、江戸まで火山灰が降った記録がある。巨大地震が地殻内にさまざまな刺激をもたらすという証明だ。
南海トラフ巨大地震と聞いただけでは規模をイメージできない人も、こうした過去の被害実績から事の重大さを理解できるはずだ。
過密地は災害に弱い
阪神・淡路と鳥取県西部の死者数が極端な差になったことは都市防災を考える上で大きな減災へのヒントとなる。神戸の被災地では人口密集地で家屋倒壊から火災が発生、消防車はがれきに行く手を阻まれ被害が一気に拡大。一方鳥取の郡部は過疎地でしかも豪雪地帯。家屋はゆったりと点在し、雪害防止上基礎が丈夫だった。人口密度が低い分、近所付き合いが濃密で災害時の安否確認も容易だった。
さらに都市部密集地では地下街や地下の鉄道駅での停電・浸水が最大リスクになる。真っ暗な中で逃げ遅れたら津波による出水で水死しかねない。大阪市内で大きな揺れが来た時、もし地下にいたら、取りあえず2階以上の駅高架やビル階上に避難することだ。安全に階上へとどまれるなら、帰宅を急ぐ必要はない。どうしても地上を行きたいのなら「生駒山のある東方向へ」が鉄則。海側や川べりは津波リスクがあるから選択しない方が安全だ。仮に津波が来たら、たった40㌢の水位でも足を取られ押し流されかねない。
増え続けるタワーマンションなどの被災は、ゆっくりと揺れ続ける長周期震動で地震被害自体は軽減できても揺れは10分ぐらいは収まらない。ようやく止まってもエレベーターの復旧になお時間を要する。阪神・淡路大震災の私自身の経験では、地震後に10階以上の階段を昇降して行き来する精神的体力的余裕は十分に保てないから、その時点で室内にとどまるしか選択肢はない。マンション籠城を覚悟することだ。
鳥取県の例を見ても郊外の一戸建家屋は安全度が高いことが分かる。建物が被害を受けてもマイカーさえあれば片付けを後回しにして我が家を離れ、余震に備えて車中泊も選択できる。どれほどの大災害でも3日間自力でサバイバルし生き延びられれば必ず救援の手は差し伸べられる。自分と家族の命を守ることを最優先にした行動計画を頭の中でまず描いておこう。

