「会社にいれば昇給」時代は終焉 大企業で給与・雇用の大転換

 このところ、日本の大企業の給与と雇用の変化が何かと話題になっている。大和ハウスは新卒初任給を一挙に10万円上げ35万円にしたかと思えば塩野義製薬は実質定年制廃止、また大手のメガバンクや生保・証券会社は業務の一部AI化で新規採用減を模索している。我が国は「少子高齢化」で現役労働者人口は年々減少、企業は生き残りを賭け〝実力ある即戦力人材〟を求めている。日本企業の伝統であった「新卒で入社し、同一企業で働き、定年で退職金を手に去る」という雇用はどこに向かうのか?

昇給を示す給与辞令と現金のイメージ

日本型終身雇用は終了!?

「住宅建設」勝ち組比較

 住宅建設業界で誰でも知っている大和ハウス、積水ハウス、オープンハウスの3社を例に給与から浮かび上がる雇用の方向性を考えよう。
 「大和ハウス」平均年齢40・7歳で平均年収1101万円(月給重視で安定と高水準)、「積水ハウス」同43・5歳で907万円(賞与比率が高めで標準的)、「オープンハウス」同34・7歳で914万円(超インセンティブで成果主義)
 「大和ハウス」はこれまで住宅不動産業界の常識だった「ボーナス(成果報酬)で稼ぐ」という給与体系を覆し冬のボーナスを廃止、月給に組み込む大改革を行った。狙いは営業拠点の都市圏集中に伴い、富裕層向け住宅などを進めるのに浮き沈みがある成功報酬でなく「高い基本給で、優秀なチームプレイヤーを中長期的に囲い込む」という令和的な〝選択と集中〟を実行したからだ。「積水ハウス」は大和ハウスより単価の高い超富裕層住宅建設が元々強い上に、子会社「積水ハウス不動産の分譲住宅『ノイエ』」で中間層にもアプローチ、さらに地方工務店などに同社得意のプレハブ骨組みなどだけを提供する部門と全地域で全方位。既に売り上げの3割は米国など海外事業に移し安定。給与は営業職の成果報酬を大きく残す一方で、社宅や育児休暇取得も積極的と一般社員への福利厚生で平成的な安定感を醸している。オープンハウスは「大和ハウスと積水ハウスの戸建てやタワマンは高額過ぎて手が出ない」という〝持ち家がほしい中間層〟に強い。両社が手を出しにくい狭い敷地での住宅建設も得意だ。家を売った分だけ年収に跳ね返り、学歴も年齢も関係なく管理職に登用される。モーレツ社員が当たり前だった昭和のやる気と元気が持ち味だ。
 この3社比較の答えは「善し悪し」ではなく、働く側が「企業に何を望むか?」の選び方が分かりやすい。企業の望む〝選択と集中〟を受け入れ自身を変化させ働くか?企業ブランドを大切に日常生活を安定させ働くか?同世代で最も稼げる場所で猛烈に働くか? の違いだ。

ここでも「選択と集中」

 企業の定年年齢は、昭和の55歳から、平成の60歳、令和の65歳と高齢化社会を反映して延びてきた。塩野義製薬の「実質定年廃止」は現行の65歳定年を廃止し、65歳以降も正社員として1年ごとに成果評価し終了年限をもうけない制度だ。政府が提唱する「70歳まで雇用」の流れの中で一見朗報に聞こえるが、私にはシビアな選別が透けて見える。
 かつてのプロ野球担当番記者時代、当時の球団代表から選手の契約交渉について「年俸1億円でも必要な選手は必要、年俸360万円でもいらない選手はいらない」と聞かされた事がある。「昨年年俸1億円で契約した選手が、今年は自由契約(クビ)がありうる」との冷徹さ。プロ野球チームにとって「勝つために必要か否か?」がすべて、過去の貢献度を考慮し二軍ベンチにいてもらっても意味がない、という訳だ。
 当時の私は「プロは厳しいなぁ」と単純に感じたが、これからの高齢者雇用は企業にとってAI化も含めた「代替がない人物か否か」で判断される。新陳代謝の見地から、同じ能力なら若手人材が登用される。余人をもって代えがたい存在となって初めて高齢者でも在籍が許される時代に。逆に若手人材が入らずAI化もできない企業や組織は、業務内容を理解している高齢者を効率が悪くても使い続けるしかない。

退職金廃止の底流は?

 退職金制度は日本の終身雇用制度(新卒一括採用・年功序列・定年退職)の根幹だった。社員は一緒に社員食堂で昼食をとり、夜は上司の悪口を言いながら一緒に飲み、社内派閥抗争と出世争い、そして一律年齢でのリタイアで去る。そんな昭和のテレビドラマみたいな勤務実態は過去の事に。それを支えていたのが定年退職して初めて満額支給される退職金。転職チャンスがあっても退職金が減額されては困るから思いとどまった時代もあったのだ。
 今や退職金制度そのものを止めたり、夏冬の賞与を止めて、毎月の給与に繰入支給する企業が増えた。IT革命やAI化が急速に進み、必要な人材のスキルは時々刻々と変わる。在籍社員に学ばせ担当させるだけでは追いつけないから外部から中途採用せざるを得ない。しかし賞与や退職金は過去の実績や年数を反映して決められ、中途採用者にとっては不利な制度で企業の人材確保は簡単には進まなかった。社員への報酬額を勤務実態に合わせダイレクトに反映することで人材は一気に流動化。強い企業はますます必要な人材が集まりやすく、逆に弱くなった企業はどんどん人材が流出して弱体化することになる。
 以前は企業内で、営業や製造の現場管理職を経験し最終的に総務・経理畑のトップとなるような万能型社員が立身出世した。しかし専門スキルが第一に求められる時代では在籍企業でしか通用しない社員は必要とされない。一方で特殊なスキルを持った人材はかつて〝オタク〟とやゆされたが、今ではコロナ禍を経て急速にネット環境が進み日々働き場所を替えてでも生きられる。時代は着実に変わった。

若者こそ大変な時代

 若者がよく使う言葉「タイパ(時間的合理性)」と「マニュアル化」は、実際はAIが最も得意とする領域。整理整頓こそ面倒だが誰がやっても答えが同じ「作業(タスク)」はAIが無機質に素早くこなすからスマホを遣い慣れた若者すら必要とされない。AIでは処理できない営業トークや人間関係構築など「人と人の摩擦」分野は企業で独自スキルを持った人間がこなす時代となる。対面で相手の感情を読みながら本音を引き出し即座に対応する俗に言う〝空気を読む〟能力はAIには備わっていないからだ。
 既にAI化が進む米国では、現場ごとに構造が異なる水道や電気の修理、刃物を使い個別にカットする理美容、その日の客の好みや素材に合わせて味や香りを微調整する料理人、患者の反応に合わせて対応できる看護・介護などの現業部門で専門性を持った人間ならではの優位性があれば収入面での逆転現象が起きている。
 これまで日本企業は、若いころは「安くコキ遣い」、40・50代で「一番高い給与」、定年後は「嘱託で再び安く囲い込み」という終身雇用を通じた皆が一律のどんぶり勘定システムだった。それが入口・中間・出口のすべてで「その時期その瞬間、どれだけの価値と実力があるか?」のリアルタイム査定に変貌しつつある。誰でもAI利用が当たり前の時代。「どの道を選ぶか?」その選択肢はAIに示せても、決めるのは自分自身の決断。ジッと会社で下を向き、上司の指示だけ聞いている〝社畜〟暮らしで給料が上がる時代はとっくに終わったのだ。

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