米国のイラン攻撃は硬直化し和平交渉は暗礁に乗り上げた。経済活動と国民生活の命綱・石油輸入先の94%を中東に頼る日本。第1次石油ショックで原油価格が一挙に4倍に急騰したのが1973年10月で半世紀以上前。石油ショックや露ウクライナ侵攻など度重なる〝石油危機〟を経て、我が国は対策強化したが安心は禁物。過去の原油高騰時の影響は、第1波がガソリン・軽油価格で直後の1週間後、第2波はLNG・重油価格由来の電気・ガス料金で3~4カ月後、とどめの第3波がナフサ不足での食品・日用品全般の値上がりで半年後に襲ってくるからだ。真打ちナフサを深掘りしてみよう。

ナフサは〝石油製品の王様〟
日常生活影響広く重く
6割輸入の精製ナフサ
ナフサは別名〝粗製ガソリン〟と呼ばれ成分はガソリンとほぼ同じ。高熱分解して再合成し、基礎原料のエチレンやプロピレンになる。エチレンは、ポリエチレン(レジ袋、回収用ゴミ袋、食品容器、洗剤ボトルなど)、エチレングリコール(ペットボトル、エンジン冷却液など)、塩化ビニール(水道パイプ、ビニールハウス、床材などの樹脂原料)、ポリスチレン(断熱材、食品トレイなど)に。プロピレンは、プラスチックの一種・ポリプロピレン(自動車部品、家電、容器、包装フィルム、紙おむつ、マスクなど身の回りのあらゆるプラスチック製品)や、アクリロニトリル(アクリル繊維の衣類、ABS樹脂など)、プロピレングリコール(化粧品、医療品、食品添加物など)、フェノール・アセトン(接着剤、ポリカーボネート樹脂など)に加工され〝石油化学製品原材料の王様〟と言われ、身の回りを見渡せば目に入るものばかり。ゴミの分別収集で『廃プラ・ペット』で出す袋の中身は全てナフサ由来と言っても過言ではない。
読者の皆さんは「高市総理が 『年末まで』と言ったが、原油備蓄は十分あり年明けまで大丈夫。経済面での節約呼びかけは必要ない〟と言っているのに、なぜナフサが不足するの?」と思うはず。我が国の石油精製所では原油を熱処理して蒸留する際、ガソリンを優先しナフサは国内消費量の4割しか精製していない。残る6割は精製済みナフサを中東から製品輸入している。ナフサ加工品は圧倒的に中国での製造量が多く、国内でナフサ精製するメリットが減少しているからだ。ガソリン・軽油は政府補助金で小売価格を抑えているが、ナフサに補助金制度はない。
住宅建設で風呂浴槽やトイレ便座が一つでもなければ完成引き渡しは出来ないし、プラ容器が作れなければ菓子や食品の生産ラインが止まる。安価で便利な石油製品に代わって、木や紙、ガラス由来品へ簡単に置き換える訳にもいかない。
我々は〝品不足と値上げの連鎖〟は一昨年からのコメ不足で経験済みだ。あの時も政府は「供給不安から、一部で過剰在庫し流通目詰まりが起きている」と品薄自体を否定したが、結果的に高値止まりになり元の価格へは今も戻っていない。ナフサ由来品もそうなる危険性が実は高い。
原油価格はジリジリ上がり、円安が追い打ちを掛ける。政権は国民生活の不安を抑えるためガソリン・軽油と電気・ガス料金には補助金投入で価格上昇に抑制を掛けしのぐが、ナフサ不足と価格高騰はすそ野が広い原材料部門で手の打ちようがない。すでにアジア市場のナフサ価格は4倍に急騰、国産はイラン攻撃前の1~3月が1㌔㍑あたり6万5700円だったが4~6月は8~11万円程度に値上げの予測値が出ている。

中東依存改める好機
改めて石油の現状を考えてみよう。1970年代の学校で「世界の石油はあと30年で枯渇する」と習った方は多い。ところがあれから50年経っても石油はなくならない。海底や凍土からの油田発掘技術が進み、最新データでもやっぱり「石油はあと50年大丈夫」。一時は地球温暖化対策推進で〝脱石化燃料〟が叫ばれたが、露ウクライナ侵攻とトランプ米大統領登場で旗振り役だったEU(欧州連合)が手詰まり状態となり、世界は石油・石炭大量消費社会へと戻りつつある。
石油の推定埋蔵量を国別に見ると①ベネズエラ17.5%②サウジアラビア17.2%③カナダ9.7%④イラン9.1%⑤イラク8.4%⑥ロシア6.2%⑦クウェート5.9%⑧UAE(アラブ首長国連邦)5.6%⑨米国4%⑩リビア2.8%だが、現実の生産量で見直すと①米国②サウジアラビア③ロシア④カナダ⑤イラン⑥イラク⑦中国⑧UAE⑨ブラジル⑩クウェートになる。
ホルムズ海峡不安は、日本の〝脱中東依存〟好機とも言える。事実、日本政府はロシアからのサハリン原油輸入を再開したし、パナマ運河経由の米テキサス産原油の第1陣も既に到着済みだ。
後は原油の質が問題。日本の製油所は長く中東原油中心に扱ってきた。ロシア産は中東産と同じ中質油だが、米国・カナダ産は軽質油で精製手順が異なる。日本国内で油田開発したいところだが、新潟などの産油生産量は国内年間消費量の0.3%しかなく輸入先を工夫しやりくりするしかない。

リスク分散急げ!!
日本向け中東原油の8割以上はホルムズ海峡を通る。イランにとってこの海峡は自国防衛の生命線。海峡封鎖で米国に対抗、世界を震撼させるに十分な効果だった。第1次石油ショック直後の75年に元通産官僚の作家・堺屋太一が、中東からの原油輸入が途絶え崩壊する日本社会を描いたSF小説「油断!」を発表、国民に警鐘を鳴らし予見した。日本は食糧・経済両面の安全保障上の観点から省エネ推進とリスク分散を急がなければならないのに、今も出来ていない。
先の連休中に高市総理はベトナムと豪州を歴訪、首脳同士でエネルギー政策などを話し合った。トランプ大統領の「アメリカ第一」主義は米国国益にすらなっていないが、そんな人物だけを頼っていては日本は安全保障だけでなく、国民の日常生活が危機に陥りかねない。EU内の首脳は「次」を見据えた〝トランプ離れ〟が急。日本の安全・安心を守るには米国に足元を見られる事なく、中東原油動向に一喜一憂せず、したたかに代替〝プランB〟を用意する国際的目配りが早急に必要だ。
