iPS再生医療がついに実用化へ 大阪・中之島の一つの屋根の下で起きた〝歴史的転換〟

 iPS細胞を用いた〝夢の医療技術〟がついに、研究室を飛び出して医療現場に降りてくる。厚⽣労働省の専⾨部会が2⽉19⽇、iPS細胞から作られた2つの医療製品について、条件や期限付きでの製造販売を了承した。京都大の山中伸弥教授によるiPS細胞の発表から20年。世紀の瞬間の舞台裏には、2024年に大阪・中之島に開業した施設「中之島クロス」の存在があった。

「リハート」の製造販売承認が了承され、中之島クロスで記者会見する大阪大の澤芳樹特任教授(右)とクオリプスの草薙社長(左隣)(写真提供:一般財団法人 未来医療推進機構)

7年以内の期限付き承認とは

 近く国に承認されるのは、大阪大発のベンチャー「クオリプス」が開発した重い心臓病の治療に使われる心筋細胞シート「リハート」と、住友ファーマが開発したパーキンソン病患者の脳に移植する細胞「アムシェプリ」の2製品。ただ、今回の承認は7年以内という期限が付けられている。

 細胞という「生もの」を扱う再生医療は、従来の薬のように数千人規模の治験を行うのが困難だ。しかし、放置すれば命に関わったり、生活の質が著しく低下したりする難病患者もいる。このため、安全性が確認された段階で早期に使用を認め、使いながら7年の期限内に本承認を得ていく流れだ。

 つまり、未来の医療を前倒しで提供するための〝仮免許〟というわけだ。

 今回の厚労省の了承を受け、クオリプスの草薙尊之社長は「心不全治療の新たな選択肢が、実用化に向けて確かな一歩を踏み出したものと受け止めている。重症心不全は依然として治療手段が限られており、『リハート』を一日も早く患者さんに確実に届けられるよう取り組んでいきたい」と話す。

 住友ファーマの木村徹社長も「長年の取り組みが結実に向けて大きく前進した。条件・期限付き承認は、患者さんに新たな治療選択肢の可能性を広げる一方、製薬企業としてこれまで以上に責任ある対応が求められる。有効性や安全性に関する知見を丁寧に積み重ね、本承認の取得に向けて取り組んでいく」と話している。

未来の医療を生む「中之島クロス」という巨大な装置

 実は、iPS細胞を用いた世界初の2製品が同時期に大阪から誕生した背景には、2024年に大阪・中之島に開業した未来医療国際拠点「中之島クロス」の存在があった。同施設の〝一つ屋根の下〟には、今回の主役であるクオリプスや住友ファーマ、京都大学iPS細胞研究財団などが集積している。

大阪市北区中之島にある中之島クロス(写真提供:一般財団法人 未来医療推進機構)

 研究から社会実装までを一貫して同じ屋根の下で回す〝垂直統合型〟の同施設の構造が、夢の技術を実用化するスピード感を生んだ。

世界初を生むための「器」

 中之島クロスは、大阪府や21の民間企業で設立した未来医療推進機構が運営。開業時に吉村洋文知事は「大阪・関西が世界をリードする再生医療の拠点として、次々と新しい医療を生み出し、世界中の患者さんの命を救い、健康に貢献することを期待している」と語ったが、そのビジョンが今、現実のものとなった。

中之島クロスに入居する医療機関や企業などが交流し、新たなアイデアを生む共創の場として運営されている「クロスオーバーラウンジ夢」(写真提供:一般財団法人 未来医療推進機構)

 現在、施設には医療機関をはじめ、再生医療に関わる企業や細胞加工物の開発を行うスタートアップ、その支援に取り組む企業などが集まる。難病に苦しむ国内外の患者に新たな治療の選択肢を届けるために日夜努力している。

 大阪大の特任教授としてiPS細胞の心筋シート「リハート」の開発を主導し、未来医療推進機構の理事長も務める澤芳樹教授は、中之島クロスについて「アカデミア、医療機関、企業、行政などが同じ建物に集まり、一緒に新しい医療を生み出す『共創の場』。研究の芽(シーズ)をワンストップで開発できるだけでなく、得られたデータを次の研究へ素早く引き継げるため、開発のスピードが上がる」と役割を強調する。

 今回の厚労省の了承については「この拠点の仕組みが実際に成果を生み始めたことを示した」と力を込めた。

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