栃木県の民家に少年4人が押し入り、女性が殺害された事件が大きく報道されている。関西でも今年に入り、大阪府内で現金やスマートフォン60台などが奪われる連続窃盗事件が発生。奈良市でも17、18歳の高校生3人が民家に押し入り、高齢女性にけがを負わせる強盗致傷事件が起きた。これらはすべて、今話題の「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」による犯罪だ。
トクリュウとは、面識のない者同士がSNSで結びつき、何層にも組み合わさって広域的に強盗や詐欺を行う。実行役は「普通のバイトと思って応募したら、トクリュウ闇バイトで抜けられなくなった」というケースも少なくない。
私は毎日新聞大阪社会部で府警を担当する〝サツ回り〟の記者だった。警察捜査の現場を見てきた実感として、トクリュウ犯罪の怖さは、一般に思われている以上に身近なところにある。つまり、突然被害に遭ったり、加害者に落とし込まれたりする危険がある。その実態をのぞいてみたい。

凶暴化する「素人強盗」の恐怖 使い捨ての若者たちと命を守る水際対策
詐欺から強盗へ手口巧妙化
始まりは〝オレオレ詐欺〟の受け子(受け取り役)や出し子(引き出し役)をネットで募集する手口だった。仮に彼らが捕まっても、遠隔地にいる主犯は検挙を免れる。しかし詐欺はだます過程が複雑で手間がかかる上、ようやくたどり着いた「金の出口」で捕まるリスクも高い。そこで今では、預金の移し替えや暗号資産などを悪用し、出口にリアルな人間が介在しないよう手口が巧妙化している。
その人材集めのノウハウが、押し込み強盗の実行犯集めにそっくり転用され、次々と事件が起きている。頂点の立案者は暴力団員や半グレと呼ばれる犯罪集団の者が多い。彼らは元々仲間同士で、警察の目をかいくぐるため匿名通信アプリ(テレグラムなど)の使用に長けている。指揮系統を何層にも分け、途中に海外拠点を挟むことで発覚を防いでいるのだ。
直接の指示役と実行犯は使い捨て。全て「スマホの画面越し」で指示されるから、下部は上の者の性別や年齢すら知らない。以前なら実行犯は、バラバラに集められ犯罪現場などで合流させられていたが、今は20歳前後の若者や高校生を1人だけスカウトし、その者に共犯を連れてこさせることが増えた。なぜか。警察側が身分を隠して実行犯に応募、犯罪を未然に防ぐ「おとり捜査」を採用しだしたので発覚リスクを避けるためだ。
使い捨てにされる若者たち
警察庁のデータでは強盗犯は昨年の実績で前年より若干増え、「侵入」25~30%「路上」20~25%「その他(タクシー、コンビニなど)」45~55%。検挙率は86.8%と極めて高い。うち6割が30歳未満、20代が全体の4割、10代が1割を占める。背景には若者の「手っ取り早く遊ぶ金がほしい」との安易な発想があり、「盗みや恐喝の延長」と軽く考える無知だ。しかし強盗は一級重罪であり、被害者を死傷させれば初犯や少年でも即実刑となる。「少年なら捕まってもすぐ出られる」はウソだ。
バイト先を探す時は信頼できるサイトからの応募が先決。「ホワイト案件」とか「短時間軽作業で1万円」など具体性のない甘い誘い文句は疑った方がいい。応募時に個人情報を教えてしまい、「断ると家族に危害を加える」と脅されるケースもよく聞く。だが、これも世間知らずな若者をだます手口だ。匿名性を重んじる指示役が自らノコノコと出てきて捕まるリスクを冒すはずがなく、過去にトクリュウ辞退での報復危害の前例もない。警察に「脅された」と知らせれば、即刻保護してもらえるシステムが既に整備されている。

〝プロ泥棒〟とは大違い
トクリュウ強盗実行犯はほとんど捕まっている。犯行形態がずさんで、防犯カメラ画像から人相や着衣に加え、俗に〝前足・後足〟と呼ばれる犯行前後の行動や所在が把握されやすいからだ。
泥棒と呼ばれる〝プロ窃盗犯〟はけっしてケガをさせない。途端に重罪になるのを知っており、防犯カメラや通行人を避け、留守宅や就寝中を狙って侵入する。「5分以内に侵入できないと7割は諦め、10分かかったら100%退散する」という。ある種、職人技で仕事が早い。
一方、トクリュウの強盗は手口が稚拙で粗っぽい。結果的に住人と鉢合わせて暴力を振るう上、未経験ゆえにパニックになり凶暴性を帯びる。実行犯でなくても共同正犯になれば重罪は避けられず、生涯の汚点となる悲惨な結末が待っている。もしダークサイドに落ちそうになったら、ちょっと立ち止まって考えることが肝要だ。

被害前に対策強化
自衛のための「すぐできるトクリュウ対策」を考えよう。タワーマンションなどの階下出入口ドアを解錠する際は、まず周囲を見る。見知らぬ人がいる時はすぐに入らない。開けた瞬間パッと付いて入られる「共連れ」と呼ばれる屋内立ち入りのケースが最も危ない。
次はエレベーター。見知らぬ人と2人きりで乗らない。部屋を特定される恐れがある。各階のエレベーターホールは薄暗いことが多く危険。そこをうろついて長居する人物は特に注意。
各戸玄関ドアは解錠の際に後方をチラ見確認。開けて入ったらすぐ施錠。廊下が薄暗いことが多いのでドアスコープには内側からカバーを。暗い方から明るい側はよく見える。来訪者応対はいきなり解錠せずドアチェーン越しの応対を習慣付ける。マンション各戸に侵入されたらまず外からは気付かない。水際作戦が大切な家族を守る。
次に市街地の店舗。営業中に侵入してくる強盗の阻止はほぼ不可能で下手に抵抗すると危険。防犯カメラの映像や蛍光剤入りカラーボール(ホームセンターなどで販売)で事後対応するしかない。夜間不在中は高価な品を金庫で保管しよう。
最後に府内でも南部地域に多い一戸建て住宅侵入阻止の手だて。狙われやすいのは敷地が広く、隣家が遠い家。1階の部屋は、留守中には雨戸やシャッターを閉める。それがない箇所は、窓ガラスを簡単に割られないために防犯フィルムを貼る。庭や動線には歩くと音のする小石を敷く。さらにセンサーライト付きカメラを設置する。玄関応対時の注意は、前記マンションと同じで簡単に解錠しない。
常に狙われやすいのは独居の年配者。金目の物を自宅に置きがちで、相談相手も身近に少ないからだ。すぐできる対策は固定電話の使用をできるだけ控え、スマホの「緊急通報」機能を直ちに使えるようチェックしておく。
サツ回り記者の実感として、トクリュウ犯罪に遭う危険性は普通の方々が思っているよりずっと高いのだ。
