
「巨悪を眠らせない正義の味方」と思われてきた検事の不祥事が最近目立つ。捜査対象からの接待受けや情報漏えい、さらに男女の不適切な関係、果ては不倫相手に公費の使い込みをバラされ、検察庁内では男性の上司検事が女性の部下検事に性的暴力など信用失墜事案が連発。それに対して最高検は説明責任を果たしていない。普通に暮らす一般読者に縁遠い世界で何が起きているのか? 元毎日新聞社会部記者としてサツ回り(警察・司法担当)だった目線からその内情を解き明かす。
検事の「赤れんが」と「現場」って何!? キャリアとノンキャリ、その上さらに

次官トップでない法務省
官僚エリートの世界は「総合職(キャリア)」と「一般職」に分かれ、厳然と上下関係があるのは一般にもよく知られている。法務省はこの二つの序列に加え、司法試験合格後に司法修習生を経て検事任官した者という、さらなる「超エリート」が入省する特殊な組織だ。毎年の司法修習生1300~1500人のうち、検事任官者はわずか5%ほどの70~90人。司法試験自体が国家公務員キャリアや医師国家試験より難関とされることからも、その狭き門ぶりがうかがえる。
他省庁の事務方トップは事務次官だが、法務省に限っては、次官より最高検の検事総長が上位だ。同様に、省内局長より東京や大阪の高検検事長の方が上席である。さらに、法務省の主要なポストは検事任官者が独占しており、司法試験に合格していない総合職官僚は、矯正局(刑務所・少年院)、保護局(更生保護)、人権擁護局、外局の出入国在留管理庁といった、事件捜査とは離れたポストに配属される。
これほどの省内エリートである検事も、内部では「赤れんが組」と「現場組」の二重構造になっている。検事任官後、約10年は全国の地検で事件処理を経験する。そこから、本省に入り主要ポストを占める事務職の「赤れんが組」と、引き続き捜査現場で指揮を執り特捜部などを目指す「現場組」へとコースが分かれる。基準はないが、「赤れんが組」は東大・京大など主要国立大、「現場組」は地方国立大や私大出身者が多いのが特徴だ。
その後、「赤れんが組」は現場に出てもまた本省に戻りエリートコースを歩むが、「現場組」は捜査現場を転々とし実績を上げるしかない。地検や特捜部での事件指揮はリスクが付きまとい、金や異性問題などの不祥事は間違いなく左遷、こっそり退官させられるケースが大半だ。こうした現場組の不祥事に対し、「赤れんが組」の最高検は「慎重かつ適正に調査し、厳正に対処する」と現場をかばうポーズを取りつつ、性的暴力といった信用失墜事案に対しても説明責任を果たすことなく、組織防衛を最優先する冷徹さを如実に表している。
退職後、元検事は弁護士になれる。たとえ刑事事件で有罪となっても、刑期を満了、あるいは執行猶予期間を満了すれば、一定期間を経て司法試験合格者資格により弁護士(ヤメ検)として活動可能だからだ。法曹界は「法務省・最高裁・日弁連」のトリプルな有資格者だけの利権組織と言われる所以である。
「人質司法」の背景は?
検察が直接指揮する贈収賄や脱税、選挙違反など政官財界が絡む複雑な事件は、極端に言えば、捜査中に内部で秘密裏にチャートと呼ばれる「さじ加減」が描かれる。警察は事件を捜査し送検する義務を負うが、検察は「捜査を経て、起訴か不起訴か」を自ら判断する、一段高い決定権を持っている。「白状するまでシャバに出さない」という「人質司法」も、警察による逮捕後の身柄拘束は48時間だが、検察は最長20日間の勾留に加え、起訴後の勾留請求も可能だ。検察はチャート完結のため、この特権をフル活用する。
「人質司法」の代表例は、警視庁公安部による「大川原化工機事件」(2020年逮捕・勾留、後に公訴取り消し)。逮捕された幹部ががん治療を受けられず死亡した。また、大阪地検特捜部による「プレサンス事件」(19年逮捕、勾留248日間、後に無罪確定)では、山岸忍元社長が無実を訴えながら長期勾留された。こうした問題点が指摘されても、最高検は現場をかばい、説明責任は果たさない。

一般に縁遠い世界
官僚世界は極端な縦割りで、他省庁には不干渉だ。その中でも、取り締まり組織(国税庁・検察庁)を持つ財務省と法務省は、役人へのにらみを利かせる別格の存在である。政治家も検察を恐れる。他省庁にあるような「族議員」は地味な存在で、法務省三役(大臣・副大臣・政務官)も当選回数順の割り当てが多い。政治家や官僚の関係者は第三者委員会による不祥事調査からも逃げ回るから、外部チェックが機能していない。
医療や教育の「センセイ」は一般社会に身近だが、「検事と親しい」は余り聞かない。ニーズもないからだ。だから検事に不祥事やえん罪があっても、最高検はだんまりを決め込んで半年もすれば、人々は忘れてくれる。
「司法改革」行く末は?
00年ごろの司法改革論議で①「社会を知る教育」司法修習生からいきなり検事ではなく、いったん弁護士を経験し社会矛盾を理解した上で検事になる②「透明な人事」 〝赤れんが組〟検事だけが優遇される人的配置の改善③「流動的な組織」弁護士からの検事任用実現、警察官からの副検事任用を増やすなど、の必要性が示された。しかし法務省などの強い抵抗で、09年にやっと実現したのは「裁判員制度」の新設(一般市民から裁判員を選出。実際は判事が議論をリード)と「検察審査会」改善(「起訴相当」議決がなされれば強制起訴する)以外は、全くといってよいほど実現しなかった。
今後、国民は検察のどこを監視すべきか。私はまず「処分内容の発表と透明化」に注目する。
警察から送致された被疑者が起訴されれば、裁判で証拠や証言が公開される。一方で不起訴(嫌疑なし、嫌疑不十分、起訴猶予)の場合、最近の検察は「不起訴」との発表だけで全く結果を説明しない。逮捕勾留だけが大々的に公表され、後に不起訴になった者にとって名誉回復にならない。
弱体化が指摘される従来メディア(新聞・テレビ)の深掘り取材も十分とは言えない。取り締まり組織の活動実態や不祥事が可視化される社会こそ健全だ。新聞・テレビやSNSの片隅にあるこれらのニュースにも、ぜひ目を通してほしい。
