高市早苗総理は2月18日の施政方針演説で、ハッキリと「将来の給付付き税額控除を導入するまでの負担軽減として、飲食料品の消費税ゼロの実現へ検討を加速」と明言した。
消費税議論は総選挙前に野党がこぞってゼロを含む税率引き下げを主張。総理は過去にいったん封印した〝消費税減税〟を選挙前に再び持ち出すことで、一気に野党との争点を潰した。大勝後の記者会見では「給付付き税額控除を実施するまでの2年間に限ったつなぎ」と具体プランを示し、実現へ並々ならぬ意欲を見せた。
消費税は1989年に3%でスタート。5%、8%と段階的に税率が上がり2019年に現在の10%(飲食料品のみ8%に据え置き)になった。その間、一度も税率が引き下げられたことはなく、政府与党内で議論されたことすらない。実現すれば画期的だが、果たしてその行方は。

秋に国会提出、来春実施へ 続く「給付付き税額控除」とは?
本気度示す「国会日程」
衆院選に大勝した自民党が、単独で3分の2以上の議席(316議席)を確保して始まった特別国会。解散総選挙後に招集される特別国会といえば、これまでなら内閣総理大臣を選ぶ首班指名や、議長と副議長を選ぶなどの形式的なことだけを決めるケースが多く、4日ほどで終わるのが一般的だった。ところが、今回は150日と法定限度いっぱいの日数を確保。高市総理の本気度が伝わってくる。
財務省の言いなりだった石破茂総理が衆参両院選挙に連敗した後に、高市総理が大勝した理由は「官僚や党内での圧力をはねのけ、国民のために働いてくれそう」という実行力への期待だ。物価対策として消費税減税は分かりやすく、実現できるかできないかは政権の命運に直結する。総理は「国民会議で議論し、夏前には中間取りまとめを行い、(秋の臨時国会に)関連法案の提出を目指す」と強気だ。
本気度示す「国会日程」
現在、飲食料品にかかる8%の消費税をゼロにすると、年間5兆円の税収が消える。だが、総理は「赤字国債には頼らない」という。では、財源はというと…
①【租税特別措置・補助金のカット】企業に対して、賃上げや高齢者を雇うなどすると税負担を軽減する
②【税外収入の利用】外国為替特別会計や日銀ETF(上場投資信託)などの資金を利用する
③【政府基金の利用】基金とは、特定の政策目的に充てるために政府が積み立てた資金のこと。コロナ禍で一時減ったが現在は余っている
④新たな政府系ファンドを設立してもうける
この4つが候補だ。財務省は単年で5兆円程度なら、さじ加減で何とでもするが、2年間の消費税減税の後に、給付付き税額控除が控えているので、将来も確実に見込める税源を充てなくてはならないので作業はちょっと面倒だ。
では、実現すれば暮らしはどうなるか。食品税率ゼロなら4人家族で年間6万4000円ほど支出が減る。その分、日本が最も弱いといわれる個人消費が伸びれば経済全体が活性化され、所得税と法人税が伸びる。現在の順調な経済状況のおかげで、4月からの26年度税収5兆円相当額が、すでに増収見込みになっている。
もともと消費税は世代や収入額に関係なく広く課せられる税金。低収入者は重く感じる一方、高収入者はそうでもない〝逆進性〟が当初から問題視されてきた。反面、景気や人口構造に影響を受けにくいので税収自体は安定する。25年度で見ると全税収のうち、消費税が32%を占めており、所得税(同29%)や法人税(同25%)をしのぎトップだ。
減税となると、通常なら財務省の官僚やOBの財務族議員が激しく抵抗する。しかし、政権与党が2回も国政選挙に敗れ、代わって登場し大勝した高市総理が積極財政派とあってなりを潜めている。族議員トップは史上最長で財務大臣を務めた麻生太郎・党副総裁。高市総理は今回、麻生副総裁を「衆院議長に」と画策するうわさが流れた。真偽はともかく消費税減税を含む積極財政策への抵抗を「麻生棚上げでかわそうとした」のは不思議ではない。

ハードル、意外に低
今度は消費税ゼロが実現したときの課題を整理してみよう。
よく聞く「税率が変更になると、レジを改修するのに時間がかかる」はどうだろう。実はこれは大きな問題ではない。最近は中規模以上のスーパーは、レジが自社コンピューターと連動したバーコード読み取り式で、個別の値札を廃止した店も増えた。現在も食品の8%と日用品の10%が混在しているが、個々の税率入力はワンタッチだ。
では今度は「店が消費者から消費税を取れなくなると、仕入れにかかった消費税はどうなるのか」だ。確かに、これまで店は仕入れで買ったものに消費税を支払い、最後に消費者から消費税を受け取り、自分たちが払った分と相殺していた。これができなくなるため、輸出産業が現在行っている「戻し税」の仕組みと同じ作業が必要になってくる。輸出産業は国内での仕入れに消費税を払っているが、海外で売るために消費税がもらえないので「戻し税」というカタチで還付してもらっている。これは税務申告の際に手続きする形になる。
経済団体はインボイス管理などの事務が煩雑になることなどを理由に反対しているが、もっと深刻なのは出前やテイクアウトをしていない飲食店だ。「持ち帰れば税率ゼロ、そこで食べれば10%」となるわけだから、売り上げが減る不安が残る。
気がかりなのは「2年」と実施期限を切っている点だ。最速で来春からスタートするなら、終了半年前の27年夏には参院選が予定されている。景気動向によっては「予定通り税率ゼロを止めます」と言えないかも知れない。

減税議論する国民会議とは?
消費税減税を議論する場として、高市総理が言っている「国民会議」とは何だろう。これは、総理から呼ばれた与野党の国会議員や有識者が議論する場で、一般公募ではない。
私は過去に、地方自治体の首長が主宰する審議会や、協議会のメンバーに何度も就いたことがある。その経験から言わせてもらうと、事務方と呼ばれる役人がすべてをお膳立てしており、あらかじめ持っていきたい方向に、着々と議論を導くというものだった。
つまり、もともと総理や自治体の首長と意見の合わない人は最初から呼ばれない。「ちゃんと議論しました」と、市民にパフォーマンスするための体(てい)の良いガス抜き機関だから、議論の着地点はとっくに見えている。
食品税率ゼロの後の「給付付き税額控除」って?
これまでの所得税減税は、収入の少ない人には恩恵が少なかった。わかりやすく例を挙げると、「一律10万円減税」の場合、税金を15万円の払っている人は納税額が5万円に減るから10万円が手取りとして残る。税金を10万円払っている人も、払う税金がゼロになり、10万円が手元に残る。
しかし、税金を5万円払っている人の場合、ゼロが下限だから実質は5万円しか減税されない。さらに非課税の人には全く恩恵がなかった。
これが「給付付き税額控除」になると、先ほどの税額5万円の人は税金がゼロになってさらに5万円が渡される。非課税の人は逆に10万円がもらえるイメージだ。
最大の目的は「就労促進」。「働くより生活保護などをもらった方が楽」と思わせないように、勤労者への見返りを手厚くしているというわけだ。話題の〝130万円の壁〟を意識しないで働けるのをはじめ、働いていない人は求職活動への参加を条件としている。さらに〝税と社会保障の一体化〟で社会保険料の軽減にもつながる。消費税が抱える〝低所得者の逆進性〟をやわらげる効果も期待できるし、子育て支援金も素早く給付できる。
ただし、条件としてマイナンバーカードでの〝所得の見える化〟が必要となる。単年所得だけでは分からない個々の資産状況も把握した上での給付でないと不公平になるからだ。これが結構困難な作業で、総理の〝税制改革の本丸〟が本当に実現できるかどうか、現段階では誰も見通せないのだ。

