一刻を争う救命現場で、全身CT画像の見落としを防ぐ医療AIを大阪の現役救急医が開発した。膨大な画像を5分で解析し、出血などの異変を自動検出する。医師の負担軽減と救命率向上へ、年内に約30施設への導入を見込む。(加藤有里子)

救急CTの見落とし AIで防ぐ
「医療現場での見落としを減らし、助かる命を一つでも増やしたい」と話すのは、大阪急性期・総合医療センター(大阪市住吉区)救急医の岡田直己医師だ。救命の現場に立ちながら、全身CT画像の読影を補助するAIの開発に取り組む。医師の負担軽減と診断精度の向上を両立する現場発の技術は、命を守る新たな支えになりそうだ。

大阪の救急医が開発「助かる命を一つでも」 医師の目に、もう一つの「支え」
全身CT、5分で異変検出
救急外来に運び込まれた重症患者。医師は処置を急ぎながら、同時に全身CT画像を確認する。画面に並ぶのは数百枚から千枚を超える断層画像。限られた時間で、体内のどこに出血や損傷があるのかを見極めなければならない。
交通事故や転落などによる重症外傷では、初動の判断が生死を分ける。一方で、膨大な画像を人の目だけで見落としなく確認することは容易ではない。
この課題を解決しようと岡田医師は救命医のかたわら、医療AIのスタートアップ企業fcuro(フクロウ・大阪市旭区)の代表として開発を進めている。全身CT画像から病変の疑いがある箇所を自動で抽出し、医師の判断を支援する。見落とし防止と初期対応の迅速化につなげる狙いだ。
数理の知見生かし機械と伴走
開発の原点は、現場で繰り返し目の当たりにした「見落とし」だった。岡田医師は「見つけられなくて助からない、ということが起きていた。患者からすれば見つけられなかった理由は関係ない」と振り返る。
後から画像を見返せば、異常は写っている。経験を重ねる中で「人に限界があるなら、機械が見つけられるのではないかと思った」と語る。背景には、大学時代に学んだ数理・情報分野の知見がある。画像認識技術は動物の識別やインフラ点検などさまざまな分野で活用されており、「骨折や出血も画像の特徴として捉えられる。数理的に可能だと分かっていた」という。
実際の救命現場では、自身も含め複数のベテラン医師が対応した重症患者で、見逃されていた損傷をAIが検出し、追加処置につながったケースもあった。
岡田医師は「私自身も自分の判断が一番だと自負しているが、人は一つの処置に集中すると、別の異常を見落とすことがある。AIは感情なくフラットに見てくれる」と話す。
臨床検証進み導入拡大へ
これまでアップデートを続けながら、CT画像の学習データとして、1万症例・120万枚規模のデータを活用してきた。現在も拡充しながら精度向上を進めており、同センターでは臨床効果の検証を行っている。
また、同社は大阪産業局のインキュベーションプログラム「起動」第1期やAMEDの医工連携関連事業に採択され、大阪・関西万博の「リボーンチャレンジ」にも出展。外部評価を受けながら、実用化に向けた取り組みを進めている。
AIが医師に取って代わるのではなく、役割を分担しながら精度を高める。「得意分野を分け合い、人と機械が協働すればいい」(岡田医師)
府内の救命救急センターを担う高度急性期病院での検証ということもあり、他の医療機関の関心も高く、2026年中に約30施設への導入を見込む。岡田医師は「現場で使われることで、本当の意味で価値が生まれる」と実用化に意欲を示している。
