【わかるニュース】車の走行距離税、エコカー減税の削減… 政府税調の本音は?

生活苦の中の増税論議に国民の怒り


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 日本税制の方向性を示す政府税調で「いつまで消費税10%でやっていけるのか?」の意見が出た。折しも自公両党内で「防衛予算倍増」論議が盛んで、国民からは「エネルギーや小麦などが値上がりして生活が苦しいのに冗談でしょ!」と怒りが広がっている。税制論議の向こうには日本の未来像が透ける、はてさてどうなる?

消費増税と防衛費倍増日本の税金未来像、なに?

政権はまだ余裕アリ

 始まりは自公政権が〝黄金の3年間〟を手に入れたことだ。衆参国政選挙に連勝した岸田政権は、常識的に考えると大阪・関西万博の開かれる2025年夏の参院選まで国政選挙がない。国民から不人気の『税金』に関する論議を、この間に一気に進めようとしている。その代表格が消費増税と防衛費増額というわけだ。

 もともと岸田総理は、政府の収入と支出をバランスさせて国債の発行を抑える財政再建論者だった。しかし、就任当時に積極財政論者の安倍元総理らの圧力もあり、22年春に発表した「骨太方針」では、財政悪化を食い止める方針を具体的に示せずトーンダウンした。その後、円安で生活実感が悪化し、物価が上がるのに賃金が増えない〝悪いインフレ〟状態に入り、岸田政権の支持率は急激にダウンした。

財務省と財界の賃金構想

 財務省は「国債発行を増やすと、子や孫にツケを回す」と主張する。コロナ禍もあって国債残高は1000兆円を超え、毎年20兆円規模で増え続けている。総額だけなら米国の方が多いが、GNP(国民総生産)比では日本が先進国中最悪。つまり返す体力が最も弱い国だ。

 それでも日本国債が暴落しないのは▽国の金融資産(国内にある外貨と公有地などの財産)574兆円▽対外純資産(海外にある財産)366兆円▽円建て国債をほとんど日本国内で引き受け、その背景にある家計資産(国民の預貯金など)1700兆円が背景にあるからだ。財務省は絶対認めないが、日本はMMT(現代貨幣理論)に基づく「特定の国家にとって財政赤字は問題ではない」という世界で数少ない実践国との見方もできる。

 日本企業は内部留保500兆円と言われ確かに儲かっているが、社員賃上げは過去5年間で2%前後ずつしか上がっていない。来春の賃上げ交渉目標に政府や労働団体は「5%」を掲げ、経営者側も「前向きに」と応えている。実際は、年功序列の賃金体系や高齢者雇用確保の方が優先するのでとても無理。しかも超円安で輸出企業のトヨタさえ、海外からの部品調達費などが上がり増収減益と経営的には芳しくないから財布のひもは固い。円安による物価上昇は1世帯あたりすでに月8万円の支出増とされる。「物価も上がるが給料も上がった」というインフレなら好ましいが、給料が上がらない上に、増税と介護・年金など社会保障費を増やそうとするのだから、手取りは増えそうもない。

官と経は手詰まり感

 来年度の税制改正議論を見ると、①防衛費増額②所得倍増の柱にNISA(少額投資非課税)③株取引に対する金融所得課税④環境配慮型社会実現への炭素税導入⑤エコカー減税の削減などが並び、消費増税は調節的に入っていない。

 しかし本音は「タバコ増税、退職金控除縮小、雇用保険料増額」などが視野に入り、消費税も「食料品軽減税率見直し」とともに「いつまで10%でいけるのか?」が議論された。まさに取れるところから徹底的に取る財務官僚らしい。マイナンバーカードも、行き着く先は預貯金含めたカード一元化による税の徹底徴収の実現にほかならない。

 財務官僚の本音は「日本人口は50年には1億人を割る。少子高齢化で現役労働人口が減るから、年寄りの介護・年金などの社会保障を削るしかない」「薄く広くの負担増なら国民の痛みは薄い。なのにガソリン・電気ガス補助に来春までに総額5兆円出費なんて…」と岸田政権の政策には批判的だ。

 消費増税に財務官僚は常に前向き。法人税との額比較を見ても導入時と比べ最近は急激な消費税頼みに陥っている。本来消費税は「社会福祉の目的税」だったはずが、金に色が付いていないことを良いことに法人税減少の穴埋めに使われてきたのが実態。IMF(国際通貨基金)は「日本は30年までに社会保障費が賄えなくなり、消費税率15%にする必要が出て来る」と読んでいる。

 税率引き上げ前に駆け込み需要が必ずあるので、消費税アップは消費拡大に寄与しているように見えるが、実際は引き上げ後の買い控えで相殺され経済効果はほぼゼロだ。

防衛力増強の中身は?

 憲法9条との兼ね合いで日本では防衛費のGDP(国内総生産)比1%以内と言う枠が長年存在した。従来からの北朝鮮ミサイル発射に加え、露のウクライナ侵攻、中国の台湾有事で取り巻く事態が一変。与党は「防衛費を5年間でGDP比2%に倍増する」と決めた。22年度の5・4兆円を基礎にすると毎年8000億円程度上積みし続ける計算。仮に消費税に換算すると12%まで引き上げないと賄えないが、先にも書いたように目的税の勝手な流用はできない。そこで法人税・所得税増税と国債積み増しが不可欠になる。

 「EU並みの防衛費2%」自体の根拠が薄いので、増強の中身議論がもっと必要だ。北朝鮮のような先軍政治では、国民に幸せをもたらさないのは明らか。日本は武力に頼らず外交努力で世界の国々に信頼を得てきたことを忘れてはいけない。

少子高齢化国に発展無し

 現代は、スペインが没落し英国を中心とした世界秩序に移って行った16世紀と似ている。20世紀型資本主義経済が衰退し、21世紀を移行期として主要先進国はゆっくりと世界リーダーの地位を降りていく。

 中でも日本は、世界でも有数の少子高齢化国で、50年には人口1億人を割る。先進国の中で比較的早くダメになるからこそ、新システムにたどりつくのも速い。経済学的に、超低金利の国が発展する道理はない。資本主義とは金を儲けることで、誰も金を借りてまで投資するメリットがないから超低金利が20年以上も続いているのだ。その間に時々起こるバブルは、単なるあがきのあだ花でしかない。

 当たり前のように言われ続けたグローバルスタンダード(世界基準)は先進国による途上国資源搾取の口実でしかなかったこともバレて、もう勝手な資源横取りも不可能に。今後しばらくの移行期は、テスラ社のイーロン・マスクのような大金持ちの裏で、世界中から中間層が消え2極化する。

 移行期はまだ時間が掛かる。日本は成長を捨て老人大国として、財政均衡を軸に基幹エネルギーの自給自足を図り円安の影響をできるだけ減らすことが大切。日本大企業の〝失敗の本質〟は、終身雇用年功序列型の古い経営でせっかく得た利益で、抜本的体質改善に手を付けず、株主だけにおもねって株価引き上げのために配当へ回してしまった結果だ。

 「脱成長」で移行期を乗り切るしか、日本の行く末は生き残りの可能性はない。