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庶民の味 餃子(ギョーザ)の意外な歴史 誕生したのは5000年前のメソポタミア? 日本で最初に食べたのは水戸黄門?

 日本人にとって、ラーメン店やご当地グルメの定番として親しまれる庶民の味「餃子」。実は、かつて皇帝への献上品だったという。関西食ビジネス研究会の講和で、「元祖 餃子苑(神戸市)」の3代目店主、頃末灯留(とおる)氏が語ったその意外な歴史をお届けする。

庶民の味 餃子(ギョーザ)の意外な歴史

─まず、餃子という食べ物はいつ、どこで誕生したか。

 餃子の起源には諸説あるが、大きく分けて3つの説が存在する。
 1つめは、紀元前3千年頃のメソポタミア文明説だ。遺跡から、小麦粉の皮に具を包んだ食べ物の痕跡が発見されている。評論家の9割がこの説を支持している。
 2つめは、紀元前600年頃の中国・春秋時代説でメソポタミア説と同様に、遺跡から餃子の形をした食べ物の化石が発見されている。
 3つめは600─900年頃の中国・唐という説。こちらは王墓から副葬品の一つとして餃子のミイラが出土している。

─餃子は中国でどのように食べられてきたのか。

 中国の文献では、明の時代(1368年)の記録に、皇族の献立として「餃子」が登場している。実際に中国では、春節(旧正月)や結婚式などの特別な日に食べる習慣がある。「餃子(交子)」の文字が「交ざる子」に通じるため、子宝に恵まれる縁起物とされており、新婚初夜に生煮えの餃子を食べさせる風習がある。一方、昔のお金である銀元宝の形に似ていることから、財運を呼ぶ食べ物としても親しまれている。

─では、餃子はどのように誕生したのか。

 中国・後漢時代(約1800年前)の医聖 張仲景(ちょうちゅうけい・(張機)) が考案したという逸話がある。寒さで凍傷に苦しむ人々を救うために、水餃子を考案したという逸話がある。小麦粉の皮を円盤状に伸ばし、羊肉・唐辛子・薬味を入れて包み、煮た料理を民衆にふるまった。これが現在の餃子の原型になったと言われている。

─日本では誰が初めて餃子を食べたか。

 水戸黄門として有名な水戸藩主・徳川光圀とされている。光圀は明から日本に亡命した儒学者・朱舜水を厚遇し、学問や政治の助言を受けた。このことは水戸学として大きく発展し、さらに教えが日本各地に影響を与えた。こうした関係から『朱舜水談詩』には、光圀に餃子のようなものをふるまったという記述がある。

─中国と日本の餃子の違いは。

 中国では「餃子」といえば 水餃子を指し、餡ににんにくを入れない。にんにく入りの餃子を醤油・ラー油・酢を混ぜたタレで食べる焼餃子は日本独自の文化だ。

─では、日本人はなぜ焼餃子として食べるようになったのか。

 焼き餃子のルーツは満州 にある。当時、満州では使用人が余った水餃子を焼いて食べる鍋貼(グオティエ) という食べ方があった。それを目にした日本人が味を気に入り、最初から焼く餃子を注文するようになった。「鍋貼を喜んで食べる日本人を見て、中国人は失笑していた」と祖父から聞いた。

─焼き餃子は日本でどのように広まっていたのか。

 満州帰りの兵士たちによって焼き餃子の製法が持ち込まれたが、戦後の混乱期に港町の闇市に餃子店が立ち並び、くず肉、くず野菜使用され、味を補う目的で にんにく・ラー油・旨味調味料が加えられた。特に にんにくはスタミナ食として風俗街の男性客に好まれ、口コミで急速に広まったとも言われている。このため、昭和の初期は「女性が食べるものではない」とされることもあったようだ。

─今ではB級グルメとして大人気だが、国民食になり得た軌跡を教えていただだきたい。

 男性向けのスタミナ食 だった餃子は、「餃子の王将」などのチェーン展開や冷凍餃子の登場により、低価格で家庭でも食べられる料理として定着していった。

─貴店の餃子は味噌だれに付けて食べるなど一般的な餃子と異なると聞いた。

 当店の餃子は、神戸牛を使用し、味噌だれで食べる のが特徴。神戸で味噌だれ餃子を提供する店は多いが、その発祥には祖父が関わっている。戦前、満州や山東省でビジネスを行い、満州で日本食レストランを経営していた。そこで中国人料理人から餃子の作り方を学び、味噌好きだった祖父は、餃子に味噌だれをつけて提供していた。帰国後、その味が忘れられず神戸で餃子店を開業。これが神戸の味噌だれ餃子文化の原点になった。一方、神戸牛を使用するようになったのは私の代になってから。皇帝への献上品だった歴史を知り、神戸には世界的に有名な神戸牛があることから、「餃子はお客様への献上品である」 という思いで使用するようになった。

─餃子にこんなに深い歴史や文化があったとは驚きだ。これからも餃子の魅力を伝え続けていくのか。

 餃子は歴史や文化、人々の思いが詰まった料理だと考えている。これからも祖父から受け継いだ味を守り、この話がみなさんのウンチクの一つになり、餃子を食べるたびに少しでも歴史に思いを馳せてもらえたらうれしい。

関西食ビジネス研究会(大阪市北区)は関西から食文化の未来を創ることを目的に設立された団体で、大阪ガスが協賛している。著名なシェフをはじめ、大学教授やプロデューサーなどさまざまなメンバーが所属している。