「いったん大学までは出ておいた方がいい」という考えは、もう時代遅れかもしれない。大阪労働局によると、高卒の求人数はここ5年ほどで急激に増加しているという。一方、就職希望者数は減少傾向。大阪府における高卒求人の有効求人倍率は2024年11月時点で8.05倍と過去最高を記録した。(礒見愛香)
少子化と「学歴信仰」
背景としては労働人口減少による労働力不足、特に少子化の影響で若手人材の母数がそもそも少ないことがある。大卒人材は奪い合いで「売り手市場」が続いている状況だ。若手を採用するには、さらに下の世代にまで募集範囲を広げる必要が出てきた。
同時に、学歴に対する企業の考え方が変化し「学歴信仰」が薄れてきている。かつては「大学卒業」がひとつのフィルターの役割を果たしていたが、男女共に大学への進学率が50%(2020年度)を超えた今、「最終学歴が大卒である」こと自体の価値は、昔と比べると薄くなっているといえる。
実際、「〝学歴〟と〝社会人としての能力〟は別」という認識が経営者層や人事・採用担当のなかで広がっている。大阪市に本社を置く大手食品会社で人事を統括する男性役員は「もう出身大学で選ぶのをやめた。これからは現場で役に立つ人材の方が重宝する」と大学生の扱いに悩んでいることを打ち明ける。
「高卒就職」をサポートするATTEME(アッテミー)代表の吉田優子さんは「ミスマッチを起こさないためにも、偏差値や学歴でなく、若いうちから働こうという意欲や個人の資質を企業は重要視している」と話す。
高校生への採用アピールのため、高卒で採用した社員が5年目、つまり同年齢の大卒が新入社員として入社する時に、高卒社員が大卒社員の月給を上回るような給与額を設定している企業もあるそうだ。
工業高卒で大手企業へ就職も
高卒求人の中でも特に理系人材の人気は高い。自動車産業や建築業、製造業などのものづくり現場で広く人材が不足しているためだ。工業高校の人気は過熱しており、大手企業からの求人も多い。吉田さんは「3年間ものづくりを学校で教えられて適性や耐性がある工業高生は業界に人気ですね」と話す。企業によっては就職後、労働時間内で専門学校に通わせて専門技術の習得を促し、給与支給はもちろん学費まで企業が負担する、というケースもあるという。
桃谷にある大阪情報コンピュータ高等専修学校で入試広報を担当する原田成華さんは「進学メインの学校なので就職希望は2割程度ですが、生徒が選べるくらいには求人数が十分あります。5教科(国・数・英・理・社)の勉強が苦手な学生も少なくないですが、学力に左右されない専門スキルを身に付けたり実際に資格を取得することで、進路を切り開けていますね」と話す。
「手に職をつける」学校は特に重宝されるだろう。ただ、そうでない学校でもきちんと学校へ通えていれば、特別何かに秀でていなくても就職しやすい環境になっている。具体的な就職先が気になる人は各学校がホームページや進路指導室で公開している進路実績欄を参考にするのも一つの手だろう。
キャリア教育は「進学校」でも
就職か進学どちらを選ぶにしろ、「キャリア観を早期のうちに育てる」ことは重要である。そのためには、学校生活を通じてあらゆる分野の学問に触れ、自分の興味・関心を知ることが大切だろう。各校が生徒自ら課題を見つけ、解決するための調査や分析を行う「探究学習」や、企業と学生が協働する「産学連携」の取り組みはキャリア観を育むにも有効だといえる。
アッテミーでは高校生対象のインターンシップやキャリアセミナーを実施しているが、最近では「進学校」からの依頼も増えたという。
学校側の思いとしては「大学卒業後の生き方について今のうちに目標を立てることで、大学選びの基準が明確になるだけでなく、受験勉強へのモチベーションにもつながる」ということだ。
吉田さんは「まず、将来どんな仕事をしたい?という話を高校低学年のうちから家庭でも話したり、さまざまな『働く大人』と関わってあらゆる仕事や生き方があることを知ることで、納得のいく進路選択ができるでしょう」と話す。
「高卒就職」の独自ルール
「高卒求人について知る機会がないから子どもの選択肢に入れにくい」という保護者も多いだろう。改めて、高卒求人の概要についてまとめた。
求人の種類
「高卒求人」は基本的にハローワークを通じて学校があっせんする形で募集が行われ、求人票、求人募集の解禁時期などのルールが一律で決まっている。
求人には、「指定校求人」と「公開求人」の2種類がある。「指定校求人」は「●●高校から●名」というように企業側が指定した高校に在籍する高校生からのみ応募が可能。「公開求人」は全国の高校どこからでも応募できる仕組みだ。それぞれメリット・デメリットがある。
【指定校求人】
●進路の先生が企業のことを理解しているため、ミスマッチが起きにくい
●公開求人と比べて競争率が低く内定しやすい
●専門的なマッチングがしやすい
●一人1社のみ
【公開求人】
●一人2社応募可能(大阪のみ)
●生徒が選べる求人数が多く、あらゆる仕事に応募できる
スケジュール
応募・採用の時期も厳格に決められている。例年12月末には9割以上の高校生が就職活動を終える。
●7月:求人の公開解禁時期。その時期以降に各社が職場見学などを受け入れる
●9月:5日に採用応募の受付、16日に採用選考と採用内定が開始される
ただ、スケジュールも変わりつつある。昨年12月に政府が求人の公開時期解禁を7月から1〜2カ月前倒しすることを提言。生徒が企業研究や志望先の比較などに割く時間を増やし、ミスマッチによる離職を減らすのがねらいだ。
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