認知症予防に良い食事 食物栄養学の井戸由美子教授(京都女子大)に聞く 【上】

おすすめは不飽和脂肪酸の多い〝地中海式食事〟

井戸由美子教授
井戸由美子教授

 誰もが、年齢を重ねるにつれ、健康面に対する不安が大きくなる。なかでも記憶や言動などの機能が低下する認知症には、不安どころか恐怖すら感じるというのが、高齢一歩手前の〝予備軍〟を含めた世代の胸の内だろう。大阪府内の医療現場で、認知症などの患者に対する栄養指導に取り組んでいる京都女子大の井戸由美子教授にアドバイスを受けた。「認知症の予防に良い食事」と「患者になってからの食について」の2回に分けて掲載する。

 認知症患者が高齢社会の進展とともに大きく増加している。しかも今後も増え続けることは確実で、認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)の人も加えると、65歳以上の高齢者の4人に1人という恐ろしい数字が予想されている。

 しかし「認知症は誰もがなりうる病気」ではあるが、MCIの人もすべて認知症に進むわけではない。しかも認知障がいが出たとしても、食生活を改善することで「確実に症状を緩和し、進行を遅らせるなど、格段によくなる」と、これまでの現場での指導経験を基に、井戸教授は断言する。

認知症と食について講演する井戸教授
認知症と食について講演する井戸教授

 では「認知症にならない食生活」とは、どのようなものだろうか。

 井戸さんは「WHO(世界保健機構)の生活習慣病予防ガイドラインが示す6つの対策ポイント」をあげ、加えて「不適切な飲酒の防止」と「体重管理」を指示する。

 6つのポイントは①適度な運動習慣②バランスのとれた食事③禁煙④高血圧の管理⑤糖尿病の管理⑥脂質異常症の管理─である。

 そして具体的な食事として強く進めるのが「地中海式食事」だ。認知機能改善に効果がある不飽和脂肪酸の摂取比が高いというのが理由で、野菜・果物や全粒雑穀類、魚類を中心に、植物性脂肪のオリーブオイルを使い、適量のワインとともに食べる。この結果、肉やチーズ、バターの乳製品(飽和脂肪酸)の摂取量を抑えられる。ちなみに不飽和脂肪酸とは「常温で液体」で、冷蔵庫で固まらない脂肪のことである。

 井戸教授は大学でゼミ学生とともに、生活習慣病の予防と栄養管理のレシピを考案。それを〝学食〟でメニューとして提供することも実行しており、そのメニューの中心としたのが、植物由来の原材料を使ったプラントベースフードだった。これを使用することで「健康になる」うえに「動物性食品よりも水資源やエネルギーを使用しないため環境にやさしい」といった利点もある。さらに提供されたメニューはアルコール依存症患者を対象にした血糖値の調査にも活用されている。

 それでは井戸教授が認知症予防のために「積極的に摂る」ように、とする10の食材と、「控えるべき食材」、さらにその量を示しておこう。

認知症予防に関する食事

積極的に摂る食材

① 緑黄色野菜週6回以上
② その他の野菜1日1回以上
③ ナッツ類週5回以上
④ ベリー類週2回以上
⑤ 全粒穀物1日3回以上
⑥ 豆類週3回以上
⑦ 魚なるべく多く
⑧ 鶏肉週2回以上
⑨ オリーブオイル優先的に使用
⑩ ワイン1日グラス1杯

控えるべき食材

① 赤身の肉週4回以下
② バターなるべく少なく
③ チーズ週1回以下
④ お菓子、菓子パンやスイーツ週5回以下
⑤ ファーストフード週1回以下

 この15項目のうち10項目を守り、塩分を6㌘以下に抑えれば、予防できるし、MCIから「戻る」可能性もあるという。

 「動物性食品や高脂肪乳製品をよく食べる人」は「和食をよく食べる人」に比べると、認知症の発症リスクが20%も高いという調査が明らかになっている。

 東北大が宮城県の65歳以上の1400人を対象にしたもので、結論的にいえば「和食」がよいのだが、問題は塩分だけ。これに気を付ければ、認知症予防の最強食材は「魚」だということになる。