全国のシルバー人材センターの会員数が減少する中で、門真市シルバー人材センターは、60歳以上の人口に対する入会率が全国5位、大阪府内ではトップとなり、全国から視察団が訪れるほど注目を集めている。昨年度の年商は、人口12万人の都市では異例の約6億7000万円。「門真シルバー躍進」の理由を掘り下げる。
仕事があるから、会員が増える
シルバー人材センターの入会条件は「60歳以上で働く意欲がある人」。各自治体に設置され、センターは会員に働く機会を提供している。少子高齢化で60歳以上の人口は増えているが、企業の定年後再雇用などもあり、全国の会員数は2009年度の約79万人から22年度の約68万人と減少傾向が続いている。
同期間で門真市シルバー人材センターの会員数を比較してみると、09年度の1250人から22年度の1636人と約1・3倍になっている。さらに、60歳以上の人口に対する入会率は全国5位、大阪府内ではトップの数字を誇っている(ともに22年度)。
門真市シルバー人材センターの大きな特徴は、事務局スタッフの「卓越した営業力」によって獲得した仕事の豊富さにある。記者は同センターで働く会員の仕事ぶりを紹介する連載を50回以上にわたり担当しているが、毎回違う現場の異なる職種を取材している。
1回目は、マクドナルド古川橋店で清掃と配達を行う会員を取材した。その後の行き先も、大型商業施設、スーパー、保育園、世界トップシェアを誇るメーカーの工場など幅広い。センターの仕事と言えば、ふすまの張替えや植木の手入れ・剪(せん)定といった先入観を持っていた記者のイメージは大きく覆された。
「選べる仕事がたくさんあるから、会員が増える。会員が増えるとまた事務局スタッフが新しい仕事を取ってくる」という好循環が生まれているのだ。
企業とシニア人材を「マッチング」
ものづくりの街・門真市の町工場でも多くの会員が活躍している。金型の設計・製作を行う阪奈精工(同市四宮)で働く髙吉武二さんも同センターの会員だ。金型を作る際、まず必要になるのが「フライス加工」と言われる切削作業。髙吉さんは長年、鉄工所に勤務したフライス加工のスペシャリスト。同社の沖本剛社長は「髙吉さんは即戦力であり救世主。僕自身も勉強になるし、息子にもいろいろ教えてもらっていてありがたい」と感謝する。
このように企業とシニア人材を適切にマッチングすることが、同センターの大きな強みになっている。
シルバーが子育て世代を「おもてなし」
同センターは地域のにぎわい創出や世代間交流にも一役買っている。同市岸和田にある弁天池公園は同センターが指定管理者になっている。さらに、同公園で春と秋に開催されるイベントは同センターが中心となって実行委員会を組織し、企画・運営されている。
昨年11月23日、秋の恒例イベント「弁天池公園ふれ愛感謝祭」が開催された。ステージではキッズダンス、ヒップホップダンス、フラメンコ、エイサー、ゴスペルなど地域の団体がさまざまな演目を披露し、会場を盛り上げた。キャラクターショーやミニ新幹線、昔遊びもあり、子どもたちは大喜び。ステージやテントの設営、飲食物や野菜の販売、各種体験コーナーなど同イベントの運営には実に100人以上のシルバー会員が携わっているというから驚きだ。
「来場者の中心は若い子育て世代。それをもてなすのが高齢者というのも面白いでしょう」と笑うのは同センターの和多幸司朗事務局長。「3000人以上の来 場者に高齢者が楽しそうに働いている姿を見てもらうことも大切。イベントは、シルバーの魅力を〝広報する場〟でもあるんですよ」と和多さんは解説する。
「働く」ことで健康に
「人・社会と関わっていたい」「誰かのお役に立ちたい」「体を動かしたい」―。同センターの会員を取材すると、皆口をそろえてこう話す。そして、会員らは「実年齢より若く見える」のも共通している。実際に、シルバー会員を対象にした調査でフレイル(健康と要介護の間)の人の約30%が悪化せず現状を維持し、10%は心身状態が改善したという結果も出ている。
人生100年時代。仕事を通じて人・社会とつながりを持ち続けることが、健康寿命を延ばす秘訣(けつ)と言っても決して過言ではないだろう。