【外から見たニッポン】イスラエルとハマス それぞれの正義

Spyce Media LLC 代表 岡野 健将

Spyce Media LLC 代表の岡野健将さん

立場が違えば、見える景色が違い、考え方も異なる。そして、どの正義を信じるかも…

イスラエルにとっての正義は、10月7日に起きたハマスによる無抵抗なイスラエル人への大量虐殺への報復と、その時にさらわれた人質を解放させるための自衛としての戦いだ。

敵はパレスチナ市民ではなくハマスであり、過去の事実からもそのハマスを地上から消し去らない限り同じ事が繰り返される、妥協は許されないと考えている。とはいえ、今の状況はやり過ぎという印象が強い。

一方、ハマスにとっての正義もある。イスラエルとパレスチナの長い歴史の中でずっとしいたげられ、抑え込まれてきた。このことで多くのパレスチナ人は貧困に喘いでいる。その原因はイスラエルだから、その状態から抜け出す戦いだ。

イスラエルが無くならない限り「自分たちの未来はない」という強い感情があり、そういった教育もされている。

加えて、中東を取り巻く状況の変化もある。エジプトやヨルダンだけでなく、UAE、バーレーン、スーダン、モロッコも国交を正常化させ、アラブの盟主サウジアラビアも正常化に向け動き出していた。

このため、パレスチナ人は中東和平の流れに押し流され、自分たちの存在が忘れ去られるのではないかと感じている。だから、ハマスは組織としての存在感を示し、パレスチナの思いを代弁したに過ぎないのかもしれない。

ハマスにとってはパレスチナ人の土地を奪い迫害しているのはイスラエルでありユダヤ人だから、イスラエルと戦うことは正義なのである。

ガザに住む一般のパレスチナ人もイスラエルに迫害されているという思いはハマスと同様に抱いているだろうが、武器を取り戦ったり、無抵抗のイスラエル人を惨殺しようとは思っていない。

しかし、現状を見てイスラエルの攻撃により多くの民間人が無駄死にしていることへの怒りは相当なもののはず。

その結果、イスラエルに抵抗するハマスを応援したり、サポートしたりしていても不思議ではない。

彼らにとっての正義はどこにぶつけていいのか、彼ら自身わからないのかもしれない。

どちらかと言うとイスラエル寄りの欧米先進国は、民主主義と欧米の理論を守ることを正義としているが、イスラエルの圧倒的な攻撃とパレスチナの民間人犠牲者の多さに戸惑う様子もうかがえる。

しかし、イスラエルに停戦を要求しても実力行使で停戦させる程の圧力をかける気はなさそうだ。ウクライナとロシアの戦争と同じく、どこか他人事のように感じられる。

アラブ諸国にとってのイスラエルは目の上のたんこぶのような存在であることは間違いない。しかし、武力で勝てる相手ではなく、戦ってしまえば国が大きく疲弊することもわかっているので、米国の仲介などを利用し、うまくやり過ごして来た。

あのサウジでさえ国交を正常化させようとしていたが、本音の部分ではイスラエルやユダヤ人をパレスチナの地から排除することに正義を感じているはず。

しかし自国の生存と繁栄を考え、無駄な争いを避けており、イスラエルと国境を接するヨルダンとエジプトは、パレスチナ難民が自国に入国してくることを強く拒んでいる事実もある。彼らの正義もどこを向いているのか疑問を感じざるを得ない。

欧米で多発するパレスチナ支持のデモ参加者の正義は、人道的立場からイスラエルのパレスチナ民間人への攻撃を止めさせることにある。ただ、中にはハマス自体を応援する人々もおり、原因と因果を正しく見極めていないように感じることもある。

最後に日本はどうか。見事に二面外交を展開し、イスラエルともパレスチナや背後にいるイランとも禍根を残さない程度に発言し、ふるまっている。この国の正義はどこを向いているのか? 果たして自国の未来か?

それぞれの立場に、それぞれの正義があるのは確かだ。しかし、相手の話に一切耳を貸さず、一方的に自分の正義だけを押し付けている限り、この惨状は終わらないだろう。誰かが「冷静に一歩引き、相手の話も聞こう」と言い出せないものだろうか?

ハマスの行動に刺激され、アルカイダやISISなどのテロ組織が若者の勧誘活動を活発化させているようだ。私たちは誰の正義に寄り添うべきなのか、それとも二項対立させて物事を捉えない別の方法があるのか。みなさんも考えてみてください。

【プロフィル】 米ニューヨーク州立大学ビンガムトン校卒業。経営学専攻。ニューヨーク市でメディア業界に就職。その後現地にて起業。「世界まるみえ!テレビ特捜部」「情熱大陸」「ブロードキャスター」「全米オープンテニス中継」などの番組製作に携わる。帰国後はディスカバリーチャンネルやCNAなどのアジアの放送局と番組製作。経済産業省や大阪市などでセミナー講師を担当。文化庁や観光庁のクールジャパン系プロジェクトでもプロデューサーとして活動。