大阪の富裕層はなぜ、札幌のタワマンを買うのか?【第3回】札幌が大刷新 開発計画めじろ押し

 2週に渡って「大阪の富裕層はなぜ、札幌のタワマンを買うのか?」を特集してきた。2022年に札幌市の新築マンションの1戸当たりの平均価格は、バブル期を超え過去最高に達した。しかし、北海道新幹線の札幌延伸や、都心部の再開発などが控えており、資産価値はまだまだ上昇の余地を残している。今号では札幌はどこまで発展していくのかに迫りたい。

道外の有名企業が、札幌に続々と進出

 ここ数年、北海道は企業進出の真っ盛りだ。特に札幌を中心に有名企業が続々と拠点を構えている。東日本大震災から3年後の2014年、アクサ生命が東京一極集中を見直し、災害リスクに備えるため札幌との2本社体制を整備。アフラックも同じ目的で本社機能の一部を札幌へ移転した。

 バイオではニプロが共同研究を行う札幌医科大の隣に研究所を開設。昨年はセガがゲームコンテンツの開発やプログラムのバグを取り除くデバック業務を行うため、セガ札幌スタジオを設立した。

 なぜ今、北の大地に企業が集結しているのか? 一つは北海道の人材供給力にある。

 実は札幌の人口は政令市で横浜、大阪、名古屋に次ぐ4位。人口は約197万人で神戸や京都、福岡よりも多い。さらに北海道大をはじめとする大学や専修学校など、道内の約半数の学校が札幌圏に集中しており、卒業したての若者の確保が容易だ。
 「北海道の出身者は、地元での就職志向が強い。道外に進学した若者も半数がUIターンを希望している」(札幌市経済観光局)のも特徴だ。

 首都圏などではIT人材の不足が課題だ。このため、企業は逆に北海道に拠点を構え、人材を確保する狙いがある。

空室率たった1.1% 札幌市内はオフィス不足

JRタワー
JRタワー(左)を超え、道内最高層となる駅直結ビル(右)には、商業施設やオフィス、マリオット・インターナショナルの最高級ホテルが入る予定(札幌駅交流拠点北5西1・西2地区市街地再開発準備組合提供)※画像はイメージのため今後変更になる可能性あり

 豊富な人材に加え、オフィス賃料の安さも企業進出に拍車を掛ける。三幸エステートの調査によると、札幌駅前地区の大規模ビルの募集賃料は1月末日現在で坪1万7580円。東京・丸の内(同3万9596円)の半分以下で、大阪の梅田・堂島・中之島(同2万4497円)の7割ほどで借りられる。政令市で札幌より人口の少ない福岡よりも1割以上安く、現在の空室率は1・1%とフル稼働に近い。

 オフィス需要の高まりに行政側も現在、賃貸用オフィスを建てる事業者に、最大10億円を補助している。

 実は札幌中心部は、約30年前に開かれた札幌冬季五輪の前後に竣工したビルが多い。ちょうど建て替えのタイミングとも重なり、制度を活用した民間投資が進んで至るところで再開発が槌音が響いている。

 一方で、オフィスビルの大量供給をにらみ、札幌市は優遇措置を設けて道外企業に秋波も送っている。例えば、本社や本社機能を札幌に移転する場合、人件費を1億5千万円まで、オフィスの開設費に6千万円まで助成したり、データセンターなどを新設する企業には10億円を上限に、固定資産税課税標準額の2割分を補助するなど「大札新」(ダイサッシン)をスローガンに大規模な企業誘致に取りかかっている。

 世界都市を掲げ、都心部のインフラも強化中だ。実は札幌は、最寄りの高速道入り口までが最も遠い都市。都心部と高速道路を結ぶ国道5号「創成川通」は朝夕や積雪時に混雑し、目的地までの到着時間が予想できない状況にある。

 このため現在、都心部から札幌北ICの約4・5㌔を結ぶ「都心アクセス道路」の整備が行われており、完成は2030年。雪の積もる札幌の特性に合わせて道路は地下を走らせ、信号機なしで高速道に乗り入れられるようにする。

地下に整備される「都心アクセス道路」のイメージ(札幌市総合交通計画部「国道5号 創成川通の都市計画に関する説明会」資料より)

〝粉雪〟が呼び込む富裕層マネー 世界的なリゾート地となったニセコ

ニセコ
名峰・羊蹄山とニセコアンヌプリの壮大なランドスケープを一望できるロケーションに建つラグジュアリーリゾート「パーク ハイアット ニセコ HANAZONO」(北海道虻田郡倶知安町)

 世界の超富裕層に注目される北海道を語るうえで、ニセコの存在は欠かせない。羊蹄山(ようていざん)(1898㍍)の絶景を望む広大なスキー場には、世界最高水準と呼ばれるフワフワの粉雪が降り注ぎ、この雪質を求めて世界のスキーヤーが集うようになった。

 現地を頻繁に訪れる不動産会社役員によると「今や街を歩けば9割以上が外国人。海外にいる気分です。富裕層に関するエピソードでは、ニセコはコンビニも品ぞろえが別格。3万円近いドンペリが売られていたりします」と話す。



 世界的に有名になったリゾート地へのアクセスは今後、さらに便利になる予定で、それは同時に札幌の価値を高めることにも繋がる。

 訪日客の視点から見ると現在、飛行機で新千歳空港に到着し、ニセコへ向かう場合、高速道路は小樽の約20㌔西にある余市までしか繋がっておらず、全行程は約2時間30分かかる。

 そこで持ち上がったのが、余市から倶知安までの約40㌔を繋ぐ高速道「倶知安余市道路」だ。すでに整備が進められており、開通すれば35分短縮され2時間を切る。空港から約2時間の価値は、世界最高水準のスキーリゾートであるフランスのヴェルトランス、オーストリアのキッツビューエルと肩を並べる。

 高速道が整備されると、札幌とニセコも現在の約2時間から約1時間半に短縮する。

北海道新幹線の延伸 「貨物新幹線」や「第2青函トンネル」構想も

函館市に隣接する北斗市を通過中の北海道新幹線
函館市に隣接する北斗市を通過中の北海道新幹線

 さらに今後、札幌を大きく発展させる大本命が、2031年に開業を予定する北海道新幹線の札幌延伸だ。過去のケースを見ても、新幹線の開業がビジネスや観光面に与える効果は絶大だ。

 すでに開業をにらみ、これまで札幌になかった五つ星クラスの外資系ホテルが相次いで進出を決めている。新幹線を使えば札幌─ニセコ間は30分を切る予定で、札幌も富裕層の長期滞在の受け皿になる。

 また、将来の物流を強化する意味でも新幹線には期待がかかる。国交省は昨夏、鉄道物流に関する検討会の中間まとめで〝貨物新幹線〟計画の推進を明記した。実現すれば、食の宝庫である北海道の農産物輸送や、本州からの物流の高速化が進む。チェーン店なども出店しやすくなり、大きなプラス効果が見込めそうだ。

 加えて、まだ試案レベルだが、第2青函トンネルの構想も持ち上がっている。35年前に開通した青函トンネルは現在、列車の運行のみ。新幹線と貨物列車は同じ線路を使っており、すれ違いの風圧による事故を防ぐため、新幹線はこの区間を160㌔の低速で走っている。

 試案によると、第2青函は自動車やトラックが走行する道路と、貨物列車の線路にする。旧トンネルを新幹線専用にすることで高速化を実現するという。仮に第2青函が現実になれば、フェリーを使わずとも本州から北海道に自動車で行きやすくなり、車で北海道一周ドライブも気軽にできそうだ。

 空と海、そして陸路へ。近い将来、北海道と本州の一体化が現実のものとなりそうだ。

最初から読みたい方はコチラ >>大阪の富裕層はなぜ、札幌のタワマンを買うのか?【第1回】