大阪のタワマンバブル 25棟が同時販売 供給数急増でも値上がりする理由

 大阪市内は空前のタワーマンションブームだ。2022年4月現在で25棟もの新築物件が同時に販売されるかつてない状況に、業界からは第3次タワマンブームの到来を告げる声が聞こえてくる。素人目線で心配なのは、これだけ供給が増えると値崩れしないのかどうかだ。世界では中央銀行の金融引き締めや、ウクライナ侵攻など不安要素も多い。タワマン市況の現状と今後を探ってみた。

※大阪都心部のタワーマンションの竣工年月日別に頭数の合計を集計

10億円の住戸が抽選 たった1戸をめぐり、18組が申し込む

 タワマン市場の活況を象徴するのは、なんと言っても2024年に完成するブリリアタワー堂島(北区堂島2)だ。2021年11月の第一期分譲では、販売数185戸に982組が申し込み、倍率は平均で4.6倍、最高で37倍を付ける人気ぶりだった。注目は大阪で過去最高額となる10億8000万円の最上階プレミアム住戸だったが、こちらも18組が申し込み、抽選となった。

 2月下旬から始まった第2期申し込みでも勢いは衰えない。第1期で販売された同タイプの住戸が、1期価格よりも5000万円値上げされたのだ。それでも抽選になる状況は変わらない。完成してもいない物件の価格が、今も上がり続けている。

大阪のタワマンバブル 右肩上がり続く

 「タワーは着工から完成まで2〜3年かかるが、入居時に購入した価格より2割ほど上がっていたケースは少なくない」と話すのは大阪のタワマン市況に詳しいES&CompanyのCOO(最高執行責任者)芝崎健一氏。

 北区大淀南に2021年6月、完成したばかりのグランドメゾン新梅田タワー・ザ・クラブレジデンスを引き合いに出しながら、芝崎氏は「2年前に7000万円で販売された新築の1LDK(約68平方㍍)が、今は9280万円の中古物件で出回っている」と明かす。

 グラフの通り、大阪のタワマン市況は全体的にも右肩上がりだ。中古取引数はすでに前年を上回るペースで、成約坪単価は昨年よりも28万円高い312万円(2022年3月25日現在)で推移。いずれも過去最高を更新し続けている。

※近畿レインズのデータを元に(株)ES&Companyが選択した大阪都心部のタワーマンションから算出。 2010年1月〜の成約実績を集計

タワマンの値上がりを支える3要素

 値上がりし続けるタワマン市場だが、気になることもある。今後、大阪都心部(北、中央、西、福島、浪速、天王寺)に建設されるタワマンは、判明しているものだけで22年に7棟(完成済み含む)、23年に9棟、24年に6棟あり、新たに約6400戸が市場に追加される。同地域で01〜21年までの約20年間に供給された戸数は約3万5000だから、今後3年で2割近くが増える計算だ。

 供給が増えれば値が下がるのが経済の鉄則だが、相場への影響は大丈夫だろうか。

 芝崎氏は「供給は増えても、都心回帰で需要も同じくらい増えているからバランスが取れている」と現場の肌感覚を説明した上で、タワマンが今後も高騰し続ける3つのポイントを指摘する。

要素① 値引きが起きない

 一つ目は、新築物件に値引きが起きないことだ。ご存じのようにタワマン相場を決めているのは新築価格だ。新築が値上がりすれば中古も値上がりし、新築が値下がりすれば中古も値下がりするように、新築がベンチマークとなって相場全体を動かしている。

 「現在のタワマン事業者は、電鉄系や財閥系など資金の潤沢な大手企業ばかり。売れなくても資金繰りに困らないから値引きをする必要がなく、値崩れは起きにくい」ということだ。

 過去には大小含め、多くの企業がタワマン事業に参入した。しかし、08年のリーマンショックで新興不動産企業が一斉に淘汰され、その後は大手の寡占化が進んでいる。資金繰りに困らないプレーヤーばかりだから、値引きが起こらず、新築価格が維持される。

要素② 原材料の高騰

 二つ目は、土地代、建築費の高騰だ。土地に関しては、国交省が3月23日に発表した公示地価で、キタ・ミナミの商業地がコロナ禍で大きく下落する一方、マンション需要の高い大阪市内の住宅地は上昇した。特に西区は前年比6%も上げた。建築費もご存じの通り、原材料高と円安のダブルパンチで高騰が続き、下落要因は見当たらない。

 余談だが「一部では建築の質を落として価格調整するタワマンも見受けられる」(芝崎氏)という。つまり、建築費が上がる前に建てられた中古物件の方が建物価値が高い場合もあるということだ。

要素③ 海外富裕層の投資対象にも

 三つ目は、買い手の裾野が広い点だ。タワマンは日本人に限らず、海外投資も引き付ける。「コロナ禍前までは、購入客が契約のためだけに渡航してくるなど活況を呈していた。アジア富裕層から見れば日本は安く、東京に比べれば大阪はさらに安いからだ」と芝崎氏。

 加えて、今は円安。ドル円で考えると、ちょうど1年前に1億円だった物件は、今は8700万円程度で買えるわけだ(21年4月12日の1㌦約109円と22年4月11日の約125円で算出)。

今後は高度な選球眼が必要

 勘違いしてはいけないのは、タワマンがすべて値上がりしているわけではないことだ。01年以降に大阪都心部に供給された物件で、昨年、中古取引のあった112棟のうち、3分の1にあたる37棟は前年より価格が下落している。芝崎氏は「以前より物件の目利きが難しくなった。値上がりを期待する場合は、これまで以上に高度な選球眼が必要」と指南する。

 値上がりする物件を見極めるには、次の6つがポイントだ。

①人口動向や開発などの将来ニーズ

②最上階に豪華な共用部があるなどの建物価値

③複合開発や駅直結などの希少性

④マンション内における間取りの希少性

⑤周辺と比較したときに適正相場かどうか

⑥眺望や環境阻害などのネガティブ要因はないかどうか

 上記のすべてがそろえば価格が上がりやすいという。

 また、同じ新築タワー内でも割高、割安の住戸がある。芝崎氏は現在販売中の某タワマンを例に挙げ、大阪城が正面に見える角部屋に比べ、城を右側に見る角部屋で坪単価が35万円安くなっている点を指摘。

 「販売側が後者は売れ残ると判断しているが、かなり割安に見える。販売側が完売させようと強く思えば思うほど、隙が生まれる。こういう値付けをするマンションは狙い目だ」とアドバイスする。

 実際に大阪都心部のタワマンは、購入時からどれだけ値上がりしているのか。下記に物件ごとの値上がり一覧を掲載したので参考にしてほしい。

※表示の売出価格は不動産ポータルサイトより ※2022年4月現在

 不動産投資で「値上がりする物件を買いたい」と思うのは購入者として当然の心理だ。とはいえ、どの物件なら値上がりし続けるか、を素人が見極めるはなかなか難しい。

 加えて不動産業者は「売ったら終わり」の傾向が強いから、どこまで販売担当者の言葉を信じて良いかの疑問も残る。このあたりを知りたい人には、過去に日本の不動産価格がなぜ安定しないのかを解説した記事があるので読んでみてほしい。>>選べる物件は氷山の一角 変革必要な日本の住宅取引