文武一道〈5〉子どもの教育は〝いいかげん〟が良い

新極真会・阪本師範の〝強育〟コラム

 今回は読者から子育てに関する質問が届きましたので、回答するカタチで書いていきたいと思います。

【Q】教育方針で夫婦間にギャップがあります。旦那は学歴重視ですが、私は自由にのびのび育てたいタイプ。「パパは勉強しろってうるさい」と子どもに言われると、「そうよね」と言ってしまいます。子どもの教育上、このままではダメですよね。

【A】子どもはある程度の年齢になると、自分のやりたいことを主張するようになってきます。そんなとき、大人の考えを強引に子どもに押し付ける傾向があるようです。

 先日、空手道場に1組の親子が体験にやって来ました。親御さんは空手を習わせたいと強く思っていたのですが、その子は「空手なんかやりたくない」と泣きじゃくっていました。その際、私がいつも心掛けているのは「無理やり空手をさせない」ことです。ここで強引にさせると、子どもは空手自体を嫌いになってしまいます。

 私はまず「空手はやらなくていいよ。でも見ることはできるよね」と声を掛け、見学してもらうことにしました。道場の子どもたちが楽しそうに稽古をする姿を見せれば、次第に集団心理が働き、やってみたい気持ちになることを知っていたからです。

 私はじっと稽古を見つめるその子の様子を観察しながら、すかさず「空手はやらなくていいから、この運動だけ一緒にやってみようか」と声を掛けました。いつの間にかみんなに混じって空手をやりはじめ、最後は大きな声であいさつをして帰ってくれました。

 ここで言いたいのは、親の理想を押しつけるだけが教育ではないということです。ただし、子どもを自由にさせるのも違います。

 大切なのは、「今の状況が正しいか正しくないかを子ども自身に〇×をつけさせる」ことです。親や指導者は、ちょっとずつ歩調を合わせていくことが大切です。大人の都合で無理強いしても本人の心の成長に良い影響は与えません。

 今回の質問の答え合わせをしましょう。父母の教育方針が違ったままでは、正しい答えは生まれない。まずはお互いの考えをすり合わせ、ちょうど良い落としどころを見つけることです。旦那さんは奥さんの考え方を、奥さんは旦那さんの考え方を認めるところから始めましょう。

 「あぁ、うちの旦那はこういうこと気にしているから、その考えなんや」。夫婦で水と油になるのではなく、2人の考えを一つにする。コーヒーと牛乳なら、ちょうどいい加減のミルクコーヒーで良いのです。「いいかげん(良い加減)」がいいのです。

 私は夫婦が同じ領域にいるのはよくないと考えており、わが家では私が父として文鎮みたいな役割に徹しています。文鎮で紙をしっかり固定しているからきれいな字を書ける。具体的には、子どもが行き過ぎたらブレーキをかける役割です。

 「お父さんが言うから…」の教育ではなく、上手な声かけをして、子ども自身が判断するように持っていく。

 親が何でも決めてしまう教育では、大人になったときに自分で判断ができず、子どもに苦労をさせてしまいます。決められたことはできるが、自分で判断できないから融通が効かない。これでは次第に協調性も失います。決められる人生ばかりの人間を量産してはいけない。

 大人になればある程度は嫌いなこともやる必要が出てくる。ぜひ〝つの年齢〟(9つまで)では好きなもの嫌いなものにたくさん触れさせ、苦手なことも得意になるようなメンタルに磨いてあげてください。

 教育が「親の一人歩きとや子どもの置いてけぼり」になっていませんか? 空手も勝たせるのは簡単ですが、子ども自身に「勝ちたい」と思わせるのは難しいものです。

 ぜひ正しい声かけで、お子さんをすこやかに成長させていってあげてください。

※阪本師範に質問のある読者は、本紙までメールか手紙でお寄せください。紙面で解決方法を紹介します。


■阪本晋治(さかもとしんじ)プロフィル
1975年大阪市生まれ。空手選手として全日本大会準優勝、ワールドカップ(ハンガリー)ベスト8、日本代表として全世界選手権大会に出場する一方、NPO法人全世界空手道連盟新極真会の師範として7つの道場を統括し、門下生は約600人。空手の普及だけでなく、大阪観光大学講師や門真市との事業連携など社会、地域活性化で幅広く活動している。