文武一道〈2〉 目を鍛えれば、場の空気さえも読める 〜視野が狭まった子どもたちに警鐘

新極真会 大阪東部支部支部長の阪本晋治師範

新極真会の師範 阪本晋治の〝強育〟コラム

子どもたちに、けいこをつけながら実感することがあります。

それはコロナ禍の生活が、大きな負の影響を子どもたちに与えてしまっていることです。

道場でのけいこ中、整列をさせるときに「真っ直ぐ並びなさい」と言っているのに、なぜか前の人とズレてしまう子。ちょっとした段差に引っかかって転んでしまう子。目の前の出っ張りに頭をぶつけてしまう子…。

本人たちは決してふざけているわけではありません。至って真面目なのです。

コロナ前にはこんなことはありませんでした。一体子どもたちに何が起きてしまったのでしょうか。

原因は「目」にあり!

私は、この原因はすべて〝目〟であると考えています。

医学的には、目に映った情報は脳に送られて、その情報を脳が立体的に捉えて状況を把握しています。空手でも「この距離では相手のパンチが当たる」「上半身ばかりでなく相手の下半身も同時に視界に捉えていなければ蹴りを入れられてしまう」など、距離感や視野の広さは日々の訓練で養われるものです。

ところが、コロナ禍によって学校生活が大きく変わってしまいました。

学校での集団生活ができなくなり、友人たちと接しなくなったので、人との物理的な距離がつかめなくなりました。さらに、家でスマホを片手に、小さな画面だけを見続ければ、画面の外に注意がいかなくなり、視野が狭まってしまいます。

例えるなら、エサしか目に入らず、罠に気づかないイノシシのような状態です。視野が広ければエサから伸びている仕掛けが見え、罠にかかることはありません。

そう考えると実は、学校の集団生活は、友達と接する中で無意識に距離を測ったり、視野を広げたりする目の訓練になっていたと考えられます。

「場の空気が読めない」のも目が原因

剣豪・宮本武蔵は「一枚の葉を見て木が見えず、木を見て森を見ず、森を見て山が見えず」と説いています。

物理的な距離に限らず、「場の空気が読めない」のも目に起因しているということです。

私が指導している放課後等デイサービスの子どもたちの中に、いつもソワソワして落ち着きのないK君がいました。

私は「K君に落ち着きがないのは、周りが見えていないからだ」「K君は真っ暗なお化け屋敷にいるような状態だから、不安で落ち着かないのだ」と見抜き、K君と一緒に視野を広げる眼球運動に取り組みました。

すると予想通り、K君に落ち着きが出てきました。さらに眼球運動を続けた結果、今ではじっと座っていられるまでに改善したのです。

視野が広がったことで、K君は周囲の状況も判別できるようになり、次第に自分勝手な行動もなくなっていきました。

今は何でも病名をつけて、改善をあきらめてしまいがちな時代ですが、私はK君との経験から「発達障がいだから仕方がない…」と思考停止するのは間違いであると確信しています。

根っこの原因を正しく見抜き、根っこから解決してやれば、物事は必ず良い方向に向かいます。

視野が広がる「眼球運動」のやり方

それでは、視野を広げる眼球運動のやり方を、みなさんとも共有したいと思います。

まず両手を前に出して親指を立てます。続いて左右の親指を目だけを動かして交互に見ていきます。慣れたら早く動かしてみましょう。

次は親指を立て、右手を上に、左手を下にします。今度は目を上下に動かす運動です。

最後は利き手の人差し指を立て、ゆっくり顔に近づけたり離したりしながら目のピントを合わせる練習です。

この3つの練習によって、真っ直ぐを見ながらでも上下左右もぼんやり見えている状態になるので、視野が広がります。

ただ、せっかく視野が広がっても、やはり土台が一番肝心です。せっかく目を訓練しても、土台がグラグラしていてはブレた情報が目に入ってくるからです。

肝心の土台とは、前回のコラムでお話しした「足の裏」のことです。>>【文武一道①】すべての原因は〝足の裏〟

結局は、人間の体の中で唯一、地球と接している足の裏。これが一番重要になってくるのです。

>>【文武一道③】〝腹圧〟を高めれば、あらゆる問題や不調が改善する


阪本晋治(さかもとしんじ)プロフィル/1975年大阪市生まれ。空手選手として全日本大会準優勝、ワールドカップ(ハンガリー)ベスト8、日本代表として全世界選手権大会に出場する一方、NPO法人全世界空手道連盟新極真会の師範として7つの道場を統括し、門下生は約600人。空手の普及だけでなく、大阪観光大学講師や門真市との事業連携など社会、地域活性化で幅広く活動している。