4400円に〝1万円の体験〟仕込む。大阪・京橋に新業態のカウンター寿司 竹内健社長にねらいを聞く

 「カウンター寿司は高い」─その先入観を4400円のコースでひっくり返す店がある。大阪市内のJR京橋駅近くの地下にある鮨「匠」(すし・たくみ)。10品以上のコースに、魚の骨で炊くラーメンと手作りプリンまで添える。運営するのは飲食畑出身ではないJISEDAIの竹内健社長だ。携帯電話販売の現場で鍛えた〝価値の伝え方〟と〝お客様中心〟の経営スタイルで業界に革命を起こしている。(佛崎一成)

「私は飲食業ではなく、飲食サービス業」と強調する竹内社長=京橋駅前の鮨「匠」

4400円で祝いの席

 ─まず、この店の狙いから聞かせてください。
 カウンター寿司は敷居が高く手軽には行けない。ちょっといい店だと一人3〜5万円はします。家族4人で簡単に10万円を超えてしまう。その敷居を下げるため、4400円のコースで提供できれば、家族のお祝いや誕生日にも気軽に利用してもらえ、喜んでもらえると思ったんです。

 ─高級なカウンター寿司の世界を一般家庭にも利用しやすく、ということか。

 カウンターの寿司屋は安くて1万円前後。一方で回転寿司のような手軽な店もある。寿司業界は〝真ん中〟の市場がないと感じ、そのポジションで勝負するのは面白いと思ったんです。

 ─業態は竹内社長が考えたのか。

 もともとは飲食店事業を展開する881(やばい)グループの平井孝彦社長の発想です。平井社長とは以前から親しくしていて、「4400円で15品の寿司のコースをやりたいので、事業を手伝ってくれないか」と相談を受けたのがはじまりです。

思わずよだれが出てしまいそうなトロ

 ─飲食畑ではない竹内社長に、なぜ相談が来たのか。

 おっしゃるとおり、もともと私は携帯電話業界にいました。外注で営業代行や法人コンサルを請け負っていましたが、コロナ禍で仕事が半分になり、危機感を感じて別の事業をはじめることにしたんです。そこで、ウナギの事業で全国展開を目指す社長と知り合い、関西での展開を私が担うことになった。そのウナギで成功していたので、同様の仕組みで寿司を展開しようとする平井社長から相談を受けたんです。

 ─同様の仕組みとは。

 ウナギの場合は、最初に向こうの社長とこんなやりとりがあったんです。「ウナギは好きか。一年にどのくらい食べるか」と聞かれ、私は「年に2、3回です」と答えました。すると社長から「なぜそんなに食べる回数が少ないのか」と理由を聞かれました。当然、値段が高いからです。そのやりとりから、高級と低価格の間にある〝中間マーケット〟にビジネスの勝機を見出したんです。

 ─「年に2、3回しか食べない」を仕組みで変えると。

 そうです。値段が高い理由を調べると、職人が焼かないといけない、ウナギの仕入れが高いという2つの問題からでした。つまり、この2つを改善できれば安く提供できるようになるということです。このため、ニホンウナギを海外で育てることで原価を下げ、高度な機材で焼ける仕組みを整える。こうして立ち上げ当時はニホンウナギを1500〜2500円(現在は1800〜3000円)で提供していました。

 ─なるほど。ウナギでの成功体験が、寿司の中間マーケットを攻める事業にもつながったわけか。

寿司職人の人手不足を解決

 ─ウナギに比べて、寿司の難しさはあるか。

 はい、ありました。ウナギは機材や仕入れ先に縛りがあったので、簡単には真似できない。一方で、寿司は生ものだから、好きなところで仕入れられます。つまり、強みはアイデアだけなので、すぐに独立して真似されてしまうことがネックでした。

 ─その問題をどう解決したのか。

 要は、スタッフが独立してもいいビジネスにすることが解決策でした。3年経ったらスタッフに店舗ごと売る仕組みにしたんです。

 ─鮨「匠」がその1号店というわけか。

 はい。通信業界で社員だったスタッフが独立を目指して店を切り盛りしてくれていますが、1号店なのでまだまだ改善の余地はあります。例えば、寿司職人としての修行に2カ月かかってしまったので、仕組みを変えることで2週間で板場に立てる仕組みに近づけたい。そうすれば、より多くの人が再現しやすい職種になっていきます。

こじんまりとした店内。家族の誕生日会などでの貸し切りも可能だ

 ─修行の短縮を具体的にどうやってやるのか。

 従来のように、修行が朝10時から深夜2時までだと続けられる人が限られてくる。例えば、ネタを〝サク〟で仕入れるように変えれば修行する項目が減り、やりやすくなります。

 ─なるほど。

 私から見て、重要なのは寿司の見た目と握りです。例えば、イカに切り付けを入れるだけでも見た目がおいしそうに変わる。こうした重要なポイントだけを反復練習する修行に変えていき、その他は実践の中で磨いていくスタイルにしていけばいい。

 ─それができれば担い手も広がりそうだ。

 家事に携わる女性でも運営できる仕組みにし、女性の寿司職人を増やしたいと思っています。

飲食業ではなく、飲食サービス業

 ─匠では、まず映像が流れ、おいしい寿司が次々に出てきて、最後にラーメンやプリンが登場するという物語仕立てになっている。エンタメ性が強いのが特徴だ。

 「何の仕事をしているの?」と聞かれたとき、私は「飲食サービス業」と答えるんです。何も言わずに板前がトロをサッと出すよりも、「○○産のトロです」とお客様に価値を伝えて提供する方が喜んでもらえるし、おいしく感じますよね。言葉で価値を届けることを大切にしています。

 シメのラーメンもスープは魚の骨を5、6時間炊き続けて手間を掛けています。化学調味料も一切使わない100%魚介のラーメンで、他の店では通常1800円はするレベルです。お客さんに「ここは寿司屋だから魚の骨が出る。だから、皆さんにコース料金だけで食べていただけるんですよ」と話をするんです。4400円のコースに、1800円のラーメンが入っている価値を感じると、お客さんはお得感が増しますし、すごく喜んでもらえます。

 「ラーメンとプリンがおいしかった」と言われるお客さんもいますが、それでいいと思っているんです。老舗の寿司屋からすると絶対に許せないことも、私は異業種の人間なので、逆に強みと捉えることができます。

魚の骨を5、6時間炊き続けたスープで作ったシメのラーメン。竹内社長によると、他店ではこの一杯で1800円はするレベルという

 ─家族利用にも力を入れている。

 6人以上で貸し切りにできるので、小学生以下のお子様が騒いでも気兼ねすることなく楽しんでもらえます。カウンターの寿司屋に家族で行くことは少ない中、子どもが大きくなった時、「昔ここで祝ってもらった」と思い出に残るような店を目指しています。

 ─まさに、単なる飲食店ではなく、飲食サービス業だ。

 通信業界でも飲食業界でも、私の中には「売る」より先に「喜んでもらう」があります。スマホを販売するときも、スマホがあるとお客様は何ができて、暮らしがどう変わるのかという価値を全部伝えます。

 中には、「このオプションを付けると高額になるから相手に言わない」と考えるスタッフもいますが、私はお客様の〝お財布事情〟をこちらで勝手に決めてしまうのは失礼だと思っています。すべてをお伝えして、最終的に決めるのはお客様ですから。

 飲食も同じ。料理を出すだけの飲食店ではなく、時間そのものを楽しんでもらう〝飲食サービス業〟が私の仕事です。産地や手間、背景まで言葉にして伝え、初めてお客さまに価値を届けることができる。そこに金額の大小は関係なく、小学生でもご年配でも、例え1円の商品でも、「ありがとう」と言ってもらえないなら、お金をいただく価値はないと思っています。

世の中を食で良くする

 ─最後に。竹内社長は寿司の次に見ている世界があると聞いた。

 抗酸化作用や免疫力の向上など健康に良い影響を与える「ファイトケミカル」を使い、食で世の中を良くしたいと考えています。

 体は食べ物からでしか作られません。私自身も持病を抱えていますが、ファイトケミカルの力で数値が改善してきました。薬まみれの生活をするより、ファイトケミカルの野菜のスープを飲み続けて健康を維持する方が世の中にとって絶対にいい。食で健康を整えてもらう事業を形に、世の中に貢献することが私の次のステップです。

JR京橋駅近くにある鮨匠

竹内健社長プロフィル
 大阪府吹田市生まれ。自らを「超インドア」と語り、学生時代は卓球に打ち込みつつ、高校時代から新聞配達を続けた。NTTドコモで販売・接客の経験を積み、独立後は営業代行や法人コンサルに携わる。コロナ禍を機に飲食へ参入。ウナギ業態では「高いから年に数回」という消費者心理に着目し、中間市場を狙ったモデルで出店を重ねた。鮨「匠」では「回転寿司と高級寿司の間」を狙い、家族の「祝いの場」を日常に引き寄せている。
 「顧客中心」の仕事観で、「勝つより負けない経営」を重視。将来は食と健康、廃棄野菜の活用などにも関心を広げている。

株式会社JISEDAI
大阪市淀川区宮原2-7-12/TEL.06(6464)0802
鮨 匠/大阪市都島区東野田町3-10-19

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