文武一道〈8〉教育には〝持ち場〟がある 家庭、学校、習い事 それぞれの役割

新極真会・阪本師範の〝強育〟コラム

 「先生、うちの子にミット打ちもさせてください。別の空手道場ではやっていますから」。道場生の保護者から、こんな要望がありました。

 私は「お母さん、この子はまだ心身の土台、地面にちゃんと根が張っていません。根がなければ太く丈夫な幹も育ちません。それなのに幹から伸びる枝葉のけいこはやらせられません」と伝えました。

 しかし、「教育方針が合わない」と言って、その親子は辞めていかれました。

 子どもの教育には家庭、学校、習い事の3者が関わっていますが、それぞれに持ち場があります。 学校は勉強を習い、集団活動で協調性を学ぶ「教育」の場。習い事は空手ならけいこをして、試合で優劣がつく。負けても「なにくそ」と思える強い心を養う一方、勝ってもおごらず、相手を尊敬する心を養う。いわゆる非認知能力を高める「強育」の場です。そして家庭は、親子で一緒に成長する「共育」の場です。

 家庭の価値観を学校や習い事に押し付けたり、反対にしつけなどを「学校や習い事に任せといたらいい」と考えるのも違います。

 3者が協力し合う「協育」が子どもの良い成長には欠かせないのです。

 2000年ごろから学校にクレームをつける「モンスターペアレンツ」という言葉が広まりました。もちろん、すべて家庭が原因ではありませんが、これは持ち場を理解されていない人の典型です。

 こうした保護者の行動は、3者の持ち場を崩して孤立してしまい、子どもの居場所を窮屈にします。

 親が子に一生懸命な気持ちは理解できますが、先生も親も子どもと接しながら成長します。互いにもがき苦しみ、協力しながら信頼関係が生まれる。この3者の「協育」の結果、勉強ができる、強い選手を生み出すのです。

 最初の空手の話に戻りますが、ミット打ちなどの華やかに見える練習を優先し、基本をおろそかにするとどうなるか。確かに最初は勝つ可能性が高いです。すると今度は奇抜な技に走り、無理な体力げいこをさせるようになる。一瞬の打上花火の輝きばかりを考えていると、いざ子どもが勝てなくなれば、「この子ダメや」となりやすい。

 それより例え負けても、なぜ負けたかを考える子に育てる。教育は物質的なものではなく、幸せになるためのもの。それこそが強い教育です。

 「餅は餅屋」という言葉があります。専門家には専門家にしか見えない部分あり、今のその子にとって、必要だからそれを教えているのです。

 学校もそうです。「先生に注意された」と子どもから聞かされて逆上するのではなく、本来は「先生がなぜ注意したか」を子どもに説明してあげなければなりません。

 先生の指摘を通じて「あぁ、家庭では注意していなかったな。その分、学校で迷惑をかけているな」と保護者自身が学ぶことができ、素直に実践に移せます。「〇〇君、最近はうまくできるようになっています。ご家庭でも教えておられるのですか」と先生に褒められれば保護者もうれしい。加えて「先生はちゃんとわが子を見てくれている」と信頼関係も生まれます。

 いかがでしょうか。このように教育には持ち場がある。親が持ち場を超えて介入すれば、親が2つになり「おやおや(大丈夫ですか)」となってしまいます。

 このコラムを読んでハッとした保護者の方は、まずは子どもの見え方を変えてみましょう。書けなかった漢字が書けるようになっている。あいさつができるようになっている…。勝った負けたの打上花火ばかりに着目せず、子どもの成長をちゃんと見てあげてください。

 そうすれば、周りの人々の〝お陰様〟に気づくことができます。〝陰〟は子どもの成長からしか保護者には見えませんから。そこが見えると「ちゃんとわが子を導いてくれている人達がいる」と感謝に変わるはずです。


■阪本晋治(さかもとしんじ)プロフィル
1975年大阪市生まれ。空手選手として全日本大会準優勝、ワールドカップ(ハンガリー)ベスト8、日本代表として全世界選手権大会に出場する一方、NPO法人全世界空手道連盟新極真会の師範として7つの道場を統括し、門下生は約600人。空手の普及だけでなく、大阪観光大学講師や門真市との事業連携など社会、地域活性化で幅広く活動している。