【わかるニュース】党勢回復の切り札は〝3度目の都構想〟か

(写真右)大阪で開催された臨時党大会に出席した日本維新の会の新代表で大阪府知事の吉村洋文氏=2024年12月1日(アフロ)
(写真左)大阪で開催された日本維新の会臨時党大会に出席した前原誠司衆議院議員=2024年12月1日(アフロ)

揺れる「維新」 万博は? 国政は?

 維新政治が揺れている。地域政党である『大阪維新の会』は吉村洋文大阪府知事(49)を頂点に、大阪市や堺市、東大阪市、枚方市など主要都市の首長を抑え盤石だ。一方で、国政政党『日本維新の会』は、与党が大敗した昨年の衆院選で党勢が後退。正念場となる今夏の参院選は吉村に加え、合流してすぐ共同代表になった前原誠司・元民主党代表(62)と共に戦う。

 2つの『維新』はうまく機能するのか? それとも報道で言われているような国会議員の造反を招く結果となるのか? そもそもなぜ、このような事態となったのか。大阪目線だけでは分からない『維新』の実態に迫る

「都構想」より現実的な「特別市」

常勝 大阪維新 次の一手!?

2025年大阪・関西万博 ガンダムパビリオン構想発表 イベントに出席した大阪府知事の吉村洋文氏=2023年10月6日、東京(つのだよしお/アフロ)

 つまずきの始まりは「大阪・関西万博」の不人気ぶりからだった。万博記念公園(吹田市)や花博記念公園鶴見緑地(鶴見区)など、いくらでも交通の便が良い場所があるのに、わざわざ未開の埋立地である夢洲(此花区)を会場に選んだ。電車やバスの交通インフラが超ぜい弱で、大阪市内から「船で来て!」では盛り上がるはずがない。

 吉村は国に支援を求めたが腰は重い。それもそのはず、大阪が万博開催に立候補した2017年は自民党に安倍晋三総理、菅義偉官房長官、大阪維新に橋下徹市長、松井一郎知事の蜜月4人だった。しかし、今は誰も責任あるポストに居ない。もともと「夢洲へのIR(カジノを含む統合リゾート)誘致ありき」で始めた万博の成否は、とっくに国民に見透かされている。

 こうした中で、汚名返上に『大阪維新』が持ち出してきたのが過去2度、住民投票で否決された「大阪都構想」だった。吉村は前回、「やり切った。自分が政治家の間は再提案しない」と約束していたが、他にアピールできる材料が乏しく〝禁じ手〞へと舵を切った格好だ。

 しかし、「都構想」は双刃(もろは)の剣。最初は橋下大阪市長、2度目は松井同市長の代でそれぞれ否決。2人とも責任を取る形で引退を表明することになった。仮に3度目をしくじれば、同様に吉村の進退に関わるかもしれない。

 「都構想」は政令市の大阪市を廃止し、4つの特別区に再編するもの。2度の否決の間に神奈川県内では政令市の横浜・川崎・相模原の3市が独立する真逆の「特別市」構想が持ち上がった。県を飛び越え、特別市に国から財源などが直接委譲される計画で、ソウル市(韓国)やパリ市(仏)も同じやり方だ。

 『大阪維新』はもともと行政簡素化のため、都道府県を廃止し直接市町村と国がやり取りする「道州制」実現を目標に掲げており矛盾はない。これなら京都市、神戸市を加えた三都連携の「関西経済圏・副首都構想」もスムーズに進むのだが、維新政治はどうしても〝大阪市の解体〞にこだわり続けている。

常勝『大阪維新』のいらだち

 『大阪維新』の首長や地方議員は、『日本維新』に対して常に上から目線で見ている。先の衆院選でも府内19小選挙区で全勝。これまで蹴散らしてきた自民、立憲などだけでなく、初めて公明と直接対決した4選挙区も勝ち抜いた。『日本維新』が小選挙区で勝ったのは大阪以外では、前原共同代表の京都2区や、直前に合流した『教育無償化を実現する会』組と西日本の数人のみ。東日本は音喜多駿・党政調会長(41)や小野泰輔・元熊本県副知事(50)ら有力議員が相次いで落選した。このため、『大阪維新』からすれば「(大阪では)維新政治が評価され、国政選挙でも人気を反映して常勝しているのに、東京や他県は何をしている?」と不信感を増している。

 『日本維新』は衆院で前回比わずか3議席減の38議席だったのに、党執行部の責任問題に発展。同じ大阪小選挙区を勝ち上がった馬場伸幸代表(59)、藤田文武幹事長(44)コンビが一新されたのはそういう事情からだ。批判の急先鋒に立ち上がったのが『大阪維新』創設者の1人、浅田均参院議員(74)だった事からも、いらだちがうかがえる。

 自公与党が圧倒的に強かった時期の国会運営に携わってきた旧執行部にも言い分がある。『大阪維新』得意のスローガン「身を切る改革」は、実質的には議員定数と公務員の削減、公共事業の民営化がメイン。しかし、『日本維新』がいくらそれを声高に叫んでも、少数野党の国政の場では何も実践できない。

 「全て多数決」の院内で出来る事は限られている。立憲嫌いの馬場が掲げた「第二自民党でいい」という議会戦術はそこから出てくる。藤田はもっとドライ。私に直接、こう話してくれた。「かつて自民党に協力した保守系新党はすべて吸収され消滅した。我々は独自で政権交代を目指す。そのためにはまず候補者を数多く立てることに全力を注ぐ」。『日本維新』執行部にすれば「大阪維新は国会の状況を何も分かってない」と不満が募った。

したたか前原の腕力は?

 そこへ登場したのが前原だ。吉村は『日本維新』の代表選に出馬し、8割を得票し圧勝。しかし、知事と『大阪維新』の代表、さらに国政ではとても手が回らない。国会には独自ルールが数多くあるから、衆院内にいないと分からないことは多い。その名代が共同代表の前原という訳だ。吉村は「私は大阪市交通局を民営化し大阪メトロにした。前原さんは国交相時代に関西3空港の連携民営化に動いた。よく似ている」と信頼を寄せている。

 こうなると、馬場系『日本維新』のメンバーは面白くない。自分たちは少数野党で苦労してきたのに選挙直前に他党から移ってきた前原に従わなくてはならないからだ。しかも前原は〝壊し屋、疫病神〞と呼ばれ、永田町ではすこぶる評判が悪い。初当選の日本新党以来→民主の風→新党さきがけ→民主党→民進党→希望の党→国民民主党→教育無償化を実現する会→日本維新の会と渡ってきて、公党トップを務めるのは実に4回目。政策的には「非自民、非共産」で、左右両端以外は受け入れ、ストライクゾーンが広い。

 夏の参院選の行方を決めるのが1人区の勝敗とあって、吉村は「野党協力」を盛んに口にする。公認候補で複数区と比例区をしっかり確保する代わりに、1人区は野党協力し自公政権を追い込む戦術だ。

 以上、維新を巡る状況を駆け足で説明したが、それでは『日本維新』から議員離党や複数分裂はあるのだろうか? 政治家は理念でいかに異なっていても現実は「自分の選挙」がすべて。前原は政党をこれだけ渡り歩いても落選したことがない。長い間「自民党内野党」で離党経験もある石破茂総理(67)も同様に、自身の選挙はすこぶる強い。残念ながら『日本維新』を造反離党し出馬、吉村ブランド『大阪維新』からの刺客と争ってなお、再び議席を得ることができる現職議員は数えるほどしかいない。

 『大阪維新』が健在な限り、『日本維新』はこれからも一定数の議員を国会に送り込める。一枚看板の吉村は弁護士で、かねがね「政治家は一生の仕事ではない」と言っている。このあたりは経歴や立場、発想までも元代表の橋下とそっくりだ。吉村が進退をかけ危険な賭けとなる3度目の都構想住民投票に臨む時こそ、党存亡の正念場となるに違いない。