【わかるニュース】仁義なきエネルギー争奪戦 ウクライナ侵攻で暴騰する原油・天然ガス


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 21世紀は「世界の経済が鎖のようにつながり、相互依存の関係にあるから、戦争はもはや過去のもの」と信じる人は多かった。欧米型の自由主義社会と中ロ型の専制主義社会の対立は依然として続いていたが、「戦争は起こらない」と大多数の人は思い込んでいた。

 ところが今年2月、ロシアがウクライナ侵攻を開始。戦いは長引き、すでに半年を超えた。世界でエネルギーの奪い合いが始まり原油・天然ガスの価格が急騰。日本ではさらに円安によって、原油の決済通貨であるドルを買うコストがかさんでダブルパンチ。輸入諸物価も一斉値上げされ、電力危機も迎え、ジワジワと息苦しさを増している。

 日本の将来は大丈夫なのか?エネルギーを巡って世界が今、どう動いているのかを明らかにするとともに、日本が向かうべき未来について考えてみたい。

崩壊したエネルギー秩序資源小国・日本がとるべき道は?

資源大国、実は米ロが双璧

 思い出してほしい。ウクライナ侵攻前までの世界の状況を。EU各国は口を開けば米国や日本、中国に、「化石燃料からの脱却を。脱炭素化へ向け、再生可能エネルギーへの転換を」と訴えていた。

 ところが今はどうだ。脱炭素の旗振り役だったはずのEU各国は、ロシアからの天然ガス供給がストップすると大慌てだ。実態は「原発と天然ガス頼み」であることがすっかりバレてしまった。

 日本では夏場を前に電力逼迫(ひっぱく)が問題になったが、世界的な正念場は、これから電力・ガス需要が高まる冬場だ。

 ロシア産エネルギーの行き先は、原油の半分弱、天然ガスの7割強が欧州向け。日本向けはわずかとはいえ、人ごとではない。欧州の不足分は中東産と米国産のエネルギーが肩代わりするからだ。エネルギーの奪い合いで価格は着実に値上がりしている。

 地政学的に見たときエネルギー戦争の将来は、「中ロが組んだユーラシア経済ブロック」対「米国が支えるEU」の構図に集約される。極東アジアに位置する日本は不利な立場だ。

 戦争はべらぼうな戦費が掛かるが、ロシアは原油・天然ガスの輸出収入があるので長期戦でも懐は心配ない。欧米や日本がいくら制裁を続けても、中国とインドが目立たないように購入して裏で骨抜きにしているからだ。原子力の燃料となるウランは世界中で採れるが、原油・天然ガスは産出国が限られている。

 産油国は①米国②ロシア③サウジアラビア④カナダ⑤中国、⑥イラクの順で日本人が思っているイメージとは随分異なる。天然ガスも①米国②ロシア③イランだ。資源大国ロシアに対抗できる国は米国しかないのが現実だ。

ウクライナ侵攻 〝漁夫の利〟米国

 ウクライナに侵攻したロシアへの制裁に、欧米や日本は各種の禁輸措置を取った。エネルギーに関しては、米国が即座に石炭・原油・天然ガスを停止。EUや日本は石炭・原油は追随したが天然ガスは歯切れが悪い。EUにとってロシア産天然ガスはパイプラインを通じての生命線、日本に取っても「サハリン1」「サハリン2」の共同開発は簡単に手放せない。

 非情な話だが、ウクライナ侵攻を背景にしたエネルギー戦争は米国が最終勝利者だ。「アメリカ第一」型トランプ前大統領は、豊富な自国の石炭・原油・天然ガスを最大限友好国に売りつけるためCO2削減に背を向けパリ協定を離脱した。代わって登場した「国際協調」型バイデン現大統領はその逆を行き、欧州のエネルギーの命運を地続きのロシアに握らせてしまった。

 結果的にバイデン大統領は対ロ制裁の見地から自国内のシェールオイル開発を後押し。LNG(冷却液化して体積を圧縮した天然ガス)輸出へ欧州アジア向けプラントを増強中だ。エネルギー輸出国にとって価格上昇はプラス。米ロにとって好都合で、エネルギー産業は好況を満喫している。

資源無き日本に選択肢無し

 日本にとってのエネルギーで一番影響が大きいのは発電手段だ。東日本大震災までの日本はLNGと石炭による火力発電と原子力発電がほぼ3分の1ずつ。残りが石油の火力発電や水力発電だった。しかし、震災以降は全国の原発が全停止。現在はLNGと石炭の火力発電がわずかに増えて70%、水力発電と新エネルギー(太陽光や風力)が10%、一時ゼロだった原発はやっと6%、残りが石油火力発電だ。つまり発電に関しては原油よりLNGの価格動向の方が影響は大きい。

 原油は産業全体にとって血液のようなもので、なくなるとプラスチックなどの石油製品は作れないし、重油動力の大型モーター、軽油動力のトラック・バス、市民生活に欠かせないガソリンも作れない。古くは太平洋戦争開戦の引き金となったのも米国が日本に石油禁輸を決めたからだ。

 日本はエネルギー資源の9割を輸入に頼っており、OECD(経済協力開発機構)38カ国のうち、自給率は下から2番目だ。1970年代のオイルショック時は、エネルギーの77%を石油に頼り、その8割を中東に依存していた。

 その教訓から①原油備蓄②石油依存からの脱却を掲げ、LNGによる火力発電と原子力へのシフトを進めたが、震災で一気に原発が止まり、さらに送電網寸断で首都圏内の「計画停電」にまで追い込まれた。石炭や石油、LNGなどの化石燃料からの脱却は簡単ではない。

 そこに地球温暖化を遅らせる手段として温室効果ガス規制の考え方がEUを中心に台頭。日本も「化石燃料NO」を支持せざるを得なくなり、再生可能エネルギー開発にかじを切った。しかし、実際に始めてみると国土が狭く海に囲まれ気候の穏やかな日本にはあまり向いていないことが分かってきた。風力発電は海が遠浅で風が強い場所がいる。太陽光は風水害被害を避けるため、広く平坦な土地が好ましい。こうした発電地から消費地への送電網も整備が不十分だ。火山列島なので地熱発電は有望だが、調査開発にお金が掛かるのが難点だ。

 ウクライナ侵攻と円安が長引けば、電気代はどんどん上がり現行の3~4倍まで覚悟する必要がある。一時ブームだった「電力自由化」で雨後のタケノコのように生まれた新電力会社は採算悪化で次々撤退。産業界で原油などの資源高をすぐに価格転嫁できない非製造業(運輸・サービス・小売りなどの内需型)を直撃。政府はガソリン小売価格や輸入小麦売り渡し価格を抑えるため補助金をばらまいているが、参院選も終わった今、いつまでも続けられるはずはない。

 日本はロシアからのエネルギー輸入は石炭で13%、LNG9%、原油4%と比較的わずか。直接影響は少ないが、サハリンの天然ガス開発から撤退を余儀なくされると、投資した分も含めて中国に横取りされる。同じ事はイランの石油開発でもトランプに強要されて撤退し中国に利権を奪われている。

「エコよりエゴ」?


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 日本は当面、環境の「気候変動対策」より経済の「安全保障」と「エネルギー価格」を中心に〝経済効率〟を重視しないと産業界も消費者も立ち行かない。効率だけなら原発再稼働は有効だが外国からの武力攻撃を含めた安全対策に有効な手だてを近隣住民らに示せていない。

 急がれる策は①省エネ+節電で、エネルギー消費量自体を減らす②他国へのエネルギー依存を減らす。つまり自国で作れる再生可能エネルギーを増やすことだ。具体的に住宅ですぐにできる省電力対策は、住宅断熱でエアコンの効きを良くすることと太陽光発電の採用ぐらい。CO2削減には、電気自動車や家庭オール電化も良いが省電力化にはならない。

 国の2030年度政策目標は①自給率を10から30%へ②電力コスト抑制③CO2排出量を13年度比で45%減を掲げている。実際に50年度カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に向け①再生可能エネルギー増加②原発再稼働③火力発電所の脱炭素化(燃料を水素・アンモニアに)を打ち出しているが、ウクライナ侵攻による世界情勢激変で急ブレーキが掛かった格好だ。

 資源のない国・日本にとって〝終わりの始まり〟への回避へ、今こそ正念場だ。