【わかるニュース】世界潮流にあらがう黒田日銀の真意 進む円安 輸入価格上昇が家計を直撃


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 世界的に問題となっている物価高。この急速に進むインフレを抑え込むために、米国や欧州などの中央銀行は、金利引き上げなど金融の引き締めに転じている。

 ところが、日本の中央銀行である日銀の黒田東彦総裁は、世界と逆行してこれまで通りの金融緩和を堅持している。〝金融引締〟は市中のお金を減らし、逆に〝金融緩和〟は市中にお金を増やす原理だから円安が加速。現在の資源エネルギー高に加え、円安によって輸入物価が上昇し、はてしない値上げ攻勢の引き金となる物価高の嵐が日本中を吹き荒れている。

 黒田日銀はなぜ、世界と反する金融政策を取り続けるのか。

いつまで続く円安・物価高長く深い〝アベノミクス後遺症〟の行方

金融政策の構造をおさらい

 まずは、ほとんどの人が難しくてとっつきにくい金融政策の構造を軽く説明しておこう。各国の中央銀行(日本の場合は日銀)は、その国の物価や経済を安定させるのが仕事だ。その方法の一つとして、政策金利を上げたり下げたりする。

 金利の上げ下げが市場にどんな影響を与えるかだが、簡単に言えば、現在の米国のように需要が急に過熱し狂乱物価の状態になると、それを冷やすため金利を上げる。そのメカニズムは、金利を上げて企業が借金をしにくくすることで、需要を減退させ過熱を抑える。反対に、経済が低迷してデフレに陥っているときは、金利を下げて企業が借金しやすい状況を作り出し需要を喚起する。


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地政学的に不利な日欧

 いち早くコロナ禍から脱した米国はインフレの真っただ中。EUを中心とした欧州はロシアのウクライナ侵攻で一気に政情不安定となり経済低迷。日本は低い金利で資金をジャブジャブ市場に供給する黒田日銀総裁の異次元金融緩和が続いている。この結果、円安ドル高というよりも、ドルが円やユーロに対し全面的に高くなっているのが実情だ。ドルとユーロが同額レベルとは以前なら到底考えられなかった。

 米国は続伸するインフレを抑えるため、再三金利の引き上げを行っているが、秋の中間選挙(バイデン与党民主党多数の下院すべてと上院3分の1を改選)に向けて好況感を失いたくないため、さじ加減に苦慮している。

 為替レートは対象国の思惑が一致すれば、相互に協力して売り買いする協調介入が可能だが、コロナ禍で各国とも支出が増え、ロシアに対する距離感も異なるので、今の介入は無理。市場に任せるしかない。投資家は「資産をどこで運用すれば得か?」しか興味はなく、一時は日本円を売ってドルを買うことに熱心だったが、今は債券市場より株式市場に重点を移した。その分、為替の乱高下は一段落している。

 こう見ると、黒田日銀総裁の「今の円安はドルの独歩高」という指摘は正しい。米国は地政学的に国土が多国との戦争に巻き込まれたことがなく今後も同様。地続きで各国がひしめく欧州は、ウクライナ侵攻だけでなく第1次、第2次の世界大戦など過去に何度も戦禍の地となった。日本はすぐ隣に武力行使も辞さない専制国家が居並ぶ。よって非常時に強いドルはこれからも維持される。

インフレでなく物価高

 目標とした「物価2%上昇」を達成しているのに、黒田総裁が「日本はインフレではない」と言い張っている。その言葉は本当だろうか?そりゃそうだ。インフレの定義が、物価と賃金が同時に上昇することなら、今の日本は単なる物価高。円安とウクライナ侵攻による世界流通目詰まりのダブルパンチで、石油や天然ガスをはじめ、いろいろな原材料の輸入価格だけが急上昇。一方で、国民所得はほとんど上がっておらず、皆が「生活が苦しくなった」と感じている。国の対策はガソリン元売り企業に補助金を出して小売価格を抑えているが、目先のごまかしだけで抜本的な構造改革には一向に踏み込んでいない。

 欧州も長引くウクライナ紛争への疲労感がジワジワと拡大。世界をけん引した「脱炭素」の優等生ぶりも、一皮むいた実態は「ロシアからの天然ガスと原発」頼みだったことがバレてしまった。制裁に反発したロシアからガスは来ないし、原発はウクライナ紛争でミサイル攻撃の標的になってしまう。風力や波力、太陽光だけでは質量とも石油石炭には到底及ばない。


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利上げしたくてもできぬ日銀

 なぜ日本は米国や欧州のように金融引き締め(金利を上げて、市中資金を絞る)をしないのか?

 黒田総裁は就任以来、「2%の物価上昇と、持続的で安定的な賃金上昇」を目標に掲げ「概ね2年以内に達成」を唱えていたが、いまだにその片鱗すらない。世界中が金利上げに向かっても総裁は「金利上げだけで円安を止めようとすればすごい率が必要。日本経済へのダメージは計り知れない」と金融緩和継続姿勢を維持している。

 実は簡単に円安を食い止める手だてがある。黒田総裁が来春の任期満了を待たず即刻辞任することだ。世界中の機関投資家は「黒田がいる限り、円安は続く」と読んでいるから、総裁が辞めれば、その衝撃だけで円ドルレートで10円程度引き下げる効果が期待できる。

 もともと超低金利の「異次元的金融緩和」は短い期間でやってこそインパクトがあるが、ダラダラ続けたからありがたみは消えうせた。金融政策によって雇用は確かに正社員と契約社員を合わせて400万人以上増えたが、その間にアベノミクスの第3の矢である「成長戦略」を確立できなかったことが失敗の本質。政界と経済界はこの期間に国際競争力や技術開発に力を入れ産業構造改革を急ぐべきだったのに、相変わらずの公共事業投資と超低利貸し付けで時代遅れ企業を無理に延命させゾンビ化させただけだった。結果として安倍元総理が生前訴えていた「金融引き締めすれば悪夢の時代が来る」との指摘は正しい。

地産地消にシフトの時代

 一般的に円安になると、国内だけで商売をしている中小企業の業績は悪化するが、輸出中心の大企業は潤うから日本全体のGDPは伸びる、という見方がある。日本の製造業はかつて1ドル80円台のころにこぞって中国をはじめとする海外に製造拠点を移した。発展途上国は人件費が安いし、米国の高い関税に苦しむ心配もないからだ。

 しかし時代は移り、5月に成立した経済安保推進法に基づき、半導体や薬品、バッテリーなどの必需品を国内で自給自足する方向に国全体が動き出した。ウクライナ侵攻による経済的ダメージに懲りた各国の地産地消意識はさらに強まる。その背景として、自国通貨が弱いと国際競争力ではマイナスだ。 何も無理に円を高値へ持って行く必要はないが、同一商品で内外価格比較する購買力平価が弾き出した「1ドル88円が妥当」という意識を消費者として持っておくことは大事。

 仮に円安が一段落して今年初めの1ドル115円ぐらいの水準に戻っても、外国人観光客から見たら「日本は物価が安い国」ということになる。海外で超人気のフルーツなど日本農産物の輸出は2021年に初の1兆円を突破した。国は「30年に5兆円」を目標に掲げており新たな商機は広がる。


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岸田の踏み絵は〝ポスト黒田〟

 誰が新総裁になろうが「安倍・黒田のアベノミクス」はもう2度と戻ってはこない。国内消費活性化に最も効果のある施策は、諸外国の例を見ても「消費税減税」とはっきりしている。

 現在の10%を一時的に5~8%にしたら着実に個人消費は伸びる。しかし、それも永久には続けられないから、円安是正との表裏一体での限定的措置しかできない。それでも虎の子の消費税税収に手を付ける事は財務省が絶対に許さない。彼らに言わせると「安倍政権時代に省として散々政治的妥協を受け入れたのは、何のためか分かってるの?」と言うことになろう。

 日本経済は、少子高齢化で縮小し坂道を転がるように落ちている。痛み止めの飲み薬のような小手先対策でしのいで先送りするか、痛みを伴う大手術をして体質改善を目指すのか?

 有権者が参院選で勝たせた岸田政権の手腕に掛かっている。