「分配」から「成長」路線に舵 岸田政権「新しい資本主義」と「骨太方針」を閣議決定

 岸田内閣は6月7日、臨時閣議を開き、経済財政運営の指針「骨太方針」を決定した。岸田文雄首相が提唱する家計に株など金融商品への投資を促す「所得倍増プラン」を掲げ、年末に施策を具体化する。骨太方針の中核となる看板政策「新しい資本主義」の実行計画も決定し、人への投資など重点4分野も示した。7月10日投開票が有力視されている参院選に向けて事実上の政権公約となる。

 岸田首相が当初強調していた「分配」は、財源がないことから色合いは薄まり、分配の財源を生む成長戦略に目配りし、家計の貯蓄を投資へ促す改革に重点を置いた。

 新しい資本主義の実行計画によると、成長の果実が次なる研究開発や設備投資、従業員給料に回るように「目詰まり」を解消して経済を好循環させる狙いだ。政府は参院選後に経済対策を策定し、秋に大規模な補正予算を編成する方針。

新しい資本主義の実行計画と骨太方針のポイント

新しい資本主義

◎家計の貯蓄を投資へ促す「資産所得倍増プラン」

◎個人投資家向けの優遇税制「少額投資非課税制度(NISA)」や個人型確定拠出年金(iDeCo)の65歳以上への拡充。投資促進策は年末までに策定。

◎4つの柱で構成する「新しい資本主義」「人への投資」「科学技術分野への重点投資」「スタートアップの起業加速」「脱炭素・デジタル化」への投資

骨太の方針

◎国際情勢の急変に備えて「防衛力の抜本強化」

◎新型コロナウイルスの感染症対策と経済活動の両立

◎量子、AI、バイオで国家戦略

岸田政権の「資産所得倍増プラン」〝一億総株主〟の狙いは?

「分配の財源」を生み出す成長戦略に

 「中間層の拡大に向け分配機能を強化し、所得を引き上げる令和版所得倍増を目指します」─。昨年9月の総裁選の時点で岸田首相は、企業に賃上げを促すなど「分配」の強化を訴えていたが、「成長の果実というものが経済の循環の中でなければ、人への投資や分配に回すものもない」として、現金や預貯金など約2000兆円に上る個人の金融資産に着目。「1億総株主」へと舵を切った格好だ。

 政府は「貯蓄から投資への流れを作ろう」と、個人投資家が税制の優遇を受けられる「NISA」や個人型の確定拠出年金「iDeCo」の改革を含めた「資産所得倍増プラン」を年末までに策定するとしている。

 通常、株主配当や株を売って儲けた差益は、一律20%の税金が課される。100万円で買った株を120万円で売った場合、儲けの20万円のうち4万円が税金で持って行かれる仕組みだが、年120万円までのNISA枠で買った株に関しては、配当も譲渡益も5年間非課税になる。計画ではこの上限枠を引き上げる案がある。

投資比率の低い日本人

 確かに個人の金融資産を欧米と比べると、日本は現金・預金の割合が50%以上を占め、投資信託や株式などの割合はわずか10%ほど。対して米国は金融資産の半分近く(約45%)を投資信託や株式に回している。欧州も約26%で日本に比べ高い。

 この結果、米国は20年間で家計金融資産が3倍、英国では2・3倍になっているが、日本は1・4倍に留まる。しかも実際に日本で株を持っている個人の割合は10人に1人。その多くは資産をある程度保有している層だ。

 実行計画の考えでは、家計が豊かになるために預金が投資に向かい、企業価値向上の恩恵が家計に及ぶ好循環を作るとしている。

1000兆円をたたき起こし、市場を活性化

 過去最高の2023兆円に上る個人金融資産。このうち、現預金として眠る1092兆円をたたき起こし、市場を活性化するのが狙いだが、心配な要素もある。それは株を買えるほどお金に余裕のある層ばかりではないからだ。

2割は貯蓄ゼロ世帯

 金融広報中央委員会がまとめた「家計の金融行動に関する世論調査2021年(二人以上世帯調査)」によると、貯蓄ゼロの世帯が22%に上っている。これが単身世帯(20年調査)になると、無貯蓄は全体の36・2%と跳ね上がり、特に20歳代や定年間近の50歳代は4割以上が無貯蓄の状況だ。「収入が上がらないなか、投資できるような余裕資金はない」と賃上げへの取り組みを求める声が強い。

 岸田政権は、本来こうした人々への「分配」を主眼としていたはずだが、こうした世帯ほど投資に回せるお金がないのも事実だ。となれば、株式を通じた企業の成長の果実が「分配」されないことになる。

 やはり、勤労所得が安定的に増えなければ、絵に描いた餅になりかねない。持つ者の投資で市場が活性化され、目詰まりを起こしている賃金アップにうまく向かってくれることを期待したい。