【外から見たニッポン】アメリカで横行する略奪行為 根っこに潜む人間教育

被害総額14兆円─。

2022年にアメリカで盗難や万引きなどの略奪行為を受けた小売店の被害総額です。23年の日本の防衛費が7兆円弱ですから、その2倍以上のとてつもない額と言えます。

略奪は全米の大都市に広がっていますが、万引きと言っても日本のようにコソコソと盗むのではなく、堂々と店内に入って集団で万引きをする、もはや強盗と言えるレベルの犯罪が急増しています。

犯罪者は拳銃を所持している可能性もあることから、店員や客の安全を優先し、店側は犯罪を目撃しても見て見ぬふりをするよう指示しているケースがあり、泣き寝入りせざるを得ない状況です。このため、閉店してしまった店や倒産したビジネスは後を絶ちません。

背景にあるのは急激なインフレによる生活苦や、コロナ禍を経てインターネットでの転売が容易になったことなどが挙げられています。

アメリカでは日本と比べ物にならないほどの物価高が続き、広く国民にダメージを与えています。所得が上がっているとはいえ、すべての人が恩恵を受けているわけではありません。低所得者や十分な教育を受けていない人、特に若者が犯罪に走る事態に陥っています。

アメリカは格差社会です。経済的にも教育的にも、社会的地位においても大きな格差が存在します。人種や出身国などの差別もあります。短期間の滞在では気づきませんが、アメリカ社会で暮らしてみると肌で感じることができます。

日本も格差が問題になっていますが、アメリカと比べれば誤差の範ちゅうです。確かに、以前より貧富の差は開き、低所得者層が増えているのも事実でしょう。

しかし、日本は貧困層といわれる人々も義務教育を通じ、親や社会生活を通じて最低限の教育は受けられる環境にあります。人としてのモラルや自制心などを身につけられるから、生活が苦しくなっても暴動や略奪行為に走ることがありません。

アメリカの公立学校は州や地方政府単位で運営されており、授業レベルや学ぶ内容に大きな差があります。貧困層や低所得者の多い地域では、まともに学校に通わない、通えない子どもたちも数多くいます。

その子どもたちの周りにいる大人は平気で法を犯し、犯罪で生計を立てていたりします。そんな環境で育った子どもたちに、「他人の物を盗んではいけません」と教えてもなかなか理解されません。

子どもの成長は環境に大きく左右され、育てられたように育つ、と言うことをアメリカで起きている事実が教えてくれます。

日本のニュースで略奪が報じられるときは、犯罪者の顔にモザイクがかかっていますが、アメリカではモザイクはありません。個人の顔や人種などが判別できるので、育った環境が透けて見える気がします。

経済問題、教育問題、移民問題、人種問題…。さまざまな問題が複雑に絡み合い、結果として噴出するのがこの略奪行為なのです。

幸いにも今の日本では、こうした悲惨な事態を目にすることはありません。しかし、その兆しがないとは言えない。子どもたちをどう育てていくかを社会全体でしっかり考えなければならないと強く感じます。

【プロフィル】Spyce Media LLC 代表 岡野健将 ニューヨーク州立大ビンガムトン校卒業。経営学専攻。ニューヨーク市でメディア業界に就職した後、現地で起業。「世界まるみえ」「情熱大陸」「ブロードキャスター」「全米オープンテニス中継」などの番組製作に携わる。帰国後はディスカバリー・チャンネルやCNA等のアジアの放送局と番組製作。経産省や大阪市などでセミナー講師も担当。文化庁や観光庁のクールジャパン系プロジェクトでもプロデューサーとして活動