カスハラ対策が必要な日本、原因はどこに?

 10月1日からカスハラ対策法が施行された。この法律では、企業はカスタマーハラスメントから従業員を守るために対策を施したり、被害に遭った従業員の相談窓口を設置しなくてはならない。
 何ともせちがらい世の中になったものだ。「お客様は神様」といったあの人はどんな気持ちでいるのだろうと心配になる。
 時代は変わったとは言え、我々日本人はどうしてしまったのだろうか? 何か大事なものを失ってしまったのだろうか? 今では客はモンスター化し、ハラスメントの加害者だと認識される存在になった。確かに昔に比べて理不尽なクレームや苦情をいう客が増えたのは事実。そう呼ばれても仕方ない部分はある。
 問題はその裏に何があったのかだ。客として訪れる我々日本人は、理由もなくモンスター化してしまったのか? そうではないと思う。筆者が日米間を行き来していた頃、久々に日本へ帰ってくると、サービスの質の低下やサービスをする人間の質の低下に驚かされることがあった。それから年月が経つが、一段とひどくなっていると感じる。
 社会が人を育てず、就職しても企業が人を育てず、採用後に即現場に人材を配置し、「仕事ではなく辛うじて作業をして、その場をこなしている」ということがサービス低下の大きな要因だろう。効率化や費用対効果を追求しすぎた末路とも言える。
 対して、我慢できない人が増え、彼らがモンスター化し、カスハラと呼ばれる行為を行っている。特に高齢の男性に傾向が多いのは統計でも明らかになっている。
 退職して会社から離れると社会から孤立してしまい、行き場のないモヤモヤや、社会人時代の経験から気に入らないと感情をすぐに表に出してしまう。ここにも孤立化という社会問題が潜んでいる。
 忍耐力の低下、許容力や包容力の欠如などとともに、自由の履き違いや義務を無視した権利の振りかざしによる横暴な行動もよく目につく。これは教育や道徳観の欠如だろうか。
 米国にも理不尽な難クセをつける人はいたが、理路整然と説明すると理解するケースもあり、日本のような土下座や金品を要求したり、身の危険を感じさせる態度に出ることは少ない。
 なぜなら、一線を超えたと判断されるとスタッフが銃などで反撃してくる可能性もあるからだ。「自分の身は自分で守る」だ。
 また、企業も犯罪があったり、不当な対応を求められたら、その場から逃げても良いという指示を出しているので、スタッフが土下座をするようなところまで追い詰められることはない。社内ルールが明確でわかりやすい。
 日本でも法律は施行されたが、現場ではどう対応したらいいのかかなり手探り状態のようで、どのような場合がカスハラに該当するのかが明確になっていない。玉虫色の文章と責任の所在をはっきりさせない官僚のなせる技が原因だろう。
 また、パワハラやセクハラのように被害者と加害者の両方が社内の人間というわけではなく、来店客や取引先など社外の人間が対象になっていることも、現場を混乱に陥れる原因になっている。
 今年4月から施行された自転車の運転に関する法律も施行まではニュースになったが、実際に施行されると現実を無視した内容だったことも災し、今ではすっかり形骸化してしまっている。
 カスハラ法もそんな法律の一つになっていくのではないか。今から危惧してしまう。

【プロフィル】岡野 健将 米ニューヨーク州立大ビンガムトン校卒業。経営学専攻。NY市でメディア業界に就職後、現地で起業。「世界まるみえ」「情熱大陸」「ブロードキャスター」「全米オープンテニス中継」などの番組製作に携わる。帰国後、ディスカバリーチャンネルやCNAなどのアジアの放送局と番組製作。経産省や大阪市等でセミナー講師を担当。文化庁や観光庁のクールジャパン系プロジェクトでもプロデューサーとして活動。
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