「社員の姿勢が変われば、企業が変わる」 整体師・植屋浩幸さんが広める姿勢経営 大切なのは〝数字〟より〝あり方〟

 「会社にも、いい姿勢と悪い姿勢があると思うんです」 そう語るのは、枚方市で「整体院スリーバランス」を営み、20年以上も人の体と向き合ってきた植屋浩幸さん。8月25日には3冊目となる著書「企業の傾きは社員の姿勢から」を出版。売上や利益ばかりを追う企業が目立つ時代に、「何のために働くのか」「会社は何のために存在するのか」という「あり方」に目を向ける「姿勢経営」を提唱している。(佛崎一成)

比叡山高校時代の野球部のユニフォームをバックに話す植屋さん。甲子園には春5回、夏8回出場した滋賀県屈指の伝統校だ

 ─新著では「姿勢経営」という言葉を掲げている。どのような考え方なのか。

 人間の体に良い姿勢と悪い姿勢があるように、企業にも良い姿勢と悪い姿勢があると気付いたのが出発点です。
 姿勢は背筋を伸ばすといった身体的なことだけでない。心の姿勢、仕事への姿勢、人と向き合う姿勢、企業が社会にどう役立つのかという姿勢まで含んでいる。
 実際に、企業は理念や社是を掲げているが、その通りに行動できていない企業もある。人が入れ替わっても、代替わりしても、M&Aで経営主体が変わっても絶対に変わってはいけないもの。それが企業の「あり方」、つまり姿勢だと思うんです。

 ─現代は売上や利益ばかりを追いかける企業が目立つように見受けられるが、本当に大切なことは他にあるわけか。

 私が師匠から教わったのは、「見えるものは2割、見えないものが8割」という考え方です。売上や業績、お金は目に見えるものだが、信頼や感謝、礼儀、人への思いやりなどは見えにくい。
 この中で、経営者はどうしても見える数字を追いがちです。それ自体が悪いわけではないが、何のために数字が必要なのかの目的が抜け落ちているケースが多いように感じます。
 私はよく「目標と目的は違う」と言います。数字などの目標は、目的地へ行くための目印に過ぎない。目標の数字を達成して、誰を喜ばせたいのか、何を実現したいのか。これをセットで考えないと社員や取引先などの関わる人々は動かない。結果、事業も行き詰まっていく。
 実際に新設企業やベンチャーの20年後の生存率は0.3%程度です。だからこそ、「姿勢経営」を取り入れ、企業を健康にしていくことが必要だと考えています。

 ─そう悟ったのは、植屋さん自身の挫折経験が大きいと聞く。

 おっしゃる通りです。私は30歳で独立し、京都でケーブルテレビ関連の施工会社を経営していました。当時はテレビ放送がアナログから地上波デジタルに切り替わると同時に、マンションも次々に建設されていた時代。電波障害対策の仕事がひっきりなしに入ってきました。
 営業しなくても仕事が来るような状態だったので、ずさんな経営状態でした。高級車を乗り回し、高級腕時計をつけて、連日祇園を飲み歩くような生活です。
 ところが、ある時から資金繰りに苦労するようになった。帳簿は黒字なのに入金よりも先に部品代や職人への支払いがやって来る。いつしか1億円の借金を抱えて倒産。私自身も自己破産してしまった。当時は世界で一番、自分が不幸だと思っていました。

 自己破産したら本当に何もなくなるんです。ポケットに50円しか入っていない時もあった。バスにも乗れないから歩いて本屋へ行き、一日中立ち読みしていました。それまでほとんど本を読んでいなかったのに、むさぼるように読みました。

 その中で学んだのが「まずは言葉を変えなさい」ということです。

 不平不満や愚痴、他者の文句ばかりを口にしていたら、考え方もそちら側へ引っ張られてしまう。だから、「ついてる」「うれしい」「楽しい」「感謝」「幸せ」「ありがとう」「許します」など、自分が発する言葉から変えていきました。

読書家でもある植屋さん。院内には利用者に貸し出している本棚があり、有名人からのサインも


 以前は「どうやったら売れるか」「どうやったら儲かるか」と、目に見える結果ばかりを追いかけていた。しかし、本来なら人にどう接するのか、感謝できているのか、相手にまた会いたいと思ってもらえる人間なのか、を整えないと、どんな技術や経営手法を覚えても長くは続かない。
 私が学んだのは、難しい経営理論やテクニックではなく、「ありがとう」と言えるか、約束を守れるか、人を大切にできるか、という自分自身の「あり方」でした。
 そこに気付いてから私の再出発は始まりました。

 ─その後は整体の世界に入るが、整体師としての経験が「姿勢経営」にどうつながったのか。

 私の整体院はちょっと変わっています。利用者に「痛みが取れたら何をしたいですか」と聞くんです。
 例えば、腰痛で来られた利用者の本当の目的は、腰痛を治すことではないかもしれない。「もう一度登山したい」「孫を抱っこしたい」ということかもしれない。腰痛の改善は目標で、本当の目的はその先にある。その目的が分かれば単に来院時に施術で痛みを改善するだけでなく、「家ではこういう風に取り組んでください」「靴を替えましょう」などのサポートができます。
 20年以上、利用者と接しているうちに、「これって企業も同じだな」と思うようになったんです。会社も社員も、何のためにそこへ向かうのかが分からなければ、なかなか力は出せないんです。

 ─企業にはどのように「姿勢経営」を導入するのか。

 タブレットを使った姿勢分析で、猫背になっているとか、体がどちらに傾いているとかを見てもらいます。結果を点数化して、必要なストレッチなどを伝えていきます。
 デスクワークの人なら、長時間パソコンに向かい、首が前に出た状態が続く。すると首や肩がしんどい、頭が痛い、目の奥が疲れるといった症状が起きる。そんな状態で仕事を続けたら本人もつらいし、ミスも出やすくなる。会社にとっても良くありません。
 だから、まず自分の体に気付いてもらう。そこから心の姿勢や仕事への姿勢、組織としての姿勢へ広げていくんです。

 ─健康経営に取り組む企業は表面上は増えているが、形だけの会社も多いように感じる。

 確かに、健康経営に取り組んでいるとは言っても、助成金ねらいや、外からどう見られるかなど本来の目的とは違うケースが見受けられます。
 健康経営というと、経営者の中には「コスト」と考える人もいます。でも本当はコストではなく投資です。社員が元気に働ける。集中して仕事ができる。コミュニケーションが活発になる。そのためにお金や時間を使うのは、企業の未来への投資のはずです。

 ─「姿勢経営」は単なる健康づくりではないと。

 そうです。体の健康だけでなく、私が最終的に伝えたいのは「あり方」です。
 同じ会社に出勤して、与えられた仕事だけをして、隣の人が困っていても関係ない。それでは組織として強くならない。
 礼儀や感謝、あいさつ、義理人情を大切にしながら、社員一人ひとりが会社の目的を理解する。その土台がしっかり整った結果、売上や利益などの〝見えるもの〟が生まれる。それが私の考える姿勢経営です。

院内には、施術した利用者から届いた数多くの手紙が掲示されている

 ─今回の本も、その考え方を広めるために書いたのか。

 本を出すこと自体が目的ではないんです。本を読んだ経営者が「うちの社員は本当に元気かな」「会社として何を大切にしているのか」と一度立ち止まって考えてもらえれば。
 健康を損なえばお金を稼ぐこともできないし、家族と旅行にも行けなくなる。社員本人が健康でも、親の介護が必要になって仕事を続けられなくなる「ビジネスケアラー」の問題もあります。
 これからは会社だけで全部解決するのではなく、行政や地域も一緒になって、働く人を支える仕組みが必要になると思っています。
 社員が元気になれば企業が元気になる。企業が元気になれば地域も元気になる。そのバトンをつなげていきたい。

 ─当面のビジョンは。

 2035年までに全国1000社への導入を目指しています。1000社に導入されれば、未導入の企業にも関心が高まって導入が進み、一気に普及すると考えているからです。
 もちろん、今の僕一人の規模では到底できません。だから、考え方を共有してくれる整体師や柔道整復師、理学療法士など若い仲間も育てていきたい。
 私もあと8年で70歳です。今と同じようには動けなくなる。しかし、私が動けなくなっても考え方が残り、次の世代に姿勢経営を引き継いでもらえれば、それが一番いい。
 姿勢を整えることで人は元気になる。人が元気になれば会社が元気になる。そして会社が元気になれば地域も元気になる。
 「姿勢から日本を元気にする」。そこを目指して活動を続けていきます。

院内には大型の酸素カプセルもある

植屋さんプロフィル

 整体師として20年以上、利用者の体の痛みや心の痛み、不調を改善してきたのに加え、「姿勢」が人生や仕事に与える影響を研究・実践。企業の健康経営の支援や、スポーツチームへのコンディショニングサポート、自治体や企業での講演活動、整体師育成スクールも行う。8月25日には3冊目の著書「企業の傾きは社員の姿勢から」を出版。自らが提唱する「姿勢経営」を普及し、社員が健康でいきいきと働ける職場を全国へ広げている。

整体院スリーバランス/大阪府枚方市南楠葉1−13−5 サウスコート102/フリーダイヤル(0120)867358

夏の甲子園でベスト8になったときの記念ボール
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