ホテル不足が続く札幌で、民泊対応型の分譲マンションが大阪の経営者や投資家の視線を集めている。背景にあるのは、夏の避暑、冬のスキーや雪まつりで宿泊料金が跳ね上がる札幌特有の季節需要だ。民泊新法による「180日縛り」は本来、収益面の足かせとされてきたが、札幌では繁忙期を民泊、残る期間をマンスリーマンションとして貸す〝ハイブリッド運用〟が広がりつつある。インバウンド回復と不動産投資熱が交差する現場を追った。(佛崎一成)

「札幌市内の宿泊施設は需給がひっ迫しています。その受け皿として、民泊を営業できる分譲マンションを売り出していますが、販売は好調です」
JR札幌駅近くの民泊対応型の分譲マンション「モンドミオ札幌駅 北九条」の販売担当者は、こう話す。
同社は民泊運用のできる分譲マンションを北海道内でいち早く手掛けており、2019年に「モンドミオ札幌 近代美術館」を竣工。23年には繁華街「すすきの」に2棟目となる「モンドミオ札幌 南三条通」を完成させた。いずれも販売は好調で、現在は4棟目の「モンドミオ」シリーズに取りかかっている。
関西の経営者や投資家からの問い合わせも多く、7月17.18の両日には大阪での説明会も開く予定だ。
札幌を中心に180の民泊を運営代行するコハビホームの営業担当者によると、「部屋の属性によって差はあるが、我々が運営する民泊物件の稼働率は9割前後となっている」と、民泊対応型マンションの好調ぶりを裏付ける。
ハイシーズン狙い民泊運営
民泊といえば、以前は旅館業法(簡易宿所)を取得してマンションを1棟ごと民泊にし、365日フル稼働させるやり方が目立った。しかし、急増する外国人旅行客への対応や、無許可で営業する「闇民泊」の排除などを目的に、18年に民泊新法(住宅宿泊事業法)が施行。以前のように旅館業法の厳しい許可を取らなくても都道府県などに『届出』するだけで、一般のマンションや戸建てで合法的に民泊をスタートできるようになった。
しかし、既存のホテルや旅館との競争を制限するため、1年の半分しか民泊運営を認めない、いわゆる「180日縛り」がルール化された。このため、「収益的には厳しくなる」とも言われてきた。
それなのになぜ、札幌で今、民泊対応型の分譲マンションが売れているのか。
モンドミオの販売担当者は「札幌では、1年の半分を民泊、残り半分を短期賃貸で貸し出すハイブリッド運用がピタリとハマる」と明かす。
実は、札幌エリアで宿泊料金が高騰する季節は、夏の避暑期の7〜9月と、スキーなどで来道者が増える12〜2月の約半年間だ。
この時期になると、札幌は宿泊場所が慢性的に不足する。コハビホーム営業担当者によると「閑散期に比べて宿泊料金が1.5〜3倍程度に跳ね上がるケースも少なくない」という。「特に雪まつりや夏休み、年末年始、大型ライブ、学会、スポーツイベントなどの期間は単価が上がりやすい。この需要期に民泊営業日を充てることが収益面では重要」と話す。

加えて、ビジネスホテルなどにない民泊ならではの強みもある。
札幌市によると、25年6〜7月の民泊宿泊者の67.5%が外国人宿泊客。つまり、民泊利用者の多くは外国人ということだ。市内の不動産業者によると「訪日外国人客の多くは4人などの複数人で同じ部屋に泊まりたいニーズが高い。このため、ホテルの一般的な1室2人がハマりにくい面がある」と理由を明かす。
また、日本人に比べ外国人は長期滞在が主流。札幌市のデータでは、日本人の平均宿泊日数が1.7泊なのに対し、外国人は3.5泊。「弊社が運営する民泊も、外国人のお客様は3泊以上が多い。中には1カ月ほど滞在される方もいる」(コハビホーム営業担当者)。
閑散期は短期賃貸
約半年ある札幌の宿泊ハイシーズン。それが民泊の「180日縛り」とちょうど重なり、効率よく稼げることはわかった。
では、残りの185日はどう使われているのか。
コハビホームの営業担当者によると「マンスリーでの運用が代表的」という。
実は、札幌は観光地の顔に加え、人口約197万人の北日本最大都市の側面も持つ。このため、夏と冬の観光シーズン後には、それぞれ秋と春の異動シーズンが訪れ、マンスリー賃貸の需要が高まるという。
市内の別の不動産業者は「マンスリーは敷金・礼金など初期費用が不要なことが多く、家具や家電もついているのでとりあえずの住まいとして人気がある。その分、通常の賃貸より1.5〜2倍の賃料が得られるし、家賃が先払いなので滞納もない」と利点を話す。
外国人宿泊17%増 流れ込む外国人マネー
民泊とマンスリーのハイブリッド運用が活況を呈している札幌。とはいえ、宿泊需要は今後も続くのか。
北海道の観光入込客数は年間5000万人。都道府県順位では5〜7位前後に甘んじるが、そもそも入込客数は隣県からの買い物やビジネス移動もカウントされるため、北海道など目的を持ってやって来る都市と違い、行き来の激しい東京や大阪などの大都市が上位を占める構造になっている。
一方で、宿泊ビジネスの実利を測る「宿泊客数」や「消費額」に目を転じると、北海道の潜在能力の高さが浮かび上がる。
観光庁によると、外国人観光客1人あたりの消費額で北海道は約15万円。東京に次ぐ全国2位で、大阪の約9.8万円を大きく引き離している。加えて、北海道全体の延べ宿泊者数のうち、約4割は札幌市内に集中している状況だ。
直近の動向も民泊市場には追い風だ。札幌市によると、25年度上期(4月〜9月)の来札観光客全体は前年同期比3.1%と微増に留まるが、外国人宿泊者数は同17.2%増(約94.1万人)と大きく伸びている。
コハビホームの営業担当者は「確かに、札幌は観光都市として成長しているが、市内にはビジネスホテルや外資系ホテルが次々と開業している。つまり、以前のように『民泊を開けば儲かる』という単純な市場ではなくなってきた」と指摘。その上で「今後はホテルとの差別化が重要。ホテルが対応しづらい最低3人以上、可能なら6人以上がゆったり滞在できる民泊が、引き続き高い収益を上げやすいと考えている」とアドバイスする。
新幹線延伸でニセコの受け皿にも
ただ、札幌は潜在能力をこれから発揮するかもしれない。38年度末頃の北海道新幹線の札幌延伸が控えているためだ。開業すれば現在2時間以上かかる札幌─倶知安(ニセコ)の所要時間が約25分の日帰り圏内に短縮し、「(札幌が)ニセコの宿泊の受け皿になれる可能性が高い」と期待する市内の宿泊業者も。

建築コスト増や物件価格の高騰を背景に、都市部の一般的な賃貸運用の利回りは3%台に沈むことも少なくない。こうした中、札幌の民泊とマンスリーのハイブリッド運用が、新たな利回りの良い不動産投資先として注目されそうだ。
