築60年の文化住宅を改修し、シニア女性と外国人留学生が同居するシェアハウスが大阪市住吉区にある。世代や国境を超えた交流で高齢者の孤立を防ぐ、新たな空き家活用として注目されている。

築60年住宅に新たな息吹 大阪・長居に世代と国境超えるシェアハウス
大阪市住吉区長居に、60歳以上の女性と留学生女性専用のシェアハウス「コモンフルール」がある。築60年を超える文化住宅をリノベーションし、2021年6月に開設。1階にはシニア女性、2階には留学生女性が入居し、世代や国籍を超えたゆるやかなつながりが生まれている。空き家活用と、単身高齢者、留学生の住まいの課題に向き合う取り組みとして注目される。(加藤有里子)
空き家再生で孤立防ぐ
運営するのは、コモンパークス(生野区)の松尾重信代表。不動産売買や賃貸管理、老人ホーム紹介事業などを手掛けてきたが、シェアハウスの運営は初めてだという。
建物は、1962年に建てられた木造2階建ての文化住宅だった。所有者は80代で、維持管理が難しくなり、相談を受けたことがきっかけだった。松尾さんは「解体して新築するか、駐車場にするのが一般的だが、空き家を活用し、リノベーションしてみたかった」と話す。
ただ、改修は容易ではなかった。部屋によっては5年以上空き室となっており、建物は想像以上に傷んでいた。梁が入っていない箇所や、シロアリの被害で柱が失われている部分もあった。複数の建築士に相談したものの、改修を断られた。それでも諦めきれずにいたところ、大正区の築古長屋再生に関わったプロデューサー、川端祐子さんと出会い、大阪市立大(現・大阪公立大)建築計画・構法研究室との連携につながり、再生に向けたプロジェクトが動き出した。
改修にあたり、古い建物の趣を残しながら、明るく暮らしやすい空間づくりにも力を入れた。文化住宅だった当時は採光が少なく、暗い部屋も多かったが、天窓を設けたことで、建物全体に光が入るようになった。
暮らしのルールは入居者同士で
1階にシニア女性向けの個室3室、2階に留学生女性向けの個室6室を設けた。それぞれのフロアに、リビング、トイレ、浴室、洗面台などの共用部があり、個人の生活を重視しながら、自然に交流が生まれるよう工夫している。

入居対象を60歳以上の女性と留学生女性にしたのには理由がある。高齢になると、死別や離婚などで一人暮らしの女性が増え、住まいの確保や日常の孤立が課題になりやすい。一方、留学生も、慣れない土地で孤立しやすい。松尾さんは、カンボジアの日本語学校を訪れた経験から、留学生の暮らしに関心を持つようになった。
「カンボジアの若い人たちは純朴で人懐こく、高齢者を敬う気持ちもあり、希望を感じた。夢を持って日本に来た人たちが、気持ちよく暮らせる家を提供できないかと考えた」と松尾さん。
取材時には、1階で暮らす女性が自室で仕事をし、2階では韓国からの留学生が通学の準備をしていた。コモンフルールは、介護や見守りサービスを提供する施設でも、学生寮でもない。あくまで、それぞれが自立して暮らす住まいだ。
基本的なマニュアルはあるが、掃除の分担など日々の暮らしかたは、入居者同士で話し合って決める。松尾さんの訪問は月に1、2回ほど。必要以上に干渉せず、困りごとやトラブルがあれば対応する。「ほどよい距離感」が、世代や国籍の異なる人たちの暮らしを支えている。
同じ建物の中で顔を合わせ、時には一緒に食事をしたり、季節の行事を楽しんだりする。留学生にとっては、日本語や日本の生活文化に触れる機会になり、シニア女性にとっては、若い世代との交流が日々の刺激にもなる。互いの暮らしを尊重しながら、困ったときには声をかけられる距離感がある。
6月15日には、「5周年・特別見学会」を開催し、定員20人を超える26人が参加した。
コモンフルールは、国土交通省「人生100年時代を支える住まい環境整備モデル事業」にも選定された。今年5月に開催された「全国不動産コンサルティングフォーラム」では、同シェアハウスの取り組みについて発表した。
「シニアと留学生に限らず、シニアとシングルマザーなど、多世代を組み合わせる住まい方には可能性がある」と意気込む松尾さん。空き家を活用しながら、孤立や住まいの不安といった社会課題に向き合うモデルとして、取り組みを広げていきたい考えだ。
同社の取り組みは、空き家の活用にとどまらず、高齢者の孤立や留学生の住まいといった日本社会の課題に向き合う、新たな住みかたの一例となっている。


