大阪・中津の路地裏に国産うなぎあり! 工場直売やってます

こんなところに名店が【灯台もと旨し】 猫田しげる

 これは事件だ。

 地下鉄中津駅すぐの路地裏にあるうなぎ工場『鰻萬』が、直売を始めたのだ。うなぎの蒲焼きやうな丼、弁当などを一般人も購入できるようになった。ある時、いつものように『鰻萬』を通りかかって「工場直売」の看板を見つけた私は小躍りした。周囲に鼻息荒く話したが、「へー…」と誰もがうっすい反応だった。うなぎ感度が低すぎる!

 ここは長らく謎の建物だった。場所は『天下一品』のあたりから路地に入った白い3階建てのビルで、表に小さく「鰻萬」と書いてあり、たまに鰻を焼く香ばしい匂いが漂ってくる。だが、売ってはいない。こんなに良い匂いをさせるなら直売ぐらいしたらいいのに。そう勝手に憤慨していたし、誰もが同じ願いを抱いていると信じていた。

多分誰もが、「あ~あの建物ね!」となる、路地裏の白いビル

 うなぎの弁当は前日までの予約制。ちょっと面倒だなと思いながら、さっそく電話してみた。なんとしらす蒲焼丼は1080円。せっかくなのでイチオシというでしこ弁当2160円と、だし巻き玉子200円(!)を注文してみる。「でしこ」とは、浜名湖のブランドうなぎの名前だそうだ。浜名湖産でこの値段?と訝しささえ覚える。「何時頃来られますか?それに合わせてご飯を炊いて、鰻も温めるので。だし巻きも作り立てをお渡しします」。えっ。私だけのために作ってくれる?お母さんか?もう訳が分からない。

しらす蒲焼丼1080円も。もちろん国産うなぎ
でしこ弁当2160円はうなぎ肝焼も付いてお得。肝焼は300円で単品販売も。タレは別添なので好みで濃さを調整できるのが良い

 当日、ブツの受け渡しは工場入り口に置かれた机の前で行われた。作業着姿の男性が奥から白い袋に入ったブツを持ってきた。本当にホッカホカだった。PayPayが使えた。私はキツネにつままれたような気分で近くのベンチで弁当とだし巻きを食べた。ちゃんと旨い……。でしこうなぎが半身のっていて、肝焼きがデカい。蒲焼きは関東風に蒸してから焼き上げており、タレは醤油系の大人向けの味だ。

だし巻玉子200円は本当にサービス価格
うなたま弁当1277円はだし巻玉子も楽しめる欲張りな内容

 色々聞きたいことがあったので後日、取材した。なんでも代表の石山智浩さんは、父の代から続くうなぎ卸の仕事を受け継ぎ、2006年に会社を創業した。父の時代も合わせると、鰻業界で65年以上の実績があるという。その長年の産地とのつながりがあるため、浜名湖や愛知、鹿児島などから質の良い鰻を仕入れられる。いま鰻は手に入りにくいと言われるが、「うちは仕入れに困ったことはありません」と石山さん。

でしこ弁当2160円はうなぎ肝焼も付いてお得。肝焼は300円で単品販売も。タレは別添なので好みで濃さを調整できるのが良い

 このうなぎたちがどこへ旅立つかと言うと、なんと阪急百貨店。実は、『鰻萬』は阪急百貨店のうめだ本店にレストランと売店を出店し、千里阪急、川西阪急にも弁当や総菜などの店を構えている。中津の工場で一手にさばき、調理し、出荷する。レストランには活を運んで店でさばく。

 工場では、トラックで運ばれてきた活うなぎを水槽で泳がせ、朝5時ごろから職人がさばき始める。暴れるうなぎを一瞬で背開きにし、一尾ずつ串を打つ。尾に近づくほど身が薄くなるため、串が突き抜けないよう慎重に打つのが難しいという。関東風なのでまず素焼きし、せいろで約30分蒸してから、タレにくぐらせて再び焼く。もくもくと煙が上がる中、こまめに位置を替え、焼きムラを防ぐ。だから身はパリッと香ばしく、中はふっくら仕上がる。

水槽で泳ぐうなぎ。身がしっかりしている

 直売を始めた理由は「近所の人から『売ってくれへんの?』と言われたから」と石山さん。やっぱりなー!だって、毎日これだけ良いうなぎの香りが漂っていたら、そりゃテロですよ。うなテロ。とは言わなかったが。

 うなぎの蒲焼きは予約不要で販売しており、真空パックなので日持ちが長い。そして今、石山さんが売り出したいのが「スキンパック」だという。空気を抜く真空パックとは異なり、特殊なフィルムを熱で密着させ、形を保ったまま密閉する方法だ。乾燥を防ぎ、風味の劣化を抑えられるため、ふっくら柔らかい焼きたての味を持続できる。真空パックに比べて2割引きなので断然お買い得。贈答用にも良さそうだ。

「贈答用にも人気です」と石山さん

 中津界隈に住む人、働く人は、まず看板を探してほしい。火・木・金曜の11~13時、工場入り口で販売している。弁当と丼は前日までの予約制だが、肝焼き、だし巻玉子、かばたま、パックの蒲焼きなどは予約なしでも買える。ランチの一品にも良い。

 土用丑の日は過ぎたが、うなぎは年中食べたいもの。オフィスランチにうなぎ弁当なんか持って現れたら、「デキる奴」と尊敬の的ですよ。

うなぎの真空パックは予約不要で買える。スキンパック半身1200円~

■鰻萬/大阪市北区中津1-13-9/☎090(7878)5223
【販売・受け取り】火・木・金曜11:00~13:00
※弁当・丼は前日までの予約制
https://unaman-d.com/

猫田しげる 20年以上、グルメ誌、旅行本、レシピ本などの編集・ライター業に従事。各地を転々とした挙句、現在は関西在住。「FRIDAYデジタル」「あまから手帖」「旅の手帖」などで記事執筆。めったに更新しないブログ 「クセの強い店が好きだ!」もどうぞ。SNS苦手。

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